進化する生物たち4
次の日、俺は心地よい朝の日差しを感じて目が覚めた。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
ここ二日、早く帰るために張り切ってたからな……、まあ疲れが溜まっていたのだろう。
幸い今日は休日だ、目覚ましをセットしわすれていたがそう慌てることもない。
「さて、確か昨日はクジラ戦でイベントが発生して英雄が生まれたはずだが、その後の世界はどうなっているかな……」
スマホを確認すると、なんとまだ小さいながらも人工的な建物のある村が誕生していた。
それも一つや二つじゃない、世界中のいたるところで文明が発展している。
「おお、すげぇ成果だ。でもやけに急に発展したな」
不審に思った俺はログを確認する。
するとどうやら、あの日進化を果たした人類、ヒト族・英雄のダーマと、ハイ・エルフ族のララがその後もクジラを狩り続け、人類の躍進に貢献したことが窺えた。
力無き者を守らんとする二人は周囲の穴倉で暮らしていた人類を集め、もう外敵に怯えることはないと力を示し、少しずつではあるが生活に余裕を持たせた事が原因だ。
暮らしの余裕は知恵をつける時間と機会を与え、知恵をつけた人間が道具を発明し、そしてその道具を武器にさらなる余裕を生活に与えた。
その頃には強化人間であるヒト族・英雄のダーマは寿命で死んでしまったみたいだが、幸いハイ・エルフに進化したララは未だに寿命が訪れてはおらず、今では人間の守護者として一種の象徴のようになっているらしい。
そしてこれが切っ掛けとなったのか、他にも目を離した隙に勝手に上位種族に進化した人類もちらほらと出現し、あちこちで文明を発展させたとログにある。
もちろん俺が人為的に起こした奇跡のように一瞬で進化とはいかなかったみたいだが、長い年月をかけて突然変異のような形で現れることもあるようだ。
「ほえ~、すごいなこれは。もう原始時代とは言えないぞ」
まだしっかりとした布製品は見かけないが、獣の皮などでつくられた服や防具、そして青銅で作られた金属製の武器がある。
もう立派な文明だ。
森では長きを生きるハイ・エルフの『ララ・サーティラ』がエルフの集落をまとめ、岩山にはハイ・ドワーフが、草原には天獣人が、そして平野には新たなヒト族の英雄が複数の集落を管理し、小さいながらも疑似的な国のようなものを作り上げていた。
他に上位種族の現れていないような人間種も、それぞれの住処を作り文明を形作っている。
壮大なスケールだ。
だが、不思議なことにいつもの『イベントクリア!』の文字がログに残っていなかった。
人類で初めてキャラが神に奇跡を祈ったのがイベントの始まりであったはずだが、……はて?
いつになったらイベントクリアになるのだろうか。
とりあえずスキップはできないようなので、朝飯でも食いながら経過を見守ることにする。
様々なところに点在する村々を見学していくことにした。
「へー、何か知らないけどもう墓の文化があるのか。……あ、このエルフの村にある墓は英雄ダーマの墓かな? クジラのアゴ骨が飾られているし、ララが墓の前で祈って泣いてるよ」
たぶんこれ、ダーマ本人もそうだが、神様に祈ってるんだろうな。
といっても神様は俺だが。
すまんなララよ、俺では死んだキャラに干渉することはできないんだ。
無力な創造神で申し訳ない。
なんたって、創造神はただのプレイヤーだからな。
そんなこんなで文明発展の軌跡を眺めながら感傷に浸っていると、ようやく画面にメッセージが飛び出してきた。
【イベントが進行します! 世界がアップデートされました、新機能が解放されます! アップデートに伴い、世界に深刻なエラーが発生!】
「は? エラー?」
なんじゃそりゃ。
エラーが発生しているらしいが、この惑星は依然としていままで通り動いている。
あ、もしかしてこのエラーこそがイベントの続きか?
面白い運営だな、こんなイベントは見たことがない。
それならとことん付き合ってやるよ、今日明日は遊び放題だしな!
そして今も尚【エラー発生!】と連呼するスマホ画面を無視し、イベントの内容を把握するべくログを確認する。
そもそも、まずはどんな世界にアップデートされたのか理解しなければならない。
ログを確認すると、面白いメッセージを見つけた。
【世界のアップデート内容】
新機能、ストーリーモードが選択可能になりました。
ストーリーモードでは創造神であるあなたがキャラクターを作成し、自由に世界を旅することができます。
「おお! これだよこれ! こういう機能を待っていたんだよ!」
自分で作った惑星を旅することができる、まさにロマンだ!
次から次へと期待の上を行ってくれるゲームだ、楽しみが尽きないな。
そしてさらにログを読み進めると、今度はエラーの内容が発覚した。
【エラー報告】
創造神の奇跡であるマナを狙って、原始龍の一匹が龍神に反旗を翻しました。
原始龍の反乱に伴い、数匹の上位古代竜と高位の生命体が付き従っています。
「ふむ、つまりアレか? 龍神ばっかエラいの納得いかない、俺にも良い思いをさせろってことかな? 龍の世界も大変だなぁ」
他愛もないことを思い浮かべながら、さらにエラー報告に目を通す。
【エラー報告】
龍神と原始龍の争いが激化しています。
追い詰められた原始龍がマナによる神格化を求めて、従う者による祈りの儀式を行いました。
儀式成功!
原始龍が進化し、魔神へと生まれ変わりました!
「ははは! 魔神が生まれちゃったよ! 面白いなこれは!」
なんか龍神に対抗して魔神が生まれたらしい。
やはり光ある所には闇もあるということだろうか?
世界って難しいよね……。
だが、よくできた脚本だ。
ログに残ったメッセージは更新されていく。
【エラー報告】
龍神と魔神が戦い、お互いに深手を負いました。
魔神が眷属を連れ別大陸へと逃げ出しました。
魔神の力により、大陸の一部が眷属である魔王と魔族に侵食されています!
マナの不正利用により、瘴気が溢れ出しました!
龍神が創造神へ助けを求めています。
「ほうほう、一旦は戦いに決着がついたようだな。小さめの大陸の一つに逃げ出したみたいだし、ここは暫定魔大陸ってところかな? というか強いな龍神、一人で魔神と眷属を追い返しちゃったよ」
龍神やべー、【生命進化】の解説で最強と謳われているのは伊達じゃないわ。
とはいえ曲りなりにも神へと進化を果たした元原始龍の魔神が相手では、進化前の原始龍じゃ手に負えないようだ。
龍神もさすがに追いかけるだけの体力は無いようだし、ここは助けてやるとするか。
といっても、俺には【生命進化】や【マナ】でしか直接的な干渉手段がないが。
とりあえずざっと【生命進化】の一覧を見るが、魔神を相手に有効打になりそうな進化先は特にない。
この世界で最強の龍神はもう最終形態だから進化はできないし、この機能での救済は一旦諦めよう。
そもそも、相手は瘴気とかいう新能力で武装しているんだ。
ただ強いだけの生命では勝てないと思うんだよね。
なので次善の策として【マナ】の機能を確認する。
するとそこには、いままで微動だにしなかった【奇跡を起こす】の項目が白く点滅していた。
どうやらここがこの機能の使いどころだったらしい。
俺は迷わず項目をタッチする。
【イベントが進行します! 創造神の奇跡により、世界に新たな力が産み落とされました! 人間種に、『勇者』、『聖女』、『剣聖』、『賢者』の上位職業ほか、数多の職業が加わりました!】
ついに来たか、職業勇者!
ファンタジーといえばこれだよ。
その他の職業もログには残っているが、あまりにも多すぎて把握しきれない。
いつも思うが、このゲーム容量どれだけあるんだろう。
ま、いいか。
「さて、やることやったし次はストーリーモードだな。とりあえず世界の方は放っておいて、俺もなにかしらキャラクター作ってみよう」
期待に胸を膨らませながら、俺は【ストーリーモード】へと思考がシフトしていった。
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