進化する生物たち1


 『異世界創造のすゝめ』で世界樹やら原始龍やらを誕生させたその日の夕方、俺は今日も昨日に引き続き仕事を定時で切り上げ帰宅した。


 もちろん仕事の方は昨日のツケとしてだいぶ溜まっていたのだが、休みも程々に早めに出社し昼飯も食わずにぶっ続けでデスクワークをしたことにより、なんとかこうして時間を作ることができたのだ。


 ここまでするということは、俺は自分が自覚していないところで、このアプリにかなりハマっているのだろう。


 とはいえ、俺はこのアプリのことをどこかで不審に思ってもいた。

 部下の宮川にも『異世界創造のすゝめ』のことをそれとなく聞いてみたが、ゲーム廃人であるアイツですら知らないタイトルなんて、そうそうお目にかかれるモノじゃない。


 もちろん、ゲーム性そのものに不審なところはないと思う。

 しかし、ネットで検索しても公式サイトや攻略サイトが見つからないどころか、このゲームタイトルの情報すら書き込みが無いのだ。


 そりゃ不審にも思うだろう。


 だが現状としてはアプリを開いている時に電池の消耗が著しいということ以外、特に困った点もない。

 怪しいとは思いつつも、不都合がないのでこれ以上気にするのは無駄だと思い考えるのをやめた。


 面白ければなんでもいいしな。


「さて、さっそく惑星の様子を見てみるか。おっ、さっそく原始龍が子供を産んだのか……。何々……? 種族は高位古代竜ハイ・エンシェントドラゴンね」


 朝方に多細胞生物1αにマナを与え進化した原始龍が子供を産み、別種族である高位古代竜とやらを新たに誕生させたらしい。


 生物の能力を知りたいところだが、あいにくこの不親切なゲームアプリにはそんな鑑定機能のような能力は搭載されていない。


 ただ一度生み出した生物は【生命進化】の一覧に大まかな解説が載るようなので、その生態を確認することができる。


 説明にはこう書かれている。


【原始龍】

遥か太古、生物が誕生した原始の時代から存在する上位生物。

創造神の力によって直接的な進化を果たした原始龍は、僅かながら神性を宿している。


【高位古代竜】

最も龍に近い竜と言われ、龍が神性を失い退化した竜の祖先。

原始龍には及ばないものの、その他大勢の生物と比べ圧倒的な格を持つ。


 ということらしい。

 原始龍の説明にあった創造神による直接的な介入というのは、恐らくこのゲームで謎の多かった機能のひとつ、【マナ】の力による影響のことだろう。


 この場合はプレイヤーである俺が創造神で、力というのがマナのことであると予想がつく。


「なるほど、原始龍がマナという神の力を僅かに宿した生物で、いまのところ最強。そして神の力を失い劣化したものの、それでも他の生物と比べたら雲泥の差で圧倒しているのが高位古代竜ってことか」


 どうやら、【原始龍>高位古代竜】という図式が成り立つようだ。

 まあ生物である以上、本来は個体ごとに役割があったり強さの比重なんかも変わってくるのだろうけど、あいにくそれは確認できない。


 このゲームに鑑定機能が実装されているのかは知らないが、もしあるなら早めに欲しい機能ではある。


 しかし、こうしてみると不思議なものだ。

 本来生物というのは環境に適応し変化していくなかで、形を変えて進化してくものだというのに、ことドラゴンに至っては過去に遡るほどより強くなっていくらしい。


 この弱肉強食の時代で、わざわざ弱くなるための進化で何か得るものがあるのか謎だが、そこらへんはファンタジーということなのだろうか。


 ちなみに植物の最終進化形である世界樹は、現状新たな植物へと変化しないようだ。


 これでこの生物は完成されているということなのだろうか?

 ログを確認してみるが、今のところ子孫を産むこともないらしい。


「しかし、最終進化か……。今のところ圧倒的な力を持つ生態系の頂点、原始龍ですら解説には最終進化とは記載されていない。あくまでも上位であり、最終ではないからな。子孫の方が弱くなっていくドラゴンの生態系的に、原始龍が最終じゃなかったら何が最終なんだ? 疑問だ……」


 と、そんなことを思ってスマホを眺めていると、惑星中に散らばっていた原始龍たちが突然、ある大陸に集まり始めた。

 高位古代竜も続々と集まってきているし、いったい何事なんだ。


 彼らが集まった大陸にはまるで針のように鋭く尖った断崖絶壁の山々が立ち並び、その周囲を覆うようにして沢山のドラゴンが空を泳いでいる。


 それは渦を巻くようにして一匹の原始龍を基点とし、まるで何かの儀式みたいに力を集結させているような感じがした。


 すると突然、中心となっていた原始龍が輝き出し、『ピコンッ』という音と共にメッセージが表示された。


【原始龍の長が最終進化を行おうとしています! マナを与えますか?】


「は?」


 いや、長ってなんだ?

 族長とかそういうやつか?

 まじか、この中心の原始龍って長だったのか。

 こいつらにそんな文明があるとは思わなんだ。


 というかいきなりだな、最終進化。

 まあもちろんマナを与えるけども。


 そして何気ない気持ちで最終進化を決定すると、ただでさえ眩しかった原始龍がさらに強く輝き出した。


「うおっ、なんだ!? ……小さくなっていく!?」


 強い輝きと反比例するかのように族長は小さくなっていき、だんだんと人の形を取り始める。

 光が完全に収まると、そこには立派な角を生やした全裸のイケメン男性が鎮座していた。


 いや、なんで人?


 もしかしてこの惑星では人間の祖先ってドラゴンなのか?

 いやいやいや……。

 というかモザイクかけろ!


【おめでとうございます! 原始龍が最終進化し、龍神へと生まれ変わりました! イベントクリア! 新機能が解放されました】


 慌てて新機能を確認すると、そこには【神託】という項目が追加されていた……。

 なんか、知らないうちにイベントクリアしたっぽい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る