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 昨夜、少し恥ずかしい電話をしたから、ハルカゼはどんな顔をしてくるだろう? と緊張しながら、待ち合わせ場所の郵便ポストの近くに向かったけれど。


 彼女も同じことを考えていたようで、郵便ポストの横で待っていたハルカゼは、ちらちらと視線を外したり、合わせたりしながら、「おはよう」と挨拶をしてくれた。


 朝からあまりにも可愛いので、ため息をつきたくなった。


「まだ四月だから寒いな」

「そうだね」


 まだ、俺たちの吐く息は白い。

 ハルカゼの手元を見ると、桃色の手袋をしていた。


「ハルカゼ、花柄の手袋してる」

「うん。雪は溶けたけれど、手が冷たかったから」

「似合ってるね」


 瞬間、ぽんっと音がしそうなくらい、ハルカゼの顔が赤く染まってしまった。


 女性を気軽に褒めたら、恥ずかしがられるに決まっている。

 発言に気をつけようと思った。


 ハルカゼは手をぐーぱーさせながら、答えてくれた。


「そ、そう? 少し子供っぽいかなと思っていたんだけど、似合っているなら、よかった……」

「ハルカゼは、どっちかというとキレイ系だけど、かわいい装飾も似合うから……」

「う、うん……! ありがとう……! あっつくなってきちゃった」


 手で顔をパタパタと扇ぐハルカゼ。

 言動に気をつけようと思ったばかりなのに、俺はどうしてこんな発言をしてしまうのだろう。反省する。


「こ、コウ? 手が赤いね」

「あ、うん。やっぱり、明日から俺も手袋してこようかな」

「寒い……?」

「それほど、耐えられないというわけでもないけれど」


 すると、ハルカゼは桃色の手袋に包まれた手で、俺の手の甲をツンツンとしてきた。


 当然、ドキッとする。


 ハルカゼは真っ赤な顔で、申し訳なさそうに訊ねてきた。


「ね、コウ。昔みたいに、手を繋ごうか……?」

「て、手を……⁉︎」

「コウの手、寒そう……。どうかな……?」

「う、うーん。じゃ、少しだけ……」


 俺たちはけして目を合わせないようにしながら、お互いの手の甲に触れたり、撫でたりしながら、手を恋人繋ぎした。


 な、なんで恋人繋ぎなんだ……!


 俺は顔から湯気を出しそうになりながら、心の中で悶絶した。


「俺、明日からはちゃんと、手袋してくるから……。いや、しない方がいいのかな……? なーんて……」

「……コウの自由にして、いいよ」


 ハルカゼも、空いている方の手で、真っ赤になった顔を隠していた。


――――――――

あとがき

 尊。

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