ショートストーリー

ひらり

届かぬ想い

「私からは絶対に連絡しない。次の機会がいつになるかわからなくても、でも連絡はしない。」

一日中、何度も自分に言い聞かせた。


今日、彼は遠くに行ってしまう。

最後に少し会いたいのだろうとわかる連絡が、出立日が決まった頃に来たけれど、その気持ちには気づかないふりをした。


そして、今日彼は遠くへ発つ。

今となっては他人になって久しい彼。

その彼からの連絡を待つ私。

彼からの連絡があればきっと、いてもたってもいられずに、会いに行ってしまうんだろうなと、

自分で自分の気持ちを止められる自信がなかった。

だからこそ、彼に連絡をしない、と自分に言い聞かせていた。


そんな私に、まるでドラマや映画のように自分の中の悪魔がささやく。

「連絡したらいいじゃない?ほんの少しでも会えるなら。きっと私が返事をしないままでいたから、彼は私に連絡しづらいだけよ。会って『やっぱりお前にしておくべきだった』って後悔の上塗りをさせてやればいい。だって、まだ好きなんでしょ?」


「だめよ!絶対に連絡しちゃ。連絡したら彼の思う壺になる。そしてまた傷つくのは自分なのよ!今とこれからの自分の幸せを思うなら、自分の中から彼を排除しなきゃ!いつまでも思い出にひきづられてはダメ!」


SNSの中でつぶやく彼の言葉を眺めながら、隣にいられない寂しさと、ざまぁみろという気持ちが交互に押し寄せてきた。


終わった恋。

2度と結ばれることはない。

わかってはいるのに、

なぜ私は彼からの連絡をこんなにも待っているのだろう。


会いたかったな。

きっと彼はもう発ったはず。


会いたいと思ってくれたかな。

終わったはずの恋を、何年も忘れられずにいる私。

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