第36話 ごめんなさいと言える人に
「色々、教えてくださりありがとうございました!」
「ん~。あんまり他の人に言っちゃダメだからね~」
フロンデさんに頼み込んで、バングルさんの情報を教えてもらった。
バングルさんは確かに「トレジャーハンター」としても活動していた。しかし、ここ3年ほどは活動報告もなく、何をしているのかは不明とのことだった。
クラトさんが調べてくれていた情報とも一致する。
しかし、新しい情報もあった。
バングルさんの最後の活動報告書の内容だ。
「街の東にある山にある最高のお宝を持ち帰ってくる」
東にある山?そういえば、マイダの国の内のことばかりに気が向いていて外にどんなものがあるのか気にしたことがなかった。
「フロンデさん、この東にある山ってここからどれくらい遠いんですか?」
「え? んー行ったことないからよくわかんないけど、歩いて行ったら1時間くらいはかかるんじゃない?」
「へぇ~じゃぁ結構近いところなんですね」
「近いったって山に着くのが1時間くらいで登るとなったらまた別に決まってるでしょ?」
「え、あ、あぁ……そうですよね」
しかし、山までは1時間ほどで行けるなら、往復2時間で単純計算で2時間くらいはバングルさんを探せる。
……実際にはそんなうまくいくわけがないのはわかる。私はそんな体力おばけではないから。
しかし、バングルさんのいる可能性がある場所がわかったのは大きい。これを園生くんと共有して、今後の方針をまた話し合おう。
そうだ、すっかり忘れていた。
その園生くんとはぐれてしまっていたのだった。
最初にからかわれたこともあり、少し聞きづらい。
「それから……園生くんが行きそうな所ってどこかわかりませんか?」
何となく居心地の悪さを感じて、うつむき加減でフロンデさんに聞いてみる。
フロンデさんは目をぱちくりさせ、きょとんとした顔で私を見ていて、私たちの間に少し空白の時間が出来た。
「やだ、ホントにはぐれちゃって迷子なワケ?」
フロンデさんの真面目な表情が逆に恥ずかしさを加速させている。
この歳で迷子扱いをされるなんて……。
顔が熱くなってくるのに気づいて、フロンデさんに見えないようにさらに下を向く。
あまりに下を向きすぎて、誰か人が入ってきたことに気がつくのが遅れてしまった。
「噂をすれば……いらっしゃ~い」
「あー! こんな所にいた~!」
出入り口のほうから聞き慣れた声が大きく響いてきた。思わず勢いよくそちらにふり向くと、探していた人物が腰に手を当てて仁王立ちしているのが見えた。
「園生くん!」
仁王立ちしていた園生くんはこちらへずんずんと近づいてくる。心なしか少し顔が怒っているような……?
「もう~律歌ちゃんってば、いつの間にかいなくなっちゃうんだから! 心配したんだよ?」
怒っているのに、器用に眉尻を下げて私に声をかける園生くんはなんだか子供を心配する母親のようだ。私のほうが年上なんだけどなぁ、とどこか腑に落ちないながらも謝罪を口にする。
いくら年下でも園生くんのほうがマイダの国については長くいる。そのため、もちろん地理も私よりずっとずっと詳しいはずだ。
「……ごめんなさい」
なんだか本当に子供に戻ったようだ。……こんなに素直に謝ったのはいつ以来だろう。
「もう、いつの間にかいなくなっててビックリしたんだよ? また変な奴らに絡まれてたりしてなくて良かったよ」
園生くんが優しく笑う。
「え~……そんなこと言ってぇ~。ちゃんとこの子のこと見てないから、こんな事になったんじゃないのぉ~?」
フロンデさんがデスクで頬杖をついて、ちょっと口をとがらせた。ふざけた口調ながらも、少しだけ責めたような顔で園生くんに文句をつける。
ぐっと息を詰まらせ、園生くんの表情が曇った。
「た、確かに一理ある……」
「ごめんね……」と眉尻を下げて、小さな声で謝る園生くん。
さっきとうって変わって、今度は園生くんが子供に戻ったようだった。
どことなく暗くなってしまった雰囲気を吹き飛ばすように、フロンデさんが大きくパンパンッと手を叩いた。
「さぁさ。お互い謝ったんだから、これでいいでしょ。次よ、次。バングルを探しに行くんでしょ?」
「あれ? 何でフロンデさんのこと知ってるの?」
「この子に聞いたのよ。こっちで知ってるだけの情報もちゃんとあげたわよ」
それを聞いた園生くんが、くりくりした目をこちらに向ける。
「律歌ちゃんってばちゃんと調べてくれてたんだね! ありがと~」
「さっ情報共有しよ」と私の持つ紙束にぐっと顔を近づけてくる。
距離が、近い……。
こういうところ、園生くんは無意識なんだろうか。
「え、えっとね、バングルさんの情報は……」
少しドギマギしながら、持っていた紙束をめくる。どこか緊張していたのか、バサッと音を立てて紙束を手から滑り落としてしまった。
「あれあれ……」「おっと……」
私も園生くんも紙束を拾おうと、手を伸ばした。
ゴッ
という鈍い音と共に、おでこに衝撃が走り、お互い紙束に伸ばしていた手はサッと引っ込められて、それぞれのおでこへ宛てられている。しばらく私と園生くんの間に沈黙が流れた。
「ご、ごめん、律歌ちゃん……おでこ大丈夫?」
「こっちこそ、ごめんね……」
予想していなかったおでこの衝撃に軽く涙目になりつつも、園生くんへの謝罪の言葉を口にする。
園生くんを見ると、やはり痛かったのかぶつかった所を手でじっとおさえている。
「あんたたち、気が合うのねぇ~」
心底楽しそうにケラケラ笑うフロンデさんの声が頭上から降り注ぐ。
「まるで夫婦漫才でも見てる気分だわ」という声に恥ずかしくなってますます身動きがとれずにいた。
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