第5話 現実での再会

 結局、何の予定もないのであれからゴミをまとめてカーテンを開けて紅茶を淹れて日光浴。

 やっぱり部屋をキレイにして太陽の日差しを取り込むと気分が良い。

 眠気もすっきり消え、キレイになったテーブルの前にカップ片手に座る。


 キレイになったテーブルの上に置いた、近部くんの手作り名刺カード。改めて思い返してもどこでもらったか思い出せない。

 夢の中でもらったことは覚えている。でも、夢は夢だから現実に名刺があるというのはおかしな話。


 いくら考えても答えが出せそうにないので、これは週明けに職場での話のネタにしよう。


 そう頭を切り替えると、気分転換も含め買い物に出かけることにした。

 食材の買い出しはもちろん、久しぶりにゆっくり洋服や化粧品など見るのもいいかな。

 彼氏にフラれてから美容や外見のことなんて全然お構いなしにしてたので、そろそろ失った女子力を取り戻すのもいいかもしれない。

 そう思い立ったら、早速行動。

 いつもよりじっくりと洋服を選び、化粧もちょっとだけ気合をいれる。


 出かける先は家から2駅離れたショッピングモールだけど。


 特に急いでいくわけではないので、家から駅までゆっくり向かう。

 最近の仕事の忙しさに忘れていたけど、今年は桜もゆっくり見ていなかった。

 道路沿いの桜はすっかり散ってツツジが咲き始めている。

 過ごしやすい季節になったので、街の中をジョギングしている人や散歩する人も多くすれ違う。

 みんな、ちゃんと季節を堪能しているんだなぁ。私は仕事しすぎなのかな……。


 そんなことをぼんやり考えていたら、目的地に到着した。


 さすが休日、人が多いな。


 ショッピングモールについてから、家族やカップルを横目に洋服や化粧品を中心に見て回る。

 展示されている洋服や雑貨も夏物にシフトし始めている。

 せっかくなので、夏物を少し買っていこうかな〜、なんてお店の前で立ち止まっていると店員さんに声をかけられる。


「いらっしゃいませー!本日、特別セールで一部商品が20%オフとなっておりますー!よろしければお手にとってご覧くださーい!」

「あ、ありがとうございます」


 元気のいい店員さんの声に気圧されて、店に入らず通り過ぎてしまう。

 買い物中はゆっくりと商品をみたいので、ちょこちょこ声をかけられるとつい反射的に逃げたくなってしまう。

 店員のお姉さんは仕事をしていただけなのに……。


 自分の臆病な性格に少し落胆しつつ、お茶でも飲んで落ち着こうとテラス席のあるカフェに入った。


 店内レジでホットコーヒーを頼み、テラス席へ着いた。

 ぽかぽか日の光を浴びて、のんびりコーヒーをたしなむ。

 私にはこう時間を過ごす方が、ずっと有意義で性に合っているのかも。


「あれ?律歌ちゃん?偶然だねっ!」


 後ろから声をかけられて、振り向くとそこには見たことのある顔があった。


「ぇ……!?な、なん……ぅええ?!」

「あは、律歌ちゃん、驚きすぎ!とりあえず、相席いい?」


 そういうと、承諾をする前に目の前の席にホットコーヒーを持った彼が座る。

 目の前にニコニコしながらコーヒーをすする、で見た彼。


「……近部くん……」

「わぁ、覚えててくれたの?嬉しいなぁ!『近部くん』なんて他人行儀じゃなくて園生でいいよ。今日は一人〜?」


 目の前に夢の中の人がいる。

 現実に思考が追いついてこない。ああ、それともやっぱりどこかで彼とは会っていたのかな?覚えてないけどもっ。

 昨夜の夢と同様、チョコレートブラウンの髪を風に遊ばせながら人懐っこい笑顔を向けてくる。


 ……もしかして、起きたと思ってたけどまだ夢の中なのかな?

 事態が飲み込みきれてない、私に園生くんは追い打ちをかけてくる。


「鳩が豆鉄砲くらったような顔してるね〜。でも無事にこっちの世界に戻ってきてたようで安心したよ。戻ってこれたのか気になってたんだけど連絡先知らないし、共通の知り合いもいないから確認しようがなくてさぁ……」


 ――


 まだまだ園生くんは話しているけど、もう私の頭はキャパオーバーで何も聞こえてこない。

 視界も急に暗くなり、遠くで園生くんが慌てたように私を呼ぶのが少しだけ聞こえた。

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