第4話 このモヤモヤとした気持ちは

 最近、初花様が何やらコソコソする時間が増えた。

 どうやらスマホを使って何かしている様子だが、ロックがかかっているためその中身を知ることができない。


 情報をアンドロイドに送るか否かは、主が決めることで。

 だからべつに、初花様が判断したことならば私が気にする必要はないのだが。


 いったい何をしているのだろう?

 変な人に騙されてないですか?

 怪しいサイトやアプリにアクセスしていませんか?

 お困りごとではないですか?


 いろんな(仮)の可能性が算出され、私の中でぐるぐる回り続ける。

 アンドロイドには、主を守るため、あらゆる危険やその対処法がインプットしてある。

 でもロックをかけられていては、そうした情報もまったく役に立たない。


 が、私はあくまで執事ロイド。

 主である初花様が望まない情報に強制アクセスするなんて、そんなことはできないし、してはいけない。


「――初花様」

「んー?」

「今日は学校もお休みですし、たまには外出しませんか? 勉強やスマホで目を酷使し続けるのは、あまりよろしくないかと」

「……外出? クロノと?」

「はい。初花樣がお嫌でなければ私がお供いたします」

「……そ、そう。じゃあお願いしようかしら。着替えるわ」

「かしこまりました」


 初花様は、慌てた様子で私を私の部屋へと追いやり、バタバタと準備を始めた。

 私は執事ロイドなのだからそんなに慌てなくてもいいと思うのだが、隣の部屋からはすごい物音が聞こえてくる。


「初花様、大丈夫ですか? お手伝いいたしましょうか?」

「だ、大丈夫よ! 気にしないで待ってなさい」

「承知いたしました」

「あ、そうそう、参考までに聞くけど、クロノは水色とピンクどっちがいいかしら」

「――え」


 水色とピンク!?

 初花様のお洋服の色でしょうか!?

 そんなのどっちも似合うに決まってますが!?!?


 でも私は、これまでの学習から知っている。

 女性は「どっちでもいい」という返しを嫌う、ということを。


 ここは冷静に考えなければ。

 初花様は色素が薄く、少し茶色がかった髪色をしている。

 瞳も同じく茶色で、肌は陶器のように白くスベスベしている。

 私の解析によると、こうした女性に似合うのは――


「――どちらもお似合いかと思いますが、しいていうならばピンク、でしょうか」

「そ、そう。ピンクね」


 それからしばらくして。

 初花様の合図で部屋を出ると、そこには白いフリルのついたブラウスにピンクのスカートという甘々コーデで立っている初花様がいた。


「ど、どう? たまにはこういうコーディネートもいいかと思って」


 あああああああああああああああああああ。

 可愛すぎて処理が追いつかないんですが!?

 働け私の冷却装置!!!


「――とてもお似合いです、初花様」

「そう。ならよかったわ。それじゃあ行きましょう。クロノと2人でお出かけって久しぶりね。最近、友達も一緒にいることが多かったから」

「2人での外出は、登下校を除けば7か月と15日ぶりです」

「……べつに具体的な日にちが知りたいわけじゃないんだけど。まあいいわ」


 こうして私は初花様とデート――ではなく外出をすることになったのだった。

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