彼女との帰り道

 30分ほど経ち、ようやく彼女のなかでまとまったらしい。

いきなり立ち上がると床に置いていたカバンを肩にかける。


 「もうこんな時間だし帰るね」


 そう言って帰ろうとする彼女に声をかけ送るために少し時間をもらう。

すぐに準備を済ませ二人で家を出る。


 「送ってくれるんだね。優希も男の子になったんだなぁ」


 そう言う彼女は嬉しそうな顔をしている。

また一言も交わすことなく帰るんじゃないかと心配していたからその顔を見ることができて僕はほっとした。


 やっぱり僕の妄想だったんだろう。

柚は幼馴染として、友達としては好きではあるがそれ以上の感情はない。

ほかに仮にあるとすればそれは家族に対して感じているものに近いのだろう。

だから気にせずに昔と同じように関わるのがいい。

これからも変わらずに仲良くいられる方がいいに決まっている。


 なぜか胸にちくっとした痛みを感じた。

この痛みは彼女、鈴に恋人ができた時に感じたものと同じもの。

違和感を感じながらも気にしないようにする。

その違和感が大きくなる出来事がすぐに起こった。


 柚の手が僕の手に伸びてきた。

何もせずにその手の行方を見守るとその手は僕の手のひらに触れて何かを催促しているような動きをしている。


 なんとなく何がしたいのかわかるが、気づかないふりをすることにした。

何度か手のひらに触れたあとしびれを切らしたのか無理やり手を絡ませてくる。

彼女がしたかったことそれは手をつなぐということ。


 この前もそうだったが柚は気に入った人との距離感はかなり近い。

普段頼りがいがあるから気づかない人も多く、そのことを知る人はかなり限られる。


 絡ませてきた手を一度払い、今度は僕の手を彼女の手に伸ばす。

手のひらに触れてすぐ指を絡ませる。

彼女のとった行動に少しびっくりしてしまう。

てっきり普通に手をつなぐだけだとおもっていた。


 (これじゃ、恋人つなぎになるよ)


 そう思いながらも何も言わない。

それを言ってしまうとまた彼女がおかしくなってしまうかもしれないという怖さを感じる。

何も言わない方がたぶんいいはずだ。

そう言い聞かせ彼女に従う形で隣を歩く。

その間、彼女はずっとにこにことしていた。


 彼女の家が近くなってきたタイミングで僕の家で考えていたであろう考えを話し始める。

 

 「優希がよければだけども呼ばない? 」


 「確か部活動は私たちと一緒でやってないよね? 」


 「例えばだけど勉強会とかお泊り会とか、打ち上げとかって理由があれば呼べるんじゃないかな」


 「そしたら私たちの目的も果たせるかもだし。どうかな? 」


 そう提案した彼女は少しだけ首を傾げ僕の正面に立つ。

柚に少し悩むそぶりを見せるが本当はもう決めている。


 「うん、そうしよう。そのほうがいいね」


 そう答えたところで後ろから声がする。


 「あれ?もしかして優希くん?大きくなったね」


 振り返る前、正面に立っている彼女の顔を確認すると少し気まずそうな表情を浮かべている。

その理由がわかってしまう、僕もその声の主に気づいているから。


少し心を落ち着けてからその声のする方を見るようにしようと思う。

ある意味、僕が出会ってきた人の中でその人はかなり危険な部類だからだ。

バレないようにため息をつき、暗くなった空を見上げる。










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