後悔から始まる幼馴染との共戦協定

月影 紡

0.新たな後悔と再会

「私と付き合ってください」


 


 僕、赤穂あこう 優希ゆうきが彼女関連のことで後悔するのはこれで三度目。


一度目は中学二年の夏で二度目は卒業式当日。


 今回は、その二度と異なり告白現場を見てしまっている。


 場所は放課後の教室で残っている生徒は10人ほど。

普段と変わりなく過ごしていた人も空気を読んでおとなしくしている。

教室内には独特な空気が流れ、なんだか息苦しくなんとなく胸も痛む。


自分の胸に手を当てて気のせいだと思い込むことにした。


 僕のその動きが気になったのか告白された彼は僕の方を軽く見た直後、彼女の耳元で何かを言った後に深呼吸を一つ。


 「俺でよければこれからよろしく」


 彼の返事がきっかけで独特な空気はなくなりいつも通りに戻った。

いや、正確に言えば完全にいつも通りではなく少し浮かれたふわふわとした空気が流れていると表すべきかもしれない。

そんななか僕は静かに後悔していた。


 (もし、気持ちを伝えていれば......)


 もしかしたら彼女の隣に立っていたのは僕だったのかもしれない。

そういう考えても意味のない想像をしてしまう。

たぶん、自分の中でなにか理由を探すことでダメージを軽減させようとしている。

簡潔に言えば現実逃避というやつだ。


 実際、今も頭の中ではいくつかの理由が浮かんでいる。

一番初めに浮かんだのは僕が彼女に釣り合っていないから。


 そういう理由付けをしないと彼女、宮守みやもり りんを諦めることができそうにない。

もちろん彼女が魅力的であることは当然だ。

ただ、それだけが理由ではなく僕にとって彼女は人生で初めてできた好きな人になる。


 「初恋は面倒くさいものだよ」


 誰かがそんなことを言っていたのをふと思い出す。

聞いた時とついさっきまではあまり理解できずにいた。


 その意味を分かった今、ここまで面倒くさいものだとは思っていなかった。

独占欲や嫉妬で自分に対する怒りがこみあげてくる。

何もしなかったのは間違いなく自分。

そのくせ、こんな感情を抱いてしまうことに嫌悪感すら抱く。


 あれこれ考えている間に二人の姿がなくなっていることに気づいた。

気づいてすぐに軽く周囲を見渡したがいない。


 帰宅したのかと思い教室の窓から正門のほうに目を向けた。

僕の目に映ったのは二人が並んで帰っている後ろ姿。

彼女がほんの少し彼の前を歩いていて、振り返った彼女の笑顔は心から嬉しそうだった。


 自分の気持ちが彼女に届かないことを彼女の笑顔で改めて突き付けられたからか胸が少し痛む。


 この痛みをきっかけとして彼女に対する恋心を隠し忘れることに決めた。



 二人が付き合い始めて二週間経っても彼女への思いがそう簡単になくなるはずもなくもやもやとした気持ちを抱え続けている。

ついつい彼女を目で追いかけてしまう日々はこれからも続きそうだと心のどこかで思う。

現にいまも彼女のことを目で追っている。


 肩にかかるかかからないかくらいの明るめの茶髪で身長は平均くらい。

顔は整っていて美少女とまでは言えないかもしれないが同学年だけでなく先輩からも一目置かれている存在。


 この間たまたま先輩が気になる女子の話をしていた時にそのことを知った。

同性ともうまく付き合っているようで彼女の周りにはたくさんの人がいてそのなかには彼女と付き合っている彼、天瀬あませ 奏多かなたの姿もある。


 彼とは中学からの付き合いで、とてもいいやつだ。

誰にでも分け隔てなく接し、中学で生徒会長を務めるほど周りから信頼されていた。

それに加えて高校に入り170cmを超え、清潔感のあるイケメンと好かれる条件をすべてそろえている。


 どうして自分なんかと友達としてつるんでいるのか謎だ。


 そんな彼だから素直に応援したいという気持ちがあるのはうそではない。

それでも、彼女のことをあきらめきれないとたった二週間で気づいてしまった。

当然、彼女が告白される前と変わらず何も行動できないまま時間が過ぎていく。



 いつもと変わらない放課後、彼女が彼を含めたいつも周りにいる人と話しているのを遠目に見ながら帰る準備をしていた。

誰かに見られているような感じがしてその方向に目を向ける。


 そこにいたのは、幼馴染の女子。


 「優希、こっち来て!」


 彼女に呼ばれ、残っていた生徒の視線が彼女に集まる。

それが恥ずかしかったのか、彼女は手で早くと急かす。

帰る準備をできる限り早く終わらせ彼女のもとに行く。


少し照れ臭そうに下に目を向けた後、わざわざ聞こえるように言う。


 「今日、私の家に来ない?」


 多少驚いたものの、彼女との関係値から何かしらの相談だろうとわかっているため返事はせずに頷く。

周りのざわつきはあえて気にせずに彼女のほうに足を向ける。


 向かいながらなんとなくちらりと彼と彼女のほうを確認。

何も反応はないだろうと思いつつも何か反応してくれることを期待していた。


 想像通り、彼女のほうは特に反応はなく興味なさげにこちらを見る。

意外だったのは彼で明らかにいつもと違い、何か焦っているように思う。

彼の反応に違和感を感じつつ、まぁいいやと置いておく。


 今は、幼馴染の問題のほうが気になる。


 「おまたせ、じゃあ帰ろうよ」


 彼女は返事をすることなく昇降口に向かう。

一刻も早くこの場から離れたかったのかもしれない。


 そんな彼女についていくように少し後ろを歩き、特に話すことなく靴を履き替え彼女の家へと向かう。








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