6-3
光りに包まれた暴れ狼の体は小さく爆発した。まるで爆裂魔法だったが、その体は飛び散るのではなく、光の粒子になってタンポポの綿毛のようにふわりと広がる。そして白い紙くずのようなものを残し、光は消えていった。
「アイーシャ! 無事か?!」
アイーシャは藪の中に倒れ込み、その姿が見えなくなっていた。だが生きているという感覚は合った。手の甲の模様を通じて何らかの生体情報を感じ取ることが出来た。
アイーシャは生きている。危険な状態ではない。それが分かった。
今すぐにでも駆け寄りたいところだったが、ブレンの背後から再び暴れ狼達が襲いかかる。
また腕や脚に狼達が取り付き、ブレンの体を引き倒そうとしてくる。
「邪魔をするな!」
剣に力を込める。内部のレンダリングエナジーを操作し、手のひらを介してパーティクル剣に送り込む。エミッターが解き放たれ、剣から噴出を始める。
狼達を振り払いながら力任せに剣を振るう。そこに術理はなかったが、パーティクル剣は触れた狼の体を引き裂き吹き飛ばしていった。鈍いはずの刃は、噴出するエミッターの力で鋭利な刃となり、同時に削岩機のような衝撃を与えていた。
暴れ狼達が悲鳴を上げる。脚や腹を斬られ砕かれ血が飛び散る。だが仲間達の血を浴びて暴れ狼達は更に興奮する。自らの牙が折れてもなおブレンの体を離さず、胴を輪切りにされても食らいついたままだ。
それでも暴れ狼達は一頭ずつ倒れていく。狂気のような執念もパーティクル剣の威力の前には無力だった。最後の一匹は後ろ足を両断され悶ていたが、逃げようとするその背後からブレンに頭を断ち割られた。
全部片付けた。そう認識すると、靄がかかり殺すことしか考えられなかった頭に、アイーシャのことが思い出される。
そうだ。僕はアイーシャを守らなければならない。
「アイーシャ! アイーシャ、無事か!」
ブレンは血まみれの体のまま藪に飛び込みアイーシャを探す。すぐに見つかるが、アイーシャは気を失って動かないままだった。鼻からは血が流れ、目尻からも赤い筋が垂れている。
単に気を失っているだけではない。明らかに異常な状態だった。
「くそ、どうすればいいんだ……」
ブレンが何も出来ずに狼狽えていると、アイーシャが僅かに身じろぎした。
「アイーシャ! 聞こえるか! 大丈夫か!」
ブレンは剣をかたわらに置き、アイーシャの肩を掴んで呼びかける。するとアイーシャはゆっくりと目を開いた。
「アイーシャ? 大丈夫か?」
「ん……一体、何が……」
起き上がろうとするアイーシャをブレンは押さえて寝かせる。
「起きないほうがいい。よく分からないが、もう少し寝ていたほうが良さそうだ」
「そう……ね。気持ちが悪い……」
アイーシャは咳き込む。そして唾と一緒に口に溜まった血を吐いた。
「鼻血……魔力酔いなのかな……こんなにひどいのは初めて」
横になったままアイーシャは鼻血を拭い、手袋に付いた血を眺めた。
「確か二発目の
「喋るな。じっとしていろ」
「魔力的には問題なかった……だけど、以前なら連続で撃つのは難しかった……多分、私の体が魔力の大きさに追いついていないのね……器だけ大きくなって、注ぎ口が小さいままなのよ……盲点だった」
喋りながら、アイーシャの視点が段々とはっきりしていくのをブレンは確認した。大きな問題はないようだった。
「そういう事か……僕のせいだな。無闇に君に魔力を送ってしまって……しかし止め方も分からない」
「……暴れ狼は?」
「全て片付けた。ここは安全だ」
「そう……なら、いいわ。起きる。もう大丈夫……」
ブレンは心配そうにアイーシャを見ていたが、アイーシャはゆっくりと体を起こす。そしてかぶりを振る。
「ま、勝てたからいいわ……おじいちゃんにはとても言えないけど。倒れたなんて、内緒にしといてよ?」
「ああ、分かった」
鼻血を垂らしたままアイーシャはいたずらっぽく笑う。
ブレンはエルデンのことを思い、アイーシャが無事で良かったと思った。
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