異世界に飛ばされて皆王道ファンタジーなのに俺だけ昭和のボクシングジムに飛んだ

クマとシオマネキ

俺だけのボクシングジム 上

※これは短編です、主人公はクズですよ


 俺は異世界に召喚された…と思ったが・・・


 広い洞穴に生活感のある昔ながらの日本の家具や布団、「TGボクシングジム』と書いたリングに複数のサンドバック。


 そして、俺の目の前にババシャツ・短パン、下駄に腹巻きの女がいる。


 服装はともかく170弱はあろう高めの身長に中性的な整った顔、髪の生え際から2本の角とお尻の方に爬虫類系の尻尾が出ている。

 切れ長で金色と黒の瞳はギラギラと獲物を狙う目をしている。


 元の世界にいれば世界中の男を虜にする美貌と言っても過言ではない美しさだ。服装以外は。


「よ、よくぞこの世界へ来てくれたっ!!あいたかったぞ! ショーよッ!持っていたぞ!ショョョッ!!」


 美女が大声で俺の名前を呼び、カーンっと木の杖をつきながらニヤリと笑う。

 何で俺の名前知ってんだよ。


「え~っと・・こんにちは・・僕は相沢翔と申します。 あ・・あなたのお名前は?」


 待ちにまった異世界人とのファーストコンタクト、最初が肝心だ。なるべく低姿勢、丁寧に会話を・・・


「儂の名はT下Dティーゲ ディーキチ!おっちゃんと呼んでほしいぞ!ショーを世界チャンピオンにする者の名じゃ!明後日の為になぁッ!!!」


 俺を指さしながらドヤ顔をするT下さん。

 名乗り口上は結構だが、どこかで聞いた事ある名前と少し間違えた名言のT下さん。

 明後日に何かあるなら今日は何もしなくていいな。明日からやるから今日は何もしないでいいなという気になる。


 というか元ネタは俺の好きな漫画だろうから、オマージュの酷さにイライラしてきた。

 とりあえず聞ける事を聞こう。


「えっと・・・俺は死んで異世界に転生し、使命を果たして欲しいと神様に言われましたが、 何故俺だけここにいるんでしょうか?」


「よく聞いたっ!さすがじゃっ!他の転生者の目的は今の魔王を倒すやら、なんとか王国で都合の良い仕事するやら、チートでスローライフをしたり、追放されてざまぁしたりするらしいがっ!?ショーはなんと!?T下とボクシングだ!」


 俺だけ何故ここに来ているのか、さっぱり分からん。


「魔王とか倒さなくていいんですか?」


「ショーは儂と共に拳闘の世界チャンピオンになるのじゃ!魔王なんかどうでもいいわい!」


 記憶にある限り、一緒に転生された30人ぐらいは魔王を倒すように女神様から説明を受けていたようだが、それはどうでもいい・・・と。


「先程からと拳闘やらボクシングと言ってますが。 この世界にはボクシング文化やそれぞれタイトルなんかはあるんですか?」


「いや、無い。タイトルって何じゃ?」


「ハァ?」

何言ってんだ?こののじゃロリババアは(人外美女)


・・・・・・・・・・・・


お互い無言のうちにT下が動いた。


「暫し…待て…」


 T下さんが手を左から右へパッとスクロールさせると、通過した部分が画面になり、画面には何やら読めない文字のようなものが出ている。

 カッコイイ!さすが異世界!魔法かな?


「よし、これだ!」


 T下さんが一冊の薄い本を画面から取り出す。

 タイトルは「あさっての♥ショー」と描いてある。


 あの薄さは…見たことある…同人誌だ…ちょっとでもカッコイイと思った俺は馬鹿だ…


「さぁ、この聖典を見てみよ。ショーと儂はこのような運命さだめなのじゃよ!」


 おもむろに渡された『聖典』を見てみる。

 少女漫画タッチでショーと書いてある変な髪型の青年と、ハゲで出っ歯・眼帯をしたT下と書いてあるおっさんが抱き合っている。

 横で少しゴツいおっさんがハンカチを噛んで悔しがっている。小しゴツいハンカチのおっさんの下には『R石』と描いてある。

 次のページでは慌てている描写のT下と思われるおっさん。

『ショー!まだ早い!勃つな!勃つんじゃない!ショー!』

 その次のページでは、見開きでショーと下は全裸になり濡れ場が始まった。ショーは言う。

 『おっちゃんと俺の愛というキズナがおっちゃんのアナに奇跡を起したんだぜ、認めろよ、愛を認めろ』と。



 こんなもん、俺は認めん。




同人誌の持ち方を縦に引き裂くように変え、グッと力を入れたが、凄い速度で近づいてきたT下(人外美女)に抱き着くように止められた。クソ!


「な、な、な、何するんじゃ!?ショー!?今、儂の大事な聖典を引き裂こうとしたじゃろ!?」


「こんなのは原作と違う、コレは腐女子の妄想、がに股マン○リと同じだ」


「がに!?マン!?ショ、ショーはそんな事言わない!それに何で急に口調が変わっとるんじゃ!?」


「男の金玉とケツの穴の間に、謎の穴はないと言っている、分かるか?」


「あ、後書きに書いてあるぞ!?愛の奇跡・ファンタジーホールって!」


「T下のおっちゃん、アンタはメスか?」


「メスッ!?儂は両性じゃが…」


「だったらファンタジーホールは既にある。てゆーか愛が無くても棒は入る。後、俺はノン気だから入れるな、とりあえず今から…」


「ま、待て!だったらR石はどうじゃ?ファンタジーホールが無いはずじゃぞ!?暫し…待て!」


 く、メンドクセェなぁ。勢いで童貞卒業出来ると思ったのに…最早「さん」付けもいらんしタメ口で十分だろ。

 待っているとT下が奥からサンドバックを持ってきた。


ドサッ


 何やらモゾモゾ動いている。キモい。


「ほら、これがR石…」


 俺はジト目でサンドバックを見る。

 T下はおもむろに結び目の上部分を開ける。

 そこには褐色の肌と細長い耳、ボンテージスーツみたいな衣装のエロかわいいファンタジーの定番・ダークエルフちゃんがまろびでた。


「先代魔王様!何故!突然、このような袋に我らを閉じ込めたのですか!?我々は救援をお願いしに来ただけなのに!!!早くこの縄を解いて下さい!」


「儂は先代魔王じゃない…T下だ。お前は…R石だ…」


 先代魔王なんすか…


「私は現・魔王参謀、アルトア・イーシェです!R石ではありません!話を聞いてください!部下達を袋から出してください!」


名前が惜しいな…


「やかましいっ!お前はR石だ!」


 やかましいってアンタ…やっぱ魔王なのか…

 それに袋?よく見るとぶら下がっている幾つかのサンドバックがモゾモゾ動いている…コレはヤバいな。コレを俺に殴らせるつもりだったのか…ボクシングジムという名の猟奇の館だ。

…コイツはヤバいな…とりあえず用件(脱童貞)だけ済ましたら逃げよう。


「俺は君(ダークエルフ)とエッチしたい、どうだろう?」


何事も正直に伝えるのがスピーディな展開を呼ぶ。


「なんだ貴様、異世界勇者か?…んん?『魔王パインパン・デカバイン特効』!?何故、先代魔王様への特効を持っている!?」


「儂はデガバインではない!T下と言っておろうがッ!」


俺のコ○ン君ばりの推理能力で現状を把握した。


「うおおおおおおおおおおおォォォ!!!!」


 素早くT下を押し倒す!昔通信教育で学んだ総合格闘技の技術が光る!しかしT下は踏ん張った!

揉み合いになる俺とT下。


「待つんじゃ!落ち着けショー!こうなったら…」


T下の身体が光り始めるっ!クソ、失敗か?

南無三!ここまでかと思ったが頭の中に音が響く!


『魔王パインパン・デカバイン特効 発動』


「うおう!?力が抜ける!?ショー!やめっ!はじめては!もっとロマン!チックに!」


こうして俺は、もはや抵抗する力の無くなったT下のマウントを取ることに成功した…


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