第12話 魔王、部室を手に入れる

 話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!


 まさか魔理沙の奴、そんな壮大な目的があっただなんて……。


 って言いたかったんだけど、結局魔理沙は詳しい説明をしてはくれなかった。「鬼頭さんも同席されたところで、また後日学校にてお話しします」と話を締めくくられ、昨日は解散となったのだ。


 鬼頭もいるところでってのは分かるけど、学校だと寧々子ちゃんが入れないのだが。そこんところ理解してるのかなぁ。


 あ、そうそう。寧々子ちゃんとはちゃっかり電話番号を交換した。これでいつでも連絡取り合えるね。ふひひ。


 んでもって鬼頭はというと、病院で検査をしたものの特に異常は見当たらなかったそうだ。外傷も無し。ただ頭部への打撲なので油断はできない。何か自覚症状が顕れたらすぐに病院で受診してくださいと医師に言われて、今日は普通に登校していた。


 うん、脳に問題がないってのは分かるよ? でもさ、外傷が無いってどういうことよ。あれだけ金属バットや木刀で殴られてたのに? サイボーグなの? いやまあ、頑丈なのは知ってたけどさ。


 というわけで魔理沙の話を聞くべく、私たちは例のごとく図書室へと集合した。


 龍之介や魔理沙とともに鬼頭を待っていたのだが、いざ登場したところで私は顔を顰めた。桃田が一緒だったからだ。


 昨日の別れ際のしおらしさはどこ吹く風。私たちの顔を順番に見渡した桃田は、いつもの快活さで開口一番文句を垂らした。


「キミたち。図書室は会議をする場所ではない。うるさくておちおち読書もできないとクレームが来ているぞ」


「クレーム、ですか」


 図書カウンターを一瞥する。須野さんとやらは、作業しつつもチラチラとこちらを窺っているようだった。


 とはいえ私たちがうるさいのは事実であり、桃田の言ってることは正論だ。こうも堂々と叱られてしまっては、ここらが潮時と考えた方が良いだろう。ああ、次から集まる場所を考えないとなぁ。


「時に瀬良君。昨日鬼頭から聞いたのだが、キミたちがボランティアに従事するのは、私にぎゃふんと言わせたいがためらしいじゃないか」


「まあ否定はしませんよ。事実なんで」


「私はまだ、ぎゃふんと言っていない」


「…………?」


 なに言ってんだコイツ。頭大丈夫か?


 確かにぎゃふんとは言っていないだろう。でも認めてくれはしたよな? 誇っていいとも、称賛に値するとも。まさか実際にぎゃふんと言わなきゃ負けじゃないと思ってるとか? その論法が通るなら、たった今ぎゃふんって言ったじゃないか。はい、お前の負けー! ……って私は小学生か。


「キミたちはまだボランティアを続けるつもりか?」


「当然です。桃田先輩をぎゃふんと言わせるのは、あくまできっかけに過ぎないので」


「よろしい。ならばこれを預けよう」


 そう言って、桃田は得意げに鍵を取り出した。


「それは?」


「特別棟にある資料室の鍵だ。滅多に使わないから今は倉庫という扱いになっている。職員室と生徒会に掛け合って、キミたちがその資料室を自由に使ってもいいと許可をもらった」


「ファッ!?」


 驚きのあまり、美少女とは思えない声が出ちゃった。


「ど、どういうことですか?」


「キミたちの行いは素晴らしい。だが図書室で会議を開かれると他の生徒にも迷惑がかかる。ならばいっそ部活動として学校に認められ、部室を与えた方がいいと思ったんだ」


「おお」


 え、何なのコイツ。めっちゃ良い奴じゃん。急にどうした?


「部活動として認める条件は、月一で報告書の提出だ。活動内容が認められれば、そのうち部費も出るようになる」


「やります!」


 即答した。


 部費があれば交通費が賄える。遠征もできるようになるではないか!


「ただもう一つ。部活として活動するには、部員が最低五名以上必要なんだ。顧問は私が何とかするから、悪いがもう一人集めてくれ。資料室を使うだけなら問題ない」


「もう一人、ですか」


 寧々子ちゃんは小学生だから無理だよなぁ。今さらながら転生失敗が悔やまれる。


 まあ帰宅部の奴を捕まえて、名前だけ借りればいいや。魔理沙の魅了テクニックなら一発だろう。……おっと、どうやら心の中を読まれたようだ。魔理沙がジト目でめっちゃこっち見てる。


 とその時、陰で話を聞いていた人物が恐る恐る手を上げた。


「あのー……もしよかったら、私が入りましょうか?」


 図書カウンターにいた須野さんだ。


 人と接するのが苦手なタイプなのか、わざわざ龍之介の背後に回って声を掛けてきた。


「須野がか? 図書委員の仕事はいいのかよ」


「司書は部活動じゃなくて委員会だから。それにほら、ここで龍之介君たちが話してるのを聞いてたら、私もボランティアやってみたくなっちゃって。休日も特に用事があるわけじゃないし。あでも、放課後は司書の仕事もあるから、話し合いに参加できないこともあるかもしれないけど……」


「それでも大歓迎だよ! ありがとう、須野さん!」


「うん……」


 手を握って感謝の意を表すと、須野さんは恥ずかしそうに赤面してしまった。相当な引っ込み思案らしい。


「では、この鍵は瀬良君に渡しておこう。帰宅の際は必ず職員室へ戻しておくように。それと申請書類は後日渡すから、それも記入してくれ」


「ありがとうございます!」


「注意事項としては、資料室の物を勝手に持ち出したり壊したりしないことだな。特に鬼頭。貴様は気をつけろよ」


「善処する」


 鬼頭に釘を刺し、桃田は学校の治安を守るべく早々に去っていった。

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