第8話 魔王、ボランティアをする2
さあ、やってまいりました。ボーナスターーーーイム!!
本日のボランティアは保育園にお邪魔しております。ボランティアといっても、どちらかといえば職業体験に近いですね。小さなお子さんのお世話をするわけですから、怖い怖ーいお兄さん二人は今日はお休みです。
実は私、この日を心待ちにしていました。何故かって? そりゃあ、だって……。
うひょー! 可愛い天使がいっぱいだぁ!
ぷにっぷにのほっぺに、小動物を思わせる純粋な瞳。本当にここ数年で立ち上がったばかりだと思わせるヨチヨチ歩き。無防備な仕草一つ一つが保護欲を掻き立てる!
あーん、もう最高! こんな可愛い子供たちなら一日中見てても飽きないわ。
さて、どの子と遊ぼうかな。あの子かな? この子かな? それともみんな一緒に!?
と、だらしなく緩んだ顔を隠そうともせず意気揚々と子供に接しようとしたのだが……。
失念していた。私の連れは、溢れんばかりの母性を内包していることに。
「なんでだよ!(小声)」
無慈悲にも、可愛い天使たちは魔理沙の方ばかり集まっていく。
対して私はというと、
「セラマオ怪獣が現れたぞ! やっつけろ!」
「ぐげぇ」
小童どものおもちゃになっていた。完全に友達感覚だ。
まあいいさ。やるなら本気でやってやる。
「ふっはっはっは。我は怪獣ではない。魔王だ! 勇者どもよ、蹴散らしてくれるわ!」
「「「「わーーーーー!!!」」」」
チャンバラを繰り広げた結果、負けてやるんだけどね。ま、今日は勘弁してやる。
でも意外と楽しいわ、これ。バカなこと言い出しても誰も白い目で見ないし、この歳の男の子ならまだ可愛い方だし。私も黒歴史が上塗りされて、けっこう心がスッキリしたよ。
将来、保育士になる道も選択肢に入れようかなぁ。
でもなぁ。女の子が寄ってこなきゃ意味ないんだよなぁ。なんでここまで差があるんだろ?
私と魔理沙で違うところ……か。
そうか、おっぱいか。おっぱいの大きさか! 保育士に必要なのはおっぱいなのか!?
何かしらの奇跡が起こり、将来的に私のおっぱいが大きくなること願うばかりである。
「ストラーーーーイク!!! バッター、アウッ! いいぞ、ナイスピッチ! バッターもナイススイングだ! 次はよくボール見て振っていけ!!」
「審判が余計なこと言うな」
先日は女子二人だけだったため、今日は男子二人がメインの活動だった。
募集の中には力仕事関係のものもあったが、それだと私が監督できないのでやむなくスルーした。あの二人だけにすると怖いからなぁ。
何か適当なボランティアはないかと悩んでいたところ、なんと少年野球のコーチをやっている男性から練習試合の審判をしてほしいという声がかかったのだ。
なんでそんなお誘いが? と疑問に思ったものの、話してみたらすぐに解決した。
その小学校は龍之介の母校であり、コーチの男性は龍之介を受け持ったこともある先生だった。クリーン作戦での話が言伝で広がり、彼の耳にも入ったのである。
一時期野球をやっていた龍之介が主審。ルールだけ知ってる鬼頭が塁審。
私たち女子二人は見学だった。
「いやぁ、助かったよ。審判をできる父兄が今日だけ足りなくなってさ」
「いえ。こちらこそ便宜を図っていただいて、ありがとうございます」
魔理沙とともに隅で試合を観戦していると、依頼人のコーチが話しかけてきた。
小学校の先生に相応しい、温和そうな男性である。
「龍之介君は悪い意味で有名な児童だった。事あるごとに他の子どもと喧嘩をしてたし、時には大人が手を付けられないほど暴れたこともあった。そんな彼がボランティアをしてると聞いた時は、申し訳ないが耳を疑ったよ。何か心境の変化でもあったのかな?」
「あー……」
なんて答えようか迷った末、結局は正直に話すことにした。
「実は龍之介君と……あっちにいる鬼頭もそうですが、見た目のせいで他の生徒から敬遠されがちでして。なので少しでも好感度を上げるために、ボランティアでもしないかと私から誘ったんです」
「なるほど。そういうことだったのか」
「すみません。こんな低い志でボランティアに臨んでしまって……」
「いやいや、そこは謝るところじゃないよ」
そう言って、男性は咳払いをした。
「純粋に人の役に立ちたいと思って取り組む人もいれば、内申を上げたいからという下心で活動する人もいる。けどボランティアをする理由に貴賤はない。大事なのは、どれだけ真面目に取り組んでいるかだけだ。その点、龍之介君は素晴らしい。良いピッチングをしたピッチャーを素直に褒めて、三振した子にもエールを送っている。みんな元気が出るよ」
「審判が無駄に喋ってもいいんですかね?」
「別に構わないんじゃないかな? 練習試合なんだし」
そういうもんなのか? いや、野球とか知らんから知らんけど。
「それじゃ、これからも龍之介君をよろしくね」
「はい。任せてください!」
なんせ生前からの同志だ。他人に言われなくても世話くらいしてやるさ。
満足げに頷いた男性が、子供たちの方へと去っていく。その背中を見ながら、魔理沙がぼんやりと呟いた。
「みなさん、いろいろな人生を送っていらっしゃるんですね」
「そうだな」
当たり前の話、私たちは途中から人生を始めたわけじゃない。生まれた家庭があり、出会ってきた人たちがいて、積み重ねてきた経験がある。今までの十五年十六年分の歩みは決して嘘じゃないんだ。当然、他の同志の人生を垣間見て、その意外性に驚くこともあるだろう。
ま、与えられた使命を従順にこなしてるって言ったらその通りなんだけどね。
「……ん?」
柄にもなく真面目な独白を嗜んでいると、遠くの方で見知った姿を捉えた。
校舎近くの花壇の前で、こちらを見ている女の子が一人。
あれは……確か募金活動の時に何故か謝ってきた子だ。あんな可愛い子、私が見間違えるわけがない。この小学校の児童だったのかな?
「みんなー、がんばってくださーい!」
「おい、やめろ。お前の声援は逆効果だ」
試合中にもかかわらず、ほとんどの男子児童がこっち見たぞ。危なっかしい。
魔理沙を窘めつつ視線を戻すと、女の子は相変わらずそこにいた。まあ知り合いというわけでもないし、わざわざ会いに行くには遠すぎる。気にしないでもいいだろう。
そんなこんなで試合が終わり、相手チームが帰っていった。
よし。グランドの整備が終わり次第、私たちも撤収しよう。と考えていたのだが、今日はなんと保護者の方々が豚汁を作ってくれていたらしい。しかもあんたたちも食って行けと勧められたので、素直に甘えることにした。うん、役得だね。
「おーい、二人とも。保護者の方々が豚汁を作って……ん?」
呼びに行くと、龍之介と鬼頭が男の子たちに囲まれて何かやっていた。
静かに近寄って中を覗き見る。鬼頭が軟式ボールを素手で握り潰し、真っ二つに引き千切ったところで、男の子たちの間から「すげえええええええ!!!」と歓声が上がった。
「あっ、鬼頭! 物を壊すなって言っただろ!」
「いや、もう破棄するやつらしい。潰してくれと頼まれたんだ」
見れば、周りの目がめっちゃ輝いていた。男の子は強い力が好きだもんな。
ってか、軟式ボールを握り潰すとか、どんな握力してんだよ。ゴリラか。
あ、いかん。トラウマが呼び起こされて、手の平に変な汗が滲んできた。鬼頭の握力を目の当たりにするたび汗をかく。これがパブロフの犬ってやつか。って誰が犬じゃ。
「で、なんだ?」
「保護者の方が豚汁を作ってくれたんだ。頂くぞ」
「いや、俺は」
「バカ。こういうのは遠慮した方が失礼なんだぞ」
「……そうか」
「あ、でも龍之介は少し遠慮しろよ。食べ過ぎたら子供たちの分が無くなっちゃうからな」
「なんで俺様が食いしん坊キャラになってんだよ」
子供たちを解散させ、私たちも炊き出しの場所へと向かう。
その途中、鬼頭と龍之介に訊ねてみた。
「まだそんなに数をこなしたわけじゃないけど、どうだ? ボランティアは楽しいか?」
「おう。最初は何の利益にもなんねえからテキトーに流そうかと思ってたけど、やってみたら案外楽しかったぜ。やっぱ自分で体験しなきゃ分からないってことだな」
「お前、けっこうノリノリだったもんな」
あんなに声を張り上げる龍之介、学校じゃ絶対に見れないだろうし。
「鬼頭はどうだ?」
「まったく違う世代の人間と触れ合うというのも良いものだな。俺も龍之介殿と同じく、楽しいと思った」
「そう言ってくれると私も鼻が高いよ」
やはりボランティアを提案してよかった。私は間違ってなかった。
あとは桃田が人々の役に立っている鬼頭を認め、ぎゃふんと言うかどうかだ。
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