あの人の背は、俺にとってずっと憧れだった。

琴事。

1_「ありがとう」がこんなにも残酷な響きを持つなんて、思いもしなかった

 くぁ、とひとつ欠伸をする。食事を済ませて、風呂にも入った。時間をつぶすべくテレビを付けたはいいが、退屈なバラエティー番組はすぐに飽きがくる。適当にチャンネルを変えるも、画面に移るのはどれも似たようなものばかりだった。


 俺──三宅猫は、捜査一課の刑事だ。望んで就いた職だし、仕事が苦になるタイプではないが、最近はどうにも多忙だった。忙しいのはいつものことだが、そのいつもよりも輪をかけて忙しかった。そんな俺にとって、明日は久しぶりの休日である。しかも、憧れの人であり、上司であり、バディであり、念願叶って恋人となった烏宗田千蔭さんも、明日は午前休だ。嬉しい限りである。


 またひとつ欠伸をこぼす。千蔭さんの帰りは会食で遅くなると言っていたから、夕飯の支度はしなくても大丈夫だ。風呂はいつでも追い焚きできるし、正直やることがない。ぼんやりと液晶を眺めていると、眠気が強くなってくる。抗う理由もない。意識が落ちる寸前、テレビの電源消し忘れたな、とぼんやり思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る