第4話 ようこそ、秘密のお茶会へ!

 ぽとり、ぽとりと咲奈の髪から紅茶の雫が伝い落ちる。


 咲奈は怯えた目で千を見つめた。


 「いい顔ね。」

 「谷崎さん・・・私に、何をする・・・つもりなの?」

 「何って二人でお茶会を楽しむだけよ。」


 そう言うと千は咲奈を引っ張って立たせた。

 千は冷徹な目で自分の足を指さす。


 「早く。」

 「え・・・?」

 「跪いて私の靴にキスをして。」

 「な、何を言っているの!?」

 「お茶会に招かれたら、ありがとうって言うでしょ? そういうことよ。」

 「そんなこと、できないわ!!」


 それを聞いて千の目は更に冷たいものとなる。

 千は咲奈の顎を引き寄せると、彼女の顔の近くで吐き捨てるように言う。


 「しなさいよ。じゃないと、川端先輩のことみんなに話すわよ。」

 「そんな・・・。」

 「いいの?」

 「川端先輩には・・・迷惑をかけたくない。」

 「じゃあ、早く。」


 このような仕打ちはない。

 あの優しくて人気者の千にだ。

 なぜ、こんなことに。


 だが、脅されている身の咲奈は言うことを聞くしかなかった。


 咲奈は千の手を振りほどくと、ゆっくり彼女に跪く。

 そして千の靴に顔を近づけた。

 少し止まって考えているようだったが、目を瞑って震える唇で千の靴にキスをした。


 その行為に千は打ち震えた。

 自分の領域が広がった・・・それこそが千の悦び。


 「これで、三島さんは私の奴隷ね。」

 「・・・やめて、谷崎さん!」

 「やめない。」

 「私の知っている谷崎さんはこんな人じゃないはずよ? 誰にでも優しくて、みんなに見向きもされない私にも話しかけてくれる・・・私の憧れの・・・。」

 「そんなこと言っても騙されない。今まで散々、私のことを馬鹿にしていたのでしょう?」

 「違うわ!!」

 「黙りなさいよ!! 私が主催者。貴女はただのお客様。奴隷という名のね。秘密をばらされたくなかったら、私の言うことを聞きなさい!」


 どうして?

 どうして!

 どうして!?


 馬鹿になんてするわけがない!!

 だって、私はこんなにも!!

 

 咲奈は怖さからか悔しさからか、瞳に大粒の涙をためている。


 「こんなことをして楽しいの? そこまでして上に行きたいの? それだったら私は・・・。」

 「黙ってよ。それはこっちの台詞なんだから。」


 千は白磁の皿の上にあったクッキーを一つとると、それを咲奈の前に放り投げた。


 「食べて。」

 「・・・!?」

 「食べて。早く。」

 「できない・・・。」

 「できるわよね? 秘密を言われたくないものね。」

 「谷崎さん、貴女は私の知っている人じゃないわ・・・。」


 咲奈は千を睨みつけると、しゃがんでクッキーを拾おうとした。

 だが、千に大声で怒鳴られた。


 「誰が、手で拾えって言ったのよ!!」

 「え・・・?」

 「口で拾って食べなさいよ。犬のように食べなさいよ。」


 咲奈はもう反論の言葉も出ない。

 唇をかみしめながら、犬のように這いつくばった。

 それを見て千は満足そうに笑う。


 「なんて楽しいお茶会! 香高い紅茶。美味しいクッキー。また、しましょうね。三島さん。」


 「谷崎さん・・・いつもの谷崎さんに戻って・・・谷崎さん・・・私を見て。」


 そんな咲奈の声など千には届かない。

 なぜなら、千は凰華を通してしか咲奈を見ていない。

 咲奈など千には目に入らない存在。

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