君には軍靴よりもガラスの靴を捧げたい

遥海 策人(はるみ さくと)

第一章 闇と共に王子様

01 イケメンを拾った日


「リーダー! ねぇ、リーダー!」


 隊で一番賑やかなリリーの声が聞こえてきた。窓の近くに立っていたコルコアが雨戸を開くと外はすでに明るくなりかけていた。部屋に冷たい朝の風が吹き込んでくる。


「リーダーってば!」


 リリーに急かされて私も窓から外を見下ろす。


「例のぶつ、捨て終わったか?」


 3人にはとある仕事を頼んでいた。間違えて死んでしまった指揮官をばれないように捨てようとしていた。しかし、一輪車の中にはまだ人が入っている。


「どうした? 捨てる場所なかったのか?」


 私の問いかけにリリーは…


「見て! 超イケメン拾ったの!」


 と猫でも拾ったように無邪気に語る。


 かく言う私とコルコアは目を合わせた。イケメンと言うからとりあえず一回は見ておこうとなり、下の階へ急ぐ。


「あら、本当にきれいな方ですわ」


 コルコアは目を丸くする。関心しているのに瞳は曇ったままという器用なやつだ。


 荷台にはフランシス王国の軍服を着た若い男が乗っている。そして、顔をじっくり見る。金髪。きめ細かいつるつるの肌。バランスよく整った顔立ち。顔に手を当て瞼を引っ張ると出てくる透き通った瞳。まごうことなき美男子だった。それに、どこかで会ったことがあるような気もした。


「このまま捨てるのもったいないって! 私たちで飼おうよ!」


 はじける笑顔で人道じんどうにもとることを言うリリーである。


 コルコアは男の体を確認している。一応、彼女は衛生兵である。コルコアの回復魔法、効果は抜群だが死にたくなるくらい痛いという弱点がある。


「どうだコルコア?」


「大きな出血や外傷はありませんから休めば治りそうですわ」


「ね、じゃ、飼おうよ。ちゃんとご飯はあげるから!」


 リリーは歪んだ愛に焦がれる、部隊では一番の乙女。そして、イケメンには目がない年ごろであった。


「キスしたら目覚めないかな?」


 そう思いたくなるくらいには神秘的な男だった。


「とりあえず、ソファーに移そう」


 私は上半身を持ち、コルコアが足を持つ。せーの、と掛け声を上げて男を持ち上げソファーまで移動する。


「おーい、大丈夫か?」


 ほほを叩いてみる。しかし、まだ意識はもうろうとしているようだった。


「目覚めた時に傍にいたら私になつくかな?」


「それで、アイラ様。どうなさいますか?」


 コルコアが真面目な顔をする。降伏したとはいえ敵である以上、意識を取り戻したら暴れだすかもしれなかった。


「とりあえずしばっておくか」


 ということでロープを持ってきて手足を縛る。ノリノリでイケメンを縛り始めるリリーとコルコアだった。ちなみに、リリーはともかく、コルコアが楽しそうにするのはレアである。年に1度見れるかどうか。


「目覚めたら『ぐへへ』ってできますね!」


 そんな冗談を言い合いながら、イケメンを縛り上げ椅子に固定できたくらいのころ。ようやくイケメンが目覚める。危機的状況を察したのだろうか?


「こ、ここは?」


 男の瞼がそっと開く。焦点のあっていない瞳が私を捉え、目を細める。


「君はアイラか?」


 この男、なぜか私の名前を言い当てるのだった。知り合い? ただし、ここは戦場だ、スパイの可能性もある。


「お前、情報将校か?」


 私たちの状況を調べているのかもしれない。しかし、男は想像と違うことを言った。


「私は、フランシス王国の第三王子。エリックだ。君はアイラなのか?」


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