魔王と勇者の監獄物語

ロフB

第1話 魔王と勇者の監獄物語

俺は、基本的に「いい人」だと思う。


困った奴がいればなんだかんだ助けるし、無償でモンスターを倒したこともあった。


だから、まぁ。俺が勇者とかいう不名誉なモノに選ばれたのも、納得っちゃ納得だ。不本意だが。






「……起きたか?我が愛しの勇者よ」


牢屋、まるで囚人と看守のような相対の仕方だが、これでも勇者と魔王の対峙である。

まぁその勇者は先ほど無残に殺された訳だけど。


「よく寝たよ。ずいぶんバラバラに殺してくれたじゃないか」


「私の魔法を受けて生きてたやつは初めてだよ……いや、この場合死んでいるのか?」


殺すのならもうちょっと手心を加えて貰いたいものだ。女神の加護とやらで俺は例え塵にされたとしても全身を再構築出来るが、あまりにバラバラだとそれにさえ時間がかかる。

そもそも殺して欲しくはないがね。


実質不死のこの体だが、無くなった腕が生えてくるところは自分の体ながら気持ち悪かった。


「あー……ここから出してくれない?暇なんだけど」


「ふーむ、恋人の願いを聞いてやりたいのも山々なのだが、残念ながらそこから出すと今度は私が殺されかねないからね」


この牢屋なのだが、さっきから魔法が使えない。魔法を封じる魔法、だなんて聞いたことがない。

珍しい魔法だ。今度教えでも貰おう。もちろん魔王倒した後で。


「……俺はお前の恋人じゃねえぞ」


「なぜだ?こんなにも愛し合っているではないか。もう恋人のようなものだろう」


愛し合っている、の意味が俺のと解釈が違う気がする。多分気のせいだろう。

そう自分に思い込ませ、この地下牢のような場所からの脱出方法だけを考えることにした。


「というかお前がここにいていいの?魔物の管理とかしなくて」


「ふむ……そういうのはだいたい秘書とやらに任せているからな」


「秘書……あぁ。あの緑髪の美人か」


「おや、私(彼女)のいる前で他の女を褒めるのかい?ちょっと嫉妬してしまうね」


そういって彼女は人差し指を動かす。

瞬間、俺の肩から温かいモノが漏れ出てくる。

血だ。


すげぇよなんでこんな慣れた手つきで人の腕吹っ飛ばせんだよ。というか無くなった腕どこだよ。塵になったのか?


「……再生するからいいけどさぁ、こういうの止めてくれない?流石に失言一つにつき腕1本は精神的にな」


痛み、というのは受けていくうちにだんだん慣れていくものだ。普通なら絶叫でもしているところだが腕1本ぐらいもうなんてことない。


むしろこういう感じになるとどっかの角に小指ぶつけたとか、そういう日常的な痛みが一番痛い。まぁ実際にぶつけたことはないんだけど。


「うーむ……しょうがないな。失言一つにつき爪1個としよう」


何がしょうがないのだ。俺のことが本当に好きならさっさとここから出して欲しい。


ここには窓がない。熱気、というか。湿り気というか。そういうものが溜まってきているのを感じる。


換気ぐらいさせて欲しいね。


「……なぁ勇者よ」


「なんだ魔王」


「白状だと思わないかい?」


急に何を言いだすかと思えば、意味が分からない。しかし彼女の目は真剣だ。


「君のお仲間ことだよ。こんなにも君は助けを求めているのに誰もこない。白状だと思うだろ?」


「……思わないな」


「ほう?」


俺には仲間が三人いる。


戦士のハル、僧侶のメア、魔法使いのヘル。ハルが男でメア、ヘルが女。男2女2のバランスが取れたパーティー。全員二文字で覚えやすい。完璧だ。


俺?俺の名前はユウ。勇者の勇からとったわけではないぞ。


ちなみにハルとメアは付き合っている。魔王に閉じ込められる前に酒場で戦士にカミングアウトされた。




っと、そろそろパーティーメンバーの紹介と行こうか。


ハルは、まぁ良い奴だ。真っ直ぐで魔物への恐れがない。ただ両親が魔物に殺されてるからか、魔物に対して異常な執着心がある。


深紅の瞳に緑色の髪の毛。容姿端麗、名前に似合わず怪力だ。


背丈も俺と同じぐらい……年齢も同じだしそりゃ当たり前か。


メアは……なんだろうな。分からんやつだ。無口で美人。あの特徴的な金髪ぐらいしか印象に残っていない。


回復役……俺は自力で回復できたからいなかったしな。そういう意味でも俺と一番絡みが少なかったのはメアだ。


もう一度会いたいが、もしかしたら死んでるのかもしれないな。あいつらが囮になって俺を魔王の部屋にまで連れてきてくれたんだし。


……残念ながら俺はその期待には応えられなかったのだが。


ヘルは最初の仲間……俺と過ごした時間が最も長い。親友みたいな感じだ。


親からの虐待を受けて育ってきたらしく、家出してきたとこを俺が見つけ仲間になった。


俺の仲間で唯一人を殺したことのあるやつ……まぁそういうのは俺しか知らないけど。


魔法の才能に関しては天才で、根は良い奴だ。できれば親からの虐待を受けずに育って欲しかったな。


「……俺の仲間は諦めが異常に悪くて。不死だっつってのに俺のことを心配してくれる良い奴らの集まりだ。助けにこないってことは……まぁなんか事情があんだろ」




「…………いいチームなんだな」


「あぁ、いいチームさ。こんな時代に生まれて欲しくはなかったね」


あいつらを見てると、つくづくなんでこんなイカレた時代に生まれたのか不思議になる。

もっと、平和な時代にハルが生まれていれば。もっと人々の心が荒む前にヘルが生まれていれば。


だから、俺が救わなきゃいけない。これ以上犠牲を出さないために。


「……しょーじき、世界を救うだとか。人々の希望とか。どーでもいいんだ」


「……ほう?」


「ただ、あいつらにもっといい人生を送らせてやりたかった。そのためなら腕が千切れようが心臓が潰れようがどうでもいい」


「いい人生なのだろうな。そこまで想える人がいるということは」


「……こんなくだらない役目を押し付けられるのがいい人生かよ」


本音だった。ただの少年にこんな役目を押し付けるなんて、神は無情だと思う。


おまけにこんなに強い魔王を倒せなんていうのだから相当女神サマは目が悪いのだ。メガネでもプレゼントしてあげたらましになるだろうか。






「魔王、喉が渇いた」


俺がそういうと魔王は心底不思議そうな顔をして首を傾けた。


まるで「死なないのだから水や食料は必要ないだろう?」とでも言うように。


確かに水や食料がなくても生きていけるが……それは地獄の苦しみを伴う。


飢え。俺が最も恐れているもの。


「……まぁいいだろう、ほれ」


そういって魔王は魔法で作った水をゆっくりとこちらへ向けてくる。口でそれを食えということか。だいぶ間抜けな構図だな、それは。


「んっ……」


口でそれをパクッと覆う。口の中が水で満たされ、喉が潤うのが感じる。悔しいが、美味い。


「やはり勇者はそういうのが絵になるな」


「勘弁してくれ……」


何が絵になる、だ。支配欲満たしてんじゃねーよ!



「おっと、そろそろ夕食の時間だ。君には明日の朝、私の手作り料理を持ってきてあげよう」


いや今くれよ。結構腹空いてるんだが。なぁ。あっちょっと!?いかないで!待って!

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