航海第三十六日目 ついに明かされる航海日誌の真実

(幕間)

 何もない空間。ただ暗闇だけが広がる世界に、私とだけが存在している。


「そう、それは現実世界のことだ」


 は語り始めた。


「俺は一人の男に一冊のノートを渡したんだ。それがお前さ」


「現実世界だと? すると、この世界は夢の中だとでもいうのか。バカバカしい」


「夢の中ではないな。ノートの生み出した架空の世界、というのが正しいのかな。

 とにかく、お前の考え次第では、万能の力を手に入れる、そうすることもできたはずだ。だが、どうやらお前はお前自身に制限を設けたようだ」


 は続ける。


「それはすなわち、現実世界のような時の流れ。留まることも戻ることもできない時の不可逆性だ。

 だから、お前は死んだし、角川師つのかわせんせいにも敗れたんだ。知恵を駆使して生き延びる術を見出すヒマもなくな。

 情けないヒーローの誕生というわけだ」


 それだけ語ると、はケタケタと笑った。私は困惑しつつ、その笑顔が闇の中に飲まれるのを眺めていた。

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