第2話 女勇者誕生?
『どうだ? ブライアン…オレを着てみないか?』
目の前に鎮座するビキニアーマー、
やはり女性装備から重低音イケメンボイスがするのはまだ慣れないが、ブライアンはこの未知の存在にツッコミを入れたくて仕方が無かった。
「なあ、俺はこんな貧相な体型だが男だぜ?」
『ああ、お前が男なんてのは百も承知だが?』
「じゃあ分かるよな、そんな女装備、ましてやビキニアーマーなんか着れる訳ないだろう」
『何故だ?』
「……何故って、装備品には男性用と女性用があるだろう? お前も女性用装備なら分かるはずだ」
『オレはそんな事気にしないぜ? 人は性別や年齢に囚われず着たい服、着けたい装備を着けるべきだと思うがね』
「それもそうだな……ってお前な、さもいい事言ってるようだけれど違うからな!? そもそも男と女では体型が違い過ぎる!!」
『そうかな? お前の体型ならイケると思うぜ?』
「何だと!?」
『お前、さっき自分で自分を貧相な体型って言ったじゃねぇか』
「うっ……」
日頃から自己否定が過ぎるのが災いし要らぬ精神的ダメージを食らってしまった。
「い・や・だ!! 俺は絶対にお前なんか着ないからな!?」
『大丈夫大丈夫、胸当ての乳房の部分と腰に若干の隙間は出来そうだが俺の見立てではお前はオレを装備できる筈だから』
「話しを聞いてる!? 俺は着ないといってるんだ!!」
『どうして?』
「どうしてって、男がそんなの装備したら恥ずかしいだろう!?」
『じゃあ恥ずかしくなければオレを着けられるんだな?』
「だから着ないって!!」
『どうして……』
「あーーーー!! もう!! 話が堂々巡りしてるよ!!」
『何が不満なんだ、俺を装備すればお前の身体能力は十倍どころでは済まないパワーアップをするというのに……』
「えっ……?」
一瞬ブライアンの身体が硬直する、
『なあブライアン、お前この世界に伝えられている女勇者の伝説を知っているか?』
「ああ、知ってるよ、この世界に生きる人間はみんな知っているさ……」
大昔、まだこの世界に国という概念がまだ存在しない時代。
空を裂き大地を砕き世界を滅亡させようとした巨大な魔物が現れた。
人々は勇敢にもその魔物と戦ったが全く歯が立たず、屍の山を築くのみであった。
そんな時、美しい鎧を着た女戦士が颯爽と現れ、激闘の末その魔物を討ち取ったという。
のちにその女戦士は女勇者として崇められ現在まで語り継がれているのであった。
『何を隠そうその時女戦士が装備していた鎧がこのオレって訳だ、驚いたか?』
「うっ……嘘だ、この話しは作り話だろう? 仮に本当であったとしてもそんな大昔の装備が今も残っているはずが……」
『本当にそう思うか……?』
ブライアンは言葉を失った。
目の前には間違いなく人の言葉を操り自分と会話をしているビキニアーマーが存在する。
そんな存在がいること自体信じられない事だ。
だが事実は違う、紛れもなくそれは目の前に存在している。
ならそのおとぎ話のような伝承ももしかしたら本当の事を伝えてたとしてもおかしくは無い。
『
「あっ……ああっ……」
ブライアンの瞳が虚ろになり、口からはうわ言の様に声が漏れる。
『悪い話しじゃないはずだ、ちょっと恥を忍んでオレを着さえすれば時間を掛けた経験で強くなる事の何倍もの力が一瞬でお前のものとなるんだぞ?』
「ううっ……」
もう一押し。
『大丈夫だ、オレを着込んでも誰もお前だと気付かない、名前も変えしっかりと女を演じられれば早々男だとバレる事は無い』
「本……当……?」
『ああ本当だ、今までお前を見下した者たちの鼻を明かす事が出来るんだ』
ブライアンが冷静な時ならば
「じゃあちょっとだけ着てみようかな……」
『そう来なくっちゃな!!』
ブライアンが一歩、また一歩と祭壇に歩み寄りビキニアーマー
「あれ? これはどうやって外すんだ?」
『背中側のホックを外すんだよ、お前女の下着を脱がした事無いのか?』
「ばっ……!! 馬鹿な事を言うなよ!! 当たり前だろう!! そんな破廉恥な事!!」
ブライアンの脳裏には背を向けて「ねぇ、ホックを外して?」と懇願するルシアンの姿が思い描かれた。
その反応に
「外したぞ、次はどうすればいい?」
タイル張りの床にビキニアーマーが並べられた。
『ちょっと待った、お前着衣のまま俺を着ようってのか?』
「えっ? 駄目なのか?」
『当たり前だろう!! ビキニアーマーってのはな、分割されている部分のは肌の露出が肝だろう!! そんな事も分からないのか!?』
「ちょ……そんなに怒る事無いじゃないか」
『いいや、ここは譲れないところだ!!』
「分かったよ脱ぐよ……恥ずかしいからこっちを見るなよ?」
『おう、任せな』
そもそもビキニアーマーのどの部分が目なのか口なのか定かではない。
「脱いだよ……」
『ヨシ!! じゃあ着けてみろ』
「うん……」
ブライアンはこれ以上ない程顔を真っ赤に赤らめ、まずは下のビキニパンツから装着した。
「やっぱりはみ出ている……」
どことは言えないが女性に無くて男性にあるモノが。
「それにやっぱりサイズが合ってないよこれ……」
下はパンツ以外にも前垂れと横に装甲があり上部をベルトで留めてあるのだが、それがブライアンの太もも辺りまで下がっており、これでは歩く事すらままならないだろう。
『気にするな、次行ってみよう!!』
ブライアンは胸部装備を拾い上げ胸に宛がう。
「あれ? あれ?」
『何だお前? ブラの外し方どころか着け方も分からないのか?』
「あっ、当たり前だろう!? これでも俺は男なんだから!!」
『おっと、後ろ前にしてホックを留めてから回して元に戻すのは無しだぜ? それは邪道だ!!』
「知らないよ!! そんな事!!」
喧々諤々、言い争いをしている間に難とか胸部装甲を着けることに成功する。
「ほら見てよ、カップがスカスカだ……」
当然男であるブライアンに二つの胸の膨らみがある訳がなく、胸の二つのカップは中身のない状態で隙間があり肌とは密着していなかった。
『大丈夫と言ったろう、オレに任せろ』
「痛い痛い!! 胸が千切れそうだ!!」
何とブライアンの胸板の皮膚が胸部装甲のカップに吸引されたかのように強く引っ張られていたのだ。
『我慢しろ、胸が大きくなりたくないのか?』
「当たり前だろう!! 俺は男だーーーー!!」
ブライアンの主張も虚しく胸は引っ張られ続け、とうとうDカップほどある胸の装甲に収まるほどのたわわな胸に成長していた、無論魅惑的な谷間もくっきりと出来上がっている。
「ああ……こんな事って……」
大きくなった自分の胸を見下ろし、ブライアンは何か男として大事なものを失った気がして薄っすらと目じりに涙を浮かべていた。
『まだまだ!! 今度は下の方行くぞ!!』
「ええっ!? いたたたたっ!!」
今度はパンツからはみ出ていたものが体の中へと吸い込まれていく。
それと同時に腰の中心に激しい痛みが起こり、骨盤が左右に開いていく感覚を覚える。
「ちょっ……!! ちょっと待って……!!」
『ええい観念しろ!! お前は女勇者になるんだろう!?』
「好きでなるんじゃないよぅ!!」
数秒後、彼のまたぐらははみ出た物も無くすっきりしていた。
ウエストはくびれヒップもぷりっと大きくなっていた。
理想的な砂時計体型だ。
「ああ……もうお婿に行けない……」
『大丈夫だ、お嫁になら行けるぞ、今のお前の身体は子供だって産めるのだからな』
「ええっ!? そんな……」
がっくりとその場に膝を付くブライアン、今度こそ文字通り男としてのアイデンティティを失ってしまった。
『身体はこれでいいな、ヨシ!! 今度は髪の毛を伸ばすぞ!!』
「ええっ!? まだやるの!?」
『ここまで来たら徹底しないと女に見えないぞ!!』
「だからぁ……!!」
結局ブライアンの抵抗は何一つ認められず全てリビングアーマー
『どうだ? 見違えただろう?』
何故か洞窟にある姿見の鏡の前に立つブライアンは鏡に映る自分の姿を見て驚愕した。
「これが……俺……? いや私……?」
『これでどこからどう見ても美少女戦士だな、月に代わってお仕置きも出来そうだ』
ぼーーーっと自分の姿に見惚れ恍惚な表情で顔を赤らめるブライアン。
以前の姿はどこへやら、どこからどう見ても美少女にしか見えない。
「はっ!? いやいやこんなのやっぱりおかしいよ!! 脱ぐ!! やっぱり女勇者になるの辞める!!」
しかし突然我に返りビキニアーマーに手を掛け脱ごうとする。
だがトップスもパンツも肌に張り付いており、身体の一部になってしまったかのように全く脱ぐことが出来ない。
『おっと、言って無かったがこの装備は脱げないぜ、お前が災いの根幹である元凶の魔を打ち滅ぼさない限りはな』
「そっ……そんな!? 何でそんな大事な事を最初に言わないんだよ!!」
『聞かれなかったからな~』
「騙したな!? これじゃあ呪いの装備と一緒じゃないか!!」
『何だって!? 言うに事欠いて呪いの装備だぁ!? もう一度言ってみろ!!』
「ああ、何度でも言ってやる!! この呪いの装備!!」
『貴様いい度胸だ!! ここに直れ!! 打ち首にしてくれるわ!!』
「どうやって!?」
ブライアンと
その後十数分間言い争ったがお互いその不毛さに気付き何とか喧嘩を終息させるのであった。
『……まあ何だ、一度装着してしまったが最後、オレにもお前から装備を引き剥がす事は出来ない、諦めろ』
「仕方ないな分かったよ……要するに俺が魔王を倒して世界を平和にすればいいて事だろう? ならやってやるさ!!」
俯いていたブライアンはゆっくりと立ち上がりキッと目線を上げた。
『やっとその気になったか、ならばオレは全力でお前の手助けをする事を約束しよう……では早速そんなお前に名前を提案しようじゃないか……うんライアン、どうだ? 元の名前をもじったものだが』
「ライアン、か……」
先ほどはぐれた幼馴染みルシアンの事を思い出した。
少し名前が似ている事に微かに彼の胸がときめく。
『ではさっさとここを出ようか、オレを装着出来た者が現れた時、道は開く』
祭壇の奥の岩壁が鈍い音を立てて両側に開いていく。
現れたのは岩をくり貫いた岩肌の洞窟だった。
一番奥には微かだが明かりが見える、どうやらこの通路は外へと繋がっている様だ。
「分かった、行こう……」
近くにあった剣と盾を手に取り、ブライアン改め女勇者ライアンは新たな一歩を踏み出した。
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