第4話 助けた少女アメリア

「君はさっきの……無事に逃げられたんだね。良かった」

「はい。薬草摘みに出掛けて村から離れたら、A級の魔物、マーダー・ベアに遭遇してしまい……でも、貴方のおかげでこうして薬草を持ち帰る事が出来ました。本当に感謝しています」


 マーダーって、殺人鬼とかって意味だよな?

 あの熊、もの凄い名前を付けられているし、A級らしいし……本当に少女も俺も無事で良かった。


「しかし、薬草摘みって、村から結構離れた場所に居たけど、そんなに遠くまで行かないとダメなのか?」

「残念ながら。以前は村の近くで薬草が採れたんですけど、最近は離れた場所まで行かないといけなくて……あっ! 私ったら! すみません……命の恩人である貴方が、もしもここへ来たら、お礼をしようと思っていたんです! どうか家に来ていただけませんか!?」

「えーっと、それはありがたいんだが、先にこの村の村長? に挨拶をしておきたいんだ」

「それなら、尚更家に来てください! 私、アメリアって言うんですけど、父がこの村の村長なんです!」


 おぉ、それは願っても無い事だな。

 そういう事なら案内してもらおうと思い、アメリアについて行く事に。

 村の中を案内してもらいながら、一番奥にある家へ。


「お父さん、ただいまー!」

「失礼します」

「お父さんは、奥の部屋だよ。ついてきてー」


 そこまで広い訳でもない、普通の大きさの家なのだが、村長には声が届いていないらしい。

 アメリアの声はかなり大きかったのだが……と、不思議に思っていたのだが、奥の寝室へ行って返事がなかった理由がわかった。

 ベッドに寝た切りで、素人の俺が見ただけでわかる顔色の悪さ……何らかの病気なのは間違いないだろう。

 アメリアが村から離れて薬草を探していたのも、おそらく父親の為だろうな。


「お父さん。見えるかな? お客さんなんだけど」

「トーマ・ハイランドと言います。母から手紙を預かっているのですが……アメリア。悪いが、少しだけ外してくれないか?」

「えっ!? えーと、見ての通りお父さんは体調が悪くて……」

「あぁ。だけど、少しだけ頼むよ」

「う、うん……」


 母親からの手紙を見せたところで、読めないだろうと判断し、一旦アメリアに部屋から出てもらうと、腰の小杖を手にする。


「コズエ。小杖装備時の魔法効果向上スキルの効果は、攻撃魔法だけでなく、治癒魔法にも有効だよな?」

「もっちろん! この人を治してあげるのー?」

「あぁ。目の前で苦しそうな人が居るからな。試せる事は試しておこうと思ってさ」


 とはいえ、子供用の小杖で凄い魔法を使えるのは不自然過ぎるので、アメリアには見られないようにしたが。


「≪スロウ・ヒール≫」


 初級の治癒魔法……一気に回復はせず、徐々に体力や怪我を回復させる魔法だけど、コズエの力があるからか、村長さんの顔色がどんどん良くなっていく。


「……ふぉぉぉっ!? か、身体がっ! 身体が動くっ! 体力が……体力が溢れ出すぅぅぅっ!」

「え!? この声は……お、お父さんが立ってる!? 顔色も物凄く良いし……トーマさん、一体何をしたんですかっ!?」

「あ、体調が悪そうだったから、一つだけ持っていたポーションを使ってみたんだけど、よく効いたみたい……というか、ちょっと効き過ぎたみたいだね」


 ほんの少し前の村長さんは、顔が土色でゲッソリしていたんだけど、今は精悍な顔つきのエネルギッシュな三十代後半といった感じの男性になった。

 いや、流石に変わり過ぎじゃないか?


「あ、あの……お父さん?」

「おぉ、アメリアじゃないか。そんなに驚いてどうしたんだ? ……ん? そっちの少年は……はっはーん。アメリアも、もう十六歳で成人になったから、恋人を連れて来たのか」

「ちょ、ちょっとお父さん!? こ、恋人って……」

「うむ、挨拶なんて堅苦しい事は気にしなくて構わんぞ。少年よ、娘に恋人が居た事すら知らない父親で申し訳ないが、二人の仲は認めるから、若者は若者らしく青春を謳歌してくれ」


 えーっと、俺は挨拶しに来た事は間違いないが、挨拶の意味が大きく違うんだが。


「お、お父さんっ!? 何を言っているのよっ! トーマさんは、マーダー・ベアに襲われていた私を助けてくれた命の恩人で、今も貴重なポーションをお父さんの為に使ってくれたのよっ! お父さんだって、トーマさんに命を救われたんだからねっ!?」

「な、なんと……最近の記憶が無いと思ったら、俺も死にかけていたのか!? トーマさん、ありがとう。俺はこの村の村長だが、大工でもある。二人の新居は俺に任せてくれ」

「だから、お父さんっ! もぉっ! 元気なお父さんに戻ったのは嬉しいけど、そういう所も戻ったのは……トーマさん、すみません。お父さんを落ち着かせるので、少し待っていてください」


 あ、俺の治癒魔法で村長さんがおかしな事になったのかと少し心配していたけど、元からこういう性格なのか。

 とりあえず、既に家を建て始めようとしていた村長さんを、アメリアと二人掛かりで何とか止め、ようやく母親の手紙を出す事が出来た。

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