見知らぬ10人の妹達が、俺の正妻ポジションを狙っている。

及川シノン

プロローグ

-Neo A■■e■■s Program-



DATA 0001 "観察開始1日目"



【最終警告】

閲覧権限を持たないAクラス以下の職員が[編集済み]にアクセスを試みた場合、または本データを参照に対象[削除済み]へ変則的な接触を行った場合、反逆行為と見されます。

実行部隊Orionが緊急出動し、尋問や評議会の承認といった手順プロトコルを経ずに■■■の■■を即座に■■■■■します。



Aクラス以下の職員である場合は、直ちに閲覧を中止してください。




『For a righteous man may fall seven times, and rise again.

 -我々は何度も何度も過ちを犯した。次こそは間違えない-』




***




 青いカーテンの隙間から差し込む、春の陽射し。


 病院ではなく、自分の家のベッドで寝起きできる幸福を味わいながら、俺――『柏木かしわぎ新也にいや』は目を覚ました。


 何でもないような日々ことが幸せだったと思えるようになったキッカケは、今から約1年5ヶ月前。高校生一年生の秋にさかのぼる。

 父さんと母さんと、妹の『陽菜ひな』とで一泊二日の家族旅行に行った、その帰り道。

 父さんが運転する車は――俺達が乗る車内は、まるで洗濯機の中身かという勢いで、突然ひっくり返った。


 その後の記憶は、何も無い。

 気付けば病院のベッドの上。16歳だったはずの俺は、いつの間にか18歳になる年へとタイムスリップしていた。


『……良いですか、落ち着いて聞いてください。貴方が昏睡していた期間は……17ヶ月です。交通事故から、奇跡の復活を果たしたんです』


 医者からそう説明された時は、『冷静沈着』を人生のテーマにしている俺でも、流石に動揺した。だが6秒も数えれば落ち着いた。

 海外では、昏睡状態から10年や20年越しに目覚めた事例も報告されている。1年5ヶ月程度では、世界記録更新とは至らない。


 『ほんの少しだけ奇跡を起こした男』は、今日からはまた『平凡な学生』に逆戻りだ。


 しかし平穏こそが最も素晴らしい。

 ありふれた日々に感謝しつつ、見慣れた落ち着く部屋の中で、ベッドの優しい温もりを感じ、再び瞼を閉じた。まだ眠いんだよぉ。


「――……ちゃん、お……いちゃん……」


 すると。

 部屋の中で、誰かの声が聞こえてきた。可愛らしい音域は、女性――それも女の子と呼べる年齢の声色だった。


 久々に再会した布団との逢瀬イチャラブを、二度寝という幸福を邪魔する女子といえば、この家で一人しかいない。妹の陽菜だ。


「……お兄ちゃん! 起きて! 学校遅刻しちゃうよ!」


 うるさいなぁ。言われなくても分かってるっての。2分や3分くらい、別に良いだろ。


 中学三年生だった陽菜も、事故後の現在イマは17歳の高校二年生だ。

 花のJKが兄貴の面倒なんか見ていないで、彼氏の一人や二人や十人でも作れば良いのに。身内の贔屓目を抜きにしても、陽菜は可愛い顔しているんだし。


「もう! 相変わらず寝坊助なんだから! また1年半も眠りこけるつもり!?」


 それも悪くないな……と口をムニャムニャ動かしつつ。頭から布団を被って、ベッドの中へ籠城する。


 そんなの態度に痺れを切らした妹は、強引に布団を剥ぎ取った。


「起きなさーい!」


「うぎゃぁあ!」


 布団を奪われ、カーテンはシャッッと開かれる。

 寝ぼけまなこに侵入してきた閃光が、俺の眼球を突き刺して焼き尽くす。


「ぐわぁああっ! 大量破壊兵器だ! 世界が滅ぶ光だ! 目が、目がぁぁあああっ!」


「もう、朝から何バカなこと言ってるの」


 呆れる妹の声を聞きつつ、ようやく光に慣れた頃。

 目をごしごし擦ってから、いい加減パッチリと起床する。大げさにフザケたのに、全然ノッてくれなかった。


 しかしこんなやり取りができるのも、『日常』に戻って来れたからこそだ。家族との何気ない日々が、実は尊いものだったんだな。


「ようやくおはよう、お兄ちゃん! 今日は良い天気だよ! 退院して最初の、新しい学校生活を始めるにはピッタリだね!」


「あぁ、そうだな」


 瞼を完全に開き、上体を起こし、ベッド脇に立つ妹を見上げると――。




「さ、リビングで朝ご飯食べよ? お兄ちゃん自慢の妹であるヒナが、今日は腕によりをかけて作ったんだから!」




 ――見覚えのない少女他人が、陽菜いもうとの制服を着て、俺に向かって明るい笑顔を浮かべていた。

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