第36話 キング・オブ・キングス
俺が今いる所は、エルフの国に有るダンジョンの最深部だ。国王にお願いして入れてもらった。
「おい、こんな所に連れて来て、どうするつもりだ」
「嫌だな、僕と同じ事をしてもらうんだよ。当たり前でしょ」
「止めてくれ、頼む。許してくれ」
「何を虫の良いことを言っているのさ」
「お前の兄に頼まれたんだ」
「この期に及んで馬鹿め。一応言っておくけど、そこはボス部屋ね、無事に出れたら僕の所に来て、ご褒美をあげるからさ」
「止めろ!」
「じゃ、開けるよ。心配しないで、身体は動く様にしてあげたから」
「止めてくれ~」
あっと、扉が閉まった。これで良し、帰ろっと。
「リックか帰って来た」
「どうだった?」
「うん、勇敢にボス部屋に入って行ったよ」
「まあ、素敵ですね」
「さあ、僕達の国ヘ帰ろう」
テレストラの城では、父上と母上に泣きつかれて困ってしまった。
結局、テレストラ王国はお姉様と婚姻するバンタムさん。
ブブセル王国は正気に戻ったドロンお兄様が国王になる事になった。
「リック、取り合えず一段落ついたわね?」
「うん」
「その割には元気が無いように見えるわ」
「何か心配事でも有るのでしょうか?」
「ああ、1つだけね、ダドウサ王国の宮廷魔道師が捕まっていないんだ」
「エミューズお姉様が言っていた、あの魔道師ですね」
「そうなんだ」
ーーーー
国に戻った俺達は、魔物の像のダンジョンをクリアするべく攻略を始め、今は魔道具の出ると言われている魔方陣の前にいる。
「ダメだ、出ない」
魔法陣は、水龍さんが言っていた魔法陣で間違いない。
何回入っても出ない。入り方とか変えても駄目だ。
う~ん、とすると、鍵になるアイテムが必要だとか、このダンジョンの全種類の魔物を倒さなければダメとか、条件が有るのかな?
ぼんやり奥の壁を見ていると、魔物の像が目に入った。ここにも像が有ったのか。
「そう言う事か」
「何か判ったの?」
「サキは、なに年生まれ?」
「えっ?」
「ほら、戌年とか申年とかさ」
「ああ、それなら寅年よ」
でしょうね。五黄の寅だねきっと。
「干支の順番って知ってる?」
「全部は無理、最初だけなら」
「じゃ、あそこの魔物の像を見ながら言って見て」
「子、丑、寅、卯……?」
気がついたか。
「ねえ、リック順番が違うわよ」
「正解!」
これ造ったの日本人だな、絶対。
「像を入れ替えよう」
ーー
「入るわよ」
「OK」
緊張してサキが魔法陣に入ると、宝玉が現れた。
「やった」 「凄いです」
"時戻りの宝玉"だ。
「サキ、これで元の世界に帰れるな」
「う、うん」
「ひとまず戻って、水龍さんに確認してみよう、あとキョウゴクさんの所にも行きたいし」
ーーーー
「どうしたリック?わざわざ来るとは、何か有ったのか」
「実は、元の世界に帰る方法が見つかったのです。次は少し時間が必要になりますが」
「なに、詳しく話してくれ」
「なるほどな」
「どうします。キョウゴクさん?」
「う~む、…………いや、止めておこう。ここの連中を見捨てる訳にはいかん。悪いな」
「いいえ、キョウゴクさんなら、そう言うと思っていました」
「所で、テレストラの国王が代わったそうだな」
「ええ、ですので父上を許して欲しいのです」
「そうしよう。恨みを岩に刻みたくは無い、水の上に書いて、さっと流す事にした。リックのお陰だな」
「くすぐったいですね」
ーーーー
サキが元の世界に帰る日が来た。
「サキ、良いぞ」
「…………」
「サキ?」
「うぇ~ん、嫌だ、帰りたくないよう。ずっとここにいたいよう、私を追い出さないで、うぇ~ん」
おっと、子供になってしまった。心理学で言う所の退行ってやつか?
「よしよし、サキは僕の奥さんだ。ずっと、ここに居て良いんだよ」
「ほんとう?」
「そうよサキ、私達は仲間よ」
「居て良いの?」
「「「もちろん!」」」
「へへ、やった」
ウソ泣きかよ。
サキの茶番劇から一月後、ラダステリィ王国、クリスティン女王から使者が来た。
「新しくワラヴォルト王国に出来た大聖堂において、各国の国王が集まり、この世界の様々な事について話し合がしたいとの事です」
うん、元の世界のサミットの様な物だね。
「解った、出席すると伝えてくれ」
「ありがとう御座います」
「ねえ、酔いどれの魔女。じゃ無かった、プリメイラ先生を呼んで来て」
「はい、リック様」
「何でしょうか?リック様」
「どう、研究は進んでる?」
「バッチしです」
「こんど各国の国王が、集まる事になったんだ。そこで発表して見なよ、この間の大地が沈む話しも、関係しているんだろう」
「そうです、ありがとう御座います。魔法協会の奴らギャフンと言わしてやる」
ーー
第一回、異世界サミットの日がやって来た。今回の参加国はこの世界の全てで、18か国だ。
俺達の乗ったヤクトビートルが、大聖堂横の広場に降りると、2人の男性がひざまずき、手を合わせる。
まるで神殿で、礼拝をしている様だ。何をしているのか、大聖堂の神父様に聞く。
「あれは、バンテン王国とペントレス王国の国王です。リック国王が乗ってきた魔獣を、神の使いとして崇めているのです」
ああ~、そんな事も有ったな。
大聖堂に入り、神父様に控え室に案内してもらった。
時間になったので、みんなには待っててもらい、控え室から大会議室ヘ移動する。
俺を除いて17名の国王がいるが、9名は顔見知りだ。
通常なら、ホスト国はワラヴォルトになるが、今回は発案者のクリスティンが進行を行う。
話の中心は、やはり大地沈没の件だ。ドワーフ国王の連れてきた研究員の説明が始まると、知らなかった国王達は、青くなっていた。
「クリスティン女王、追加の説明が有るのだけど、良いでしょうか?」
「皆さん、宜しいでしょうか?異議が無いようなので、お願いします」
酔いどれの魔女こと、プリメイラの説明が始まる。
「つまり、勇者召喚などの特殊魔法を使うと、魔素の元の異常増加に繋がり、大地沈没の周期が早くなると?」
「その通りです」
「なんじゃと」
声を上げたのは、魔法大国ジェルローム国王。顔が青くなったのは、テレストラ新国王のバンタムさんだ。
「この件について、皆様の考えをお聞かせ下さい」
大会議室は静まりかえった。しょうがないな、もう。
「簡単な話ですよ。特殊魔法は試験を行うのも使用するのも禁止、と言う事です」
「ううっ」
呻き声を上げたのはジェルローム国王ね。プリメイラ先生は嬉々としている、満面の笑みだ。
ーーーー
「リック様、私はリック様こそ、王の中の王だと思っています。行動力、勇敢さ、そして思慮深く皆に慕われて……これからも宜しくお願いします」
ふふふ、照れてしまうぞクリスティン。
「リック、またニヤニヤしてる」
「今度は誰を思い出してるのよ」
「僕は、みんながいて幸せだなと思ってさ」
やくざに刺されて死んで召喚された時は、ついてないと思ったが、神様による転生まで有ったのはラッキーだったよな。
こんな可愛い女の子となんか、元の世界じゃつきあえないし、クリスティンには王の中の王とまで言われるしな。
いろいろ有ったが、俺の人生はバラ色だ。そうだ今度、リリアナ様の神殿を建てよう。
☆☆☆☆☆
「く、苦しい」
「グラウギル様、もうすぐ産まれそうで御座います」
「私の最高傑作となる子だ。なんとしても無事に産ませるのだ」
「はい、畏まりました」
もっと早く完成していれば、愚鈍なダドウサ国王になどに任せず、この手で実行出来たものを。今にみておれ、必ずこの世界を私の物にしてみせる。
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