28話 リュケイオン魔法学園

 

 ――リュケイオン魔法学園・生物部第五の檻



「元気にしてたかー」

 

 俺は餌につられてやってきた、飛竜やグリフォンたちに手を振る。

 彼らは魔物ではあるが知能は高い。


 生物部である俺の顔を覚えている。

 魔法の収納箱から、大きな肉塊を取り出しぽいぽいと放り投げた。


「クー♪」

「グルルル♪」

「キュキュキュ♪」


 食べ物を前にご機嫌な声で鳴く、魔物たち。

 魔物とは思えぬ可愛らし……、いや。

 やはり迫力はある。


 飛竜やグリフォンのような飛行型の魔物たちが、大きな肉を鋭い鉤爪でつかみ自分の巣へと帰っていく。

 ここで飼っているのは、全て『飼い主』がいる魔物である。


 魔物を扱うのは勿論魔物使いテイマーであり、『生物部』に所属している者の職業はほぼ全員が、テイマーだ。

 例外は俺くらい。


 俺が『生物部』に入部させられたのは、学園長の命令。

 そして、唯一魔王や神話生物が封印されている大地下牢に入れるからである。


 魔物使いでもないのに週に一度の生物部の管理する魔物の餌やり当番が回ってくるのは、やや理不尽に感じる。

 まぁ、そうは言っても生物部の魔物たちにも愛着が湧いてきたからいいんだけど……。

 そんなことを考えていると。

 

「よー、ユージン」

 キラキラ光る洒落た鎧をつけた、竜騎士の男がこっちにやってきた。


「クロード、また生物部の檻ここに来たのか。暇なのか?」

「いやいや、この後も女の子と約束してるからさ。忙しい合間をぬって親友に会いに来たんだよ☆」

「つまり暇なんだな。手伝え」

「お、おい」

 俺は強引にクロードにも餌やりを手伝わせた。

 

 生物部の檻に居るのは中型~大型の魔物。

 比較的おとなしい種類が多いが、それでも魔物。


 普通は任せられないが、英雄科のクロードなら問題ないだろ。


 俺たちは、つつがなく魔物の餌やりを終わらせることができた。

 俺は餌やりを手伝ってくれたクロードに、水の入ったガラス瓶をぽいっと投げる。


「おっと」

 危なげなくそれをキャッチしている。


 瓶は魔法の保管箱に入っていたため、キンキンに冷えている。

 俺も一本取り出し、それをごくごくと飲み干した。

 

「で、何の用事なんだ? クロード」

「つれねーなー。祝いの言葉をかけにきたに決まってるだろ? 30おめでとう」

「……見てたのか。ありがとう」

 少し照れくさかったが、素直に礼を言う。

 

 そう、俺とスミレは数日前に無事に30階層を突破した。

 そして現在は、その休養期間中だ。

 クロードは俺の迷宮探索の話を聞きたかったらしい。


「今回の30階層の階層主ボスはオークキングだったな。そんなに強いボスとは言えないが、二人だけで倒すってのは探索者の常識セオリーじゃありえないぞ?」

 クロードに笑われた。

 その指摘はまったくもって正しいため、俺は苦笑するしかない。 

 

「スミレの魔力制御が甘くてさ。他の探索者仲間をいれたくても魔法が暴走したらと思うと、難しいんだよ」

「見た見た。オークがスミレちゃんを襲おうとして、彼女が悲鳴を上げた瞬間周りが火の海になってたな。いやー、あれは笑った笑った」

「笑えないんだよなぁ……」

 ため息を吐く。

 実のところ、30階層はそれでうまくいった。


 オークの群れを率いるオークキング。

 その群れを一番多く倒したのは、スミレの魔法だ。

 もっともそれは彼女が意図したわけじゃないが……。

 

 俺とスミレは500階層を目指す探索者。

 しかし、最終迷宮は二人だけで到達できるほど甘いダンジョンではない。

 スミレの魔法の制御と、仲間の確保が目下の課題だ。


「ユージン。探索者仲間に困ってないか?」

 クロードが少しだけ真剣な顔になる。


「ま、ゆっくり探すさ。まだ30階層だ」

 俺は気楽に答えた。

 実際、こんな低階層で気張ってもしょうがない。


 今のところは二人で安全に探索できている。

 次の40階層、さらに上の50階層の階層主ボスは少し二人で挑むには怖いが……。


「助っ人が必要なら、いつでも声をかけてくれよ。手伝うからさ」

「クロードが? おまえは別のパーティーを組んでるだろ?」

 その提案に俺は首をかしげる。


 クロードはすでに100階層を突破している『A級』探索者だ。

 所属探索隊パーティーの名は『蒼の牙』。

 蒼海連邦でも名のしれた戦士たちが集まった探索隊と聞いている。

 今さら30階層をやっと突破した俺たちの手伝いをするメリットがあると思えない。


「『蒼の牙』は、同郷の出身者で集まった連邦の威信をかけたお硬いパーティーだからな。勝手できないし、100階層を突破したあとはほとんど探索してないんだよ。俺はもう少し気楽な面子で探索したいんだ」

「はぁー、なるほどな……」

 どうやらエリートなりの悩みはあるらしい。


 とはいえ、クロードが手伝ってくれるとなると助かるのは確かだ。

 リュケイオン魔法学園で一握りしかいない『英雄科』の勇者クロード。

 助っ人としては非常に心強い。


 ただ、一点だけ困ったことがある。


「現在、俺たちの三人目のメンバー候補は、なんだけど」

「…………まじ?」

「レオナはスミレと仲がいいからな」

「そ、そうかー」

 俺の言葉に、クロードが頭を抱える。


 そんな反応になるのは、知ってた。

 なんせ元カノだからなぁ。

 一緒のパーティーは、さぞ気まずいだろう。


「レオナとうまくやってくれるなら、声かけるよ」

「……お、おう」

 俺の言葉に、クロードは顔をひきつらせた。


 手伝ってくれる、という言葉は嬉しかった。

 ……こいつの女癖の悪さがなければなー。


 その後、クロードは他愛もない雑談をしてから別れた。


 ちなみに「スミレちゃんとはどこまでんだ?」という下世話な質問には、頭をしばいておいた。


 エリーといい、学園長といい、どうしてそっちに話を持って行きたがる?


「おいおい、あんな可愛い子をフリーにしとくのか? あとで彼氏ができてから後悔するぞ」

「お前じゃねーんだ」

 とクロードには返したが、実際男女探索者パーティーで恋人同士になるケースは多い。


 俺とスミレが……?

 俺はスミレの保護者だぞ。

 

(いや、でもな……)

 あれだけ綺麗な子だ。

 学園の男たちは、放っておかないだろう。

 うーむ……。


 その日は、クロードからの言葉が頭から離れなかった。




 ◇スミレの視点◇




「今日から火魔法の授業に参加することになった指扇スミレさんです。彼女のことは皆さんも知ってますね? スミレさんは異世界人です。基礎的な知識はリン先生が指導されています。が、まだまだ戸惑うことも多いでしょう。困っていたら皆さんが助けてあげてください。では、スミレさん。挨拶を」


「は、はい……! 指扇スミレです。今日からこちらのクラスに参加します。よろしくお願いします」

 短い挨拶をして、ぺこりと頭をさげる。


 ぱちぱちぱち、という小さくない拍手で迎えられた。


(うぅ……大丈夫かなぁ)

 普段、私のことを色々助けてくれるユージンくんやリン先生の姿はない。

 そもそも、火魔法の授業を受けるように勧めてくれたのは二人だ。


 ずっとマンツーマンではなく、徐々に他の生徒と一緒に授業を受けたほうがいいということだった。


 私がこの世界にやってきてからそこそこ時間も経っている。

 以前より私を奇異の目で見る人は減った。


 それはつまり、特別扱いしてくれる人も減ったということだ。


 席は空いている所に自由に座る形式だったので、私はおどおどと最前列の空いている席に腰掛けた。

 そして、先生の授業を聞き漏らさないように集中して聞いていると。


「スミレさん、スミレさん」

 隣の席の子に声をかけられた。


「え?」

 振り向くとそこには、眼鏡をかけた真面目そうな女の子が座っていた。


 ……どこかで見覚えが。

 私の表情が出たのだろうか。


「私はテレシア・カティサーク。生徒会室で一度会ったのだけど、覚えているかしら?」

「あー! テレシアさん。覚えてます!」

 たった今思い出しました。


 声が大きかったのかもしれない。

 先生が、ちらっとこちらを睨んだ。

 

 それから授業は真面目に聞いていたが、やっぱり難しいところもあって。


「うーん……」

 と悩んでいると。


「スミレさん、さっきの先生の説明の意味は……」

「な、なるほどぉ!」

 隣のテレシアさんが、さりげなく教えてくれた。


 

 ……キーンコーンカーンコーン



 授業終わりの鐘がなる。

 異世界でも、同じような仕組みなんだなぁ。


 って、そうじゃない。

 お礼を言わなきゃ。


「テレシアさん! さっきは教えてくれてありがとうございます!」

「いえいえ、困っている人を助けるのは当然だもの」

 と上品に笑うテレシアさん。


 優しい……。

 ジーンとしながら、テレシアさんの容姿をまじまじと見つめる。

 黒に近い灰色の長いストレート髪と、眼鏡をかけた真面目そうな外見。


(うわ……、テレシアさんって、よく見るとすっごい美人)


 いわゆる地味っぽく見せて目立たなくしているタイプの美人さん。

 前の世界にもこういう子っていたなぁー。


 委員長っぽい感じ。

 できる美人さん!

 仲良くなりたい!! って思った。


「テレシアさんは魔法使いなんですよね?」

 私はもっと彼女のことを知りたくて、質問をしてみた。

 魔法使いクラスに居るのだから、当然そうだと思っていたら。


「うーん、ちょっと仰々しくて恥ずかしいのだけど私の職業は『賢者見習い』なの」

「賢者!?」

 なんか凄そう!


 てか、凄いよね。

 たしか攻撃魔法と回復魔法を全部仕える職業だよね。

 リン先生に教えてもらった。


「……の見習いよ? まだまだ修行が足りないから賢者は名乗れないの」

 と言って微笑むテレシアさん。


「すごいなー。私なんて気がついたら、勝手に魔法が発動しちゃうし……」

「そ、それはそれで凄いと思うのだけど」

 私がしょんぼりと言うと、テレシアさんに驚かれた。


「はやく魔法を上達して、ユージンくんの助けになりたいんだけど……」

 私たちはこの前、30階層を突破した。

 けど、私の魔法は暴走してばっかり。


 ユージンくんは「気にしなくていいよ」って言ってくれるけど。

 私は少し焦っていた。

 500階層を目指すのは、私のためのはずなのに私が足を引っ張っちゃってる。


 その時、気づいた。

 テレシアさんが、私を「じーっ」と見ていた。


「テレシアさん?」

「あ、いえ……、スミレさんってユージンくんとは恋人同士なのかしら?」

「えっ!?」

 唐突な質問をされた。 

 

「ち、違いますよ! あの、別にユージンくんとはそーいうのじゃないです、……まだ」

「……まだ」

 ふむ、とテレシアさんが何かを考えるように顎に手をあてている。

 

「テレシアさんは、ユージンくんと仲いいんですか?」

 ま、まさか美人なテレシアさんが、ユージンくんを狙ってる!?


「あー、いえ。私じゃなくて生徒会長が…………って、あら失言でした」

 テレシアさんがわざとらしく口を押さえる。


 生徒会長さんって、この前会ったサラさんって銀髪のアイドルみたいな派手な可愛い子だよね。


 ……あの子は、絶対にユージンくんにべた惚れだった。

 

 そっかー、テレシアさんはサラさんと仲いいのかー。

 じゃあ、私とは仲良くしてもらえないかな。

 なんて考えていると。

 

「ふふ……、そんなことは気にしなくてよいですよ。私は生徒会の庶務で、聖国カルディアの貴族です。カルディアでは、異世界を大切に扱うことは運命の女神様からの強い『教え』です。学園のルールでも、異世界人は大切にするよう決まってます。……それとは別に、私も興味あるんです。スミレさんの持つ炎の神人族の魔法に」

 と言っていたずらっぽく笑うテレシアさん。

 ただの社交辞令の可能性もあるけど。

 私は、テレシアさんが心から言ってくれているように思えた。


「じゃあ、これから一緒にお茶でも」

 と誘おうとした時。


「おーい、テレシアちゃん。迎えに来たよ」

 いつの間にか、私たちのすぐ近くに一人の男の子が立っていた。

 いつの間に近づいていたのか、全く気配を感じなかった。


 キラキラと光る、オシャレな鎧を来た彼は見覚えがあった。

 金髪が眩しいイケメンの男の子。

 

「クロードくん。約束の時間はまだでしょう? 待っててください」

「早くテレシアちゃんに会いたくてさ」

「……もう!」


 やってきたのは、ユージンくんの自称親友クロードくんだった。

 そして、レオナちゃんの元彼氏。

   

 ユージンくんの友達ってことなら仲良くしたいけど、レオナちゃんの元彼ってことならちょっと考えてしまう。


「あれ? スミレちゃん?」

「……こんにちは」

 クロードくんは私に気づいたみたい。

 私はややぎこちなく会釈した。


「なんだ、テレシアちゃんとスミレちゃんは仲良しだったのか。邪魔者は退散するよ。テレシアちゃん、いつものところで待ってるから」

「はいはい、またあとで」

 クロードくんはひらひらと手を振って教室から出ていった。


 その後姿をテレシアさんは目で追っている。

 テレシアさんは、邪険にしているようで嫌がってはいなさそうだった。


「えっと、テレシアさんはクロードくんと仲いいの?」

「いえ、まったく。彼、しつこいんですよね~。一度夕食に行ったら急に距離が近くなって」

 はぁ~、と悩ましげにため息を吐くテレシアさん。


 その仕草は、嫌いな男に言い寄られているというよりは、まんざらでもないという空気を感じた。



(ん~~~~~?)



 これは……テレシアさんとクロードくんは、少し仲?

 でもユージンくんが、彼はどんな女の子相手でも軽薄だって言ってたし。



「それで……ごめんなさい。本当はもっとスミレさんとお話したいのだけど……」

「いえいえ~。別の約束があるんですよね。またの機会に」

「ええ、今度はお茶に行きましょう」

 そう言ってテレシアさんは教室を去っていった。


 その足取りは軽い。


 その日はすこしもやもやとしながら寮へと帰った。




 ◇翌日◇




「ねぇねぇ、スミレちゃん、聞いて聞いて! クロードが今度一緒に出かけようって誘ってきたの!」

 体術部の基礎練習に参加させてもらった休憩時間。

 レオナちゃんが私に話しかけてきた。


「へ、へぇ~……。よかったね、レオナちゃん!」

 私の脳裏には一瞬、昨日のテレシアさんとクロードくんの仲よさげな様子だった。


 が、それは表情に出さずレオナちゃんの嬉しそうな様子に合わせた返事をする。


「あいつってばさぁー、やっぱりレオナが居ないと駄目だって~。仕方ないわね~」

 レオナちゃんが嬉しそうに、サンドバッグをバンバン蹴っている。


 数日前は「クロードのクソヤロー!」って言いながら、蹴ってたサンドバッグだ。


「じゃ、じゃあ、よりを戻すの?」

 私は返事の決まった質問をする。


「うーん、どうしよっかなー」

 なんてレオナちゃんは言ってるけど、クロードくんに迫られたら絶対にOKするんだろうなー、と思った。


 実に楽しそうだ。

 私はその様子を見て、昨日のテレシアさんとクロードくんの会話は忘れることにした。

 うん、私の心配し過ぎだよね!


「ねぇ、スミレちゃんはユージンさんとはどうなの?」

「え?」

 話題の矛先がこっちを向いた。


「そろそろキスでもした?」

「し、してないって!?」

 びっくりする。

 そもそもユージンくんとは、別に付き合ってないし……。


「駄目よー。最近、ユージンさんの人気が急上昇してるんだから。単独で神獣ケルベロスを撃退するなんて、将来性抜群なんだから。ただでさえ、ユージンさんのお父さんは帝国の偉い人だし。うかうかしてると別の女の子に盗られちゃうわよ?」

「え、えぇ……」

 レオナちゃんの剣幕にたじたじになる。


 けど、言ってる内容は理解できた。

 ユージンくんカッコいいし、実家はお金持ちで、剣と魔法の世界ですごく強いとなれば、そりゃモテるはずだ。


 今は恋人は居ないと聞いてる。

 でも、可愛い子から告白されて付き合うことになったら……。


 私とユージンくんの二人探索隊パーティーにその子も加わるのだろうか?


 で、私の目の前でイチャイチャされる?


(きっつ!!!)


 無理無理無理!

 絶対に耐えられない。


「スミレちゃん、今度の探索で告白しちゃえば?」

「こ、告白っ!? ……うーん、どうしようかなー」

「お、実は乗り気?」

「待って待って! 結局、レオナちゃんはクロードくんとどうするつもりなの!?」

「えっとー、その話はまた今度……」

「そっちが先に教えてー」

 そんな話題で盛り上がった。


 ……おかげで、次の探索まで少し落ち着かなかった。




 ◇天頂の塔・入り口◇




「今日は31階層からだな」

「うん!」

「……スミレ?」

「がんばろー!」


 私はユージンくんと腕を組んで、歩く。

 少し戸惑っているようだけど、振り払われはしなかった。


 ……はたから見れば、恋人同士の探索者に見えるかな?


 天頂の塔バベルの1階には、沢山の人がたむろっている。

 もちろんリュケイオン魔法学園の生徒の姿もある。

 彼らからの視線を感じたけど、ユージンくんは気にしてないみたいだった。


「スミレは、魔力の扱いは慣れた?」

「う……、まぁ多少は~」

 真面目に魔法の授業を聞いて、リン先生の指導も受けている。


 以前よりは、魔法の暴走回数は少なくなった。

 けど、異世界人の私に魔法の扱いはまだまだ難しい。

 

「ま、焦らずにいこう」

 ユージンくんは、私に気を使うように微笑む。

 くっ……、このナチュラルイケメンめ。

 

「ユージンくんに魔法を教えてもらえたらなー」

 ちょっと、甘えてみる。


「俺は攻撃魔法を使えないから」

 困った顔をされた。

 あっ! しまった。

 ユージンくんは自分の白魔力を気にしてるんだった。


「ち、違うよ!? 変な意味じゃなくて」

「わかってるって」

 私の言葉を聞く前に、ぽんぽんと頭を叩かれた。


(くっ……、余裕の態度が崩れない)


 押しが足りないのかなー、と思ったけどユージンくんが優しいので私は心地よかった。

 当分、こんな関係でもいいかなーと思った。

 その時。

 



「……ユージン」



 

 ぽつりと。

 ユージンくんの名前が呼ばれた。


 小さな声なのに、鈴の音のようによく通る。

 声の方向を向くと、銀髪が輝く妖精のように可愛らしい女の子が立っていた。


(あの子って……)


 会うのは二度目。

 最初に会ったのは生徒会棟。 

 そして、彼女は生徒会の代表のはずだ。


「サラ?」

 ユージンくんが、少し驚いたような声をあげる。


「どうし……」

「ユージン!!! どうして会いに来てくれないの!?」



 生徒会長のサラさんは、初めて見た時のようにユージンくんの胸に飛び込んだ。



 ――うかうかしてると別の女の子に盗られちゃうわよ?



 レオナちゃんの言葉が蘇った。


(フラグ回収が早いよ!!!)


 早くも私の平和な迷宮探索生活が崩れ去ろうとしていた。

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