第3話

そして2人目の面会者。現れたのは赤い髪に紫の瞳の令嬢だった。


「久しぶりね、ジョシュ・・・」

「ゾーイ・・・」


彼女はゾーイ・アダムス。伯爵令嬢だ。僕がまだ6歳の頃、ウッドセン家で開かれたお茶会で出会った。


もちろん、僕はお茶会に参加していた訳ではない。それどころか、お茶会が開かれていたことも知らず、図書室と自室を往復していた際に邸宅内で迷子になっていた彼女と出会ったのだ。


「ちょっとそこのあなた!」


後ろから快活な女の子の声がしたが、僕は素知らぬ素振りでそのまま自室へ戻ろうとした。まさか自分に声をかけられたのだとは思わなかったのだ。


「ちょ、ちょっと!あなたよ、あなた!あなたしかいないでしょう!」


そう言って慌ててこちらへ駆け寄ってきた彼女は僕の腕を掴んだ。


「っ!」


そして振り返った僕の顔を見て固まった。


「き、綺麗・・・」

「?」


しばらくそこから動かない彼女に仕方なく僕から声をかける。


「あの・・・何か?」

「あっ!そうだったわ、私会場の場所がわからなくなってしまって。悪いけれど、案内してくださない?」

「会場?」

「お茶会の会場よ!」

「お茶会をやってるの?」

「・・・あなたお茶会の参加者じゃないの?」


その言葉に僕はフルフルと首を振る。


「それじゃあ・・・?」

「僕は・・・ジョシュア。一応この家の子なんだ。」

「まあ、そうだったの!ならウッドセン家当主様の肖像画がある部屋といえばわかるかしら?」

「ああ・・・」


そうして僕は彼女をお茶会の会場とやらまで案内することになった。・・・本当は一刻も早く部屋に戻って本を読みたかったけれど。


彼女は道中もとてもよくしゃべった。


「私はゾーイと言うの。アダムス伯爵家の長女よ!うちの家はお父様がやり手で、子爵家から伯爵家へ上り詰めたの。」

「へぇ、それはすごいね。」

「ええ!弟も生まれてうちは安泰だって皆言ってるわ。」

「そうなんだ・・・その、ゾーイは・・・ご両親と仲はいいの?」


楽しそうに自分の家族について話をする彼女を見て、ふとそんな疑問が口をついて出た。


「ええ、うちは家族全員仲がいいわ。あなたは?」

「僕はあまり・・・僕以外の家族がどうかは知らないけど・・・」

「そう、なの・・・」


雰囲気を暗くしてしまっただろうか。そう思って彼女の顔色が気になったが気づけば目的地のすぐ近くまで来ていた。僕はやっと自室に戻れることにホッとして、ゾーイに向き直る。


「ほら、あそこの部屋が肖像画のある部屋だよ。」

「あなたも一緒にお茶会に参加しましょうよ。」

「いや、僕は・・・両親に嫌われてるから。」

「そんなになの・・・?」


僕は曖昧に笑って頷いた。


「それじゃあ、さようなら。」


そう言って去ろうとすると、彼女が僕の背に向かって話しかけてきた。


「あの!手紙を送るわ。」

「?」

「だ、だから気が向いたら返事を書いてね。」


そう言ったかと思うと彼女は逃げるように部屋へと入っていった。

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