第33話 命名

「それにしても……随分人懐っこいね」


遥の膝元に座るドラゴンを撫でながらルナは不思議そうにそう言った。


無理やりどかすのもなんとなく可哀想なのでそのまま遥の膝の上に座らせているが……ドラゴンとは思えないくらいに大人しいことに疑問を抱くのは当然ことなのだが、遥はなんとなくわかってるように言った。


「まあ、シロのタマゴから生まれたから遺伝なんだろうね」

「遺伝……シロさんも大人しかったの?」

「まあね。ドラゴンとは思えないくらい優しい奴だったよ」


先日ルナの前で弱い部分を見せたことで若干気持ちが楽になったからだろうか。


遥は自然とそう答えていた。思い出すのは今はなき友人の姿――膝の上に座る白いドラゴンを大きくしたらまさにかつての友人の姿になるだろうことは明白なくらいそっくりな姿をしていて、そして遥が出会ったこの世界の誰よりも優しく穏やかな性格だった友人を懐かしみながら遥はドラゴンの頭を優しく撫でて言った。


「とりあえず名前決めないとね。ルナは何かある?」

「うーん……遥は?」

「そうだね……『こはく』とかどうかな?」


パッと思い付いた名前をあげてみた。単純にシロの子供なのでこはく――少し洒落た感じにするなら漢字で琥珀と書けばいいだろうという安直な考えだったが、ルナはそれを聞いて頷いた。


「じゃあ、それでいいと思うよ」

「いいの?」

「私もこはくって名前の響きは好きだからね。それに、この子女の子みたいだし、可愛い名前だと思うからね」


そう、ルナの言うようにこの子は女の子――メスなのだ。


ドラゴンの雄と雌の見分け方は非常に簡単で、背中の面に角のようなものがあれば雄で、なければ雌という見分け方が一般的なのだが……まあ、そもそもドラゴン事態を見る機会はそうそうないので本来は不要な知識なのだが、ルナは元々の博識さで知っていたし、遥はシロやクロと知り合ってから教えてもらったので知っていたことだったのですぐにわかった。


「んー、じゃあ、あとはこの子次第か。こはくって名前でいいか?」


遥がそうドラゴンに言うとドラゴンは首を傾げてからペロリと遥の手を舐めて鳴いた。


『きゅー』

「……いいのかな?」

「みたいだね」


クスリと二人で顔を見合わせて微笑みあうルナと遥。


こうしてあっさりとドラゴンの名前が決まったのだが……ふと、ルナは思い出したように言った。


「そういえば、ドラゴンって何を食べるの?」


一般的なイメージでは動物の肉などがあげれそうだが、いかに博識なルナでもそこまで細かいことまでは把握していないので不思議に思いそう聞いてみると遥は少し悩んでから言った。


「結構何でも食べるらしいよ。人間と同じものを食べるドラゴンもいるらしいけど……それは個体によって異なるってクロが言ってたはず」


クロいわく、ドラゴンは育つ環境により食べるものも、育ちかたも変わるので、特に決まったものはないそうだが、人間と同じように肉でも魚でも野菜でも何でも食べるドラゴンもいれば、逆に動物の肉以外は食べないドラゴンもいるらしいのでそこら辺は個体によって異なるらしいのだ。


そんな遥の回答にルナは少し困ったように言った。


「じゃあ、とりあえず夕食はどうしようか」

「今日は何を作ったの?」

「肉じゃがだよ」

「肉じゃがか……とりあえず出してみて食べるかどうかで判断するべきだろうね」


そんなことを言いつつ遥はドラゴン……こはくを抱き上げて食堂へと移動した。


すでに準備が整っている机の上にこはくをのせるのもなんなのでとりあえず遥はこはくを空いてる席に座らせようとするが、こはくは椅子の上に置かれるとしばらく辺りを探してから遥の膝の上へと戻ってきた。


「あはは……なつかれてるね遥」

「まあ、生まれた時に一番始めに俺の顔を見たからだろうね」


所謂、刷り込みというやつだろうと遥は思った。


生まれたばかりのひよこは一番始めに見たものを親だと判断するらしいが、おそらく、こはくも遥を一番始めに見たことで刷り込みがされたのだろう。


とはいえ……


「多分、ルナでも同じようにしてくれると思うよ」

「そうかな?」

「間違いなくそうだよ」


遥の力を取り込んでいるこはくは、おそらくルナに対しても同様になつくだろうことは用意に想像できた。


何故なら遥にとってルナが特別なように、遥の力を取り込んでいるこはくにしてもルナは特別な存在だからだ。


「とりあえず……肉じゃがを食べさせてみるかな」


そう言って遥は箸で肉を膝の上に座るこはくに近づけると、こはくはそれを見てしばらく匂いを嗅いでからパクリと雛鳥のように食べた。


それを見てルナは少し安心したように息を吐いた。


「よかった……とりあえず食べるみたいで」

「そうだね。まあ、ルナの料理は美味しいから当然だけどね」

「そんなことは……」


照れるルナを愛しく思いつつ遥は順に食卓に出ているものをこはくに食べさせるが、結論から言ってこはくはそれらをすべて食べたのだった。



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