第10話 王子の困惑

「しかし……お前が結婚するとはね」


遥が帰って来たのでお茶をいれるためにルナが一度台所に向かうとロバートはそう言った。


「まあな……って、そんなに驚くことか?」

「そりゃお前、この2年の間、僕が何回か貴族の可愛い子を紹介するって言っても断ってただろ?だからてっきり女に興味がないのかと思ってけど……」


チラリと視線を隣のマイヤに向けて二人で頷いている。


酷い勘違いに遥は頭を押さえて言った。


「見ず知らずの貴族の令嬢なんて紹介されてもね……それに俺はルナに惚れたからプロポーズしたんだしな」

「お前からプロポーズしたのか?」

「まあね」


そう言うとまたしても訝しげな表情をするロバート。


彼の知る時雨遥という人物からは想像も出来ないことに混乱しているのだ。


ロバートが遥と出会ったのは2年前……当時、魔の森の魔物の数が一時的に少なくなったことに疑問を抱いたアーカシア王国はその調査のために部隊を編成して魔の森へ探索に出掛けたのだが、その時に指揮を取っていたのがロバート・アーカシア第二王子……ロバートだったのだ。


王子の中でもっとも知略と戦術に長けており、尚且つカリスマ性が高いロバートが選ばれたのは当然のことだったのだが……その探索の途中で魔物の大群に襲われて、部隊を分断され、大勢の魔物に囲まれて窮地に陥っていたのを助けたのが遥なのだ。


それからロバートはすぐに遥のお陰で魔物の数が減少していることを知り、尚且つ、命の恩人である彼と友人になったのだが、その時から何度か打算を込めて国に来ないかと誘いをかけていたのだが、いい返事は貰えずにいた。


美しい貴族のご令嬢などの紹介もしていたが、遥はそれらの話にまるで乗り気でなかったので、てっきりその手のことに興味がないのだと思ってたのだが……本日来てみればいきなり結婚していたので驚いているのだ。


それに……


「なぁ……彼女って元貴族なのか?」

「ああ。言っとくが本人には何も聞くなよ。あれでもかなり辛い目にあってきたんだからな」

「……そんな面倒そうな女をお前が貰うとはな」


ロバートの知る時雨遥は優しいがどこか冷めている人間だと思っていた。


面倒事や目立つことを好まずひっそりと暮らしていたいようなそんな人間だと思っていたので、どうしても不思議に思えたのだ。


そんなことを考えていると遥は苦笑して言った。


「まあ、単純なことだよ。俺はあの子を……ルナのことを心から愛してしまったんだ。だから何があってもあの子を守る」

「そうか……まあ、おめでとうさん。友人として祝福するよ」

「おめでとうございます。遥さん」

「ああ。ありがとう」


二人からそう言われて素直に喜ぶ遥。まあ、ロバートとしては結婚させて国に勧誘させることには失敗したが……友人として喜ばしいことには変わらないので素直にそう思えた。


そんな風に話しているとルナがお茶を持ってやって来たので遥はルナを隣に座らせると改めて二人に紹介した。


「改めて、この子が俺の妻になったルナだ」

「よろしくお願いします」

「それで、ルナ。こっちの二人は俺の友人のロバートとマイヤだ。時々こうして遊びにきてるんだけど……こんなんでも一応、アーカシア王国の王子とその騎士様だ」


その言葉にルナは驚いたように二人をみてから、慌てたように頭を下げた。


「王子様とは知らずにご無礼を……」

「気にしなくていいよ。ここに来てるときはプライベートだからそんなに固くなる必要もない。楽にしてくれ」

「ですが……」


なおもなにかを言いたげのルナを遥が優しく抱き寄せて言った。


「大丈夫だから。普通にしないと二人の前でルナにお仕置き・・・・しちゃうよ?」

「……!?わ、わかりました……」


それだけでルナは大人しくなる。


そんなルナを愛しいく見つめてから遥が友人二人に視線を向けると――何故か二人は呆然としていた。


「どうかしたのか?」

「いや……えらく仲睦まじいから驚いただけだよ」

「まあ、相思相愛だからな」


恥ずかしげもなしにそう言う遥。


なお、ルナはその言葉に更に顔を赤くした。


その言葉に二人は顔を見合わせて苦笑した。


「本当に仲良さそうで何よりだよ。しかしそうなると、そのうち子供が出来たらこの場所だとなにかと不便じゃないか?」

「そこは俺も迷ってるが……まあ、どこかに別荘でも買って暮らすことも考えてるよ」

「なるほど。ならその時はうちの国に来てくれ。厚待遇で歓迎するよ」

「ま、なんにしてもしばらくは二人の時間を楽しみたいから子供はそのうちな。色々準備をしないといけないしな。それに……俺とルナの可愛い子に不便な思いはさせたくないからな」


ふたりがそんな風に会話をしている横で、ルナは遥に抱き寄せられたまま腕の中で赤面しており、それを微笑ましげに見つめるマイヤという図があったのは言うまでもないだろう。



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