七不思議は信じない!(葵と希菜子の事件簿)

麻木香豆

第1話

 この日は大雨だった。とある私立の女子高校でも休憩時間。


「うわ、トイレ棟の工事現場の基礎が流れてる」


 三階の校舎の窓から二年生たちがそう言って見ていたのは新しくトイレを増築工事をしている場所。

 しかしそのトイレ棟工事をし始めた途端に大雨が降り始めて基礎がながれてしまっているのだ。もちろん大雨で工事関係者はいない。


「古いトイレを閉めて新しいトイレを作るからきっとトイレの花子さんが嫌がらせしたんだよ」

 と、女子生徒たちがそう話をしている。そこに割って入った者がいた。


「いつまでもそんなお化けとかなんとか知らないけどな、そんなのはあるわけない! 根拠はあるのかい? 花子さんやナメナメ星人とか!」


「うわ、また出た……探偵もどき」

 彼女たちは『探偵もどき』となじった生徒を冷ややかな目で見て去っていってはまたどの妖怪やお化けがこの大雨を降らせたかで盛り上がっている。


「たく、妖怪とかお化けとかいつまでたっても子供ね!」

 と怒ってるのは二年生の下石葵おろしあおいだ。ショートヘアに地毛の赤茶色の髪は寝癖がツン! と立っている。探偵もどきと言われてるのは、身近に起きる出来事をほぼ推測だが解きたがることで知れ渡っているからである。


「まぁまぁ、数年前まではみんな子供だったし、今も大人か子供かわからないですもの。お化けとか幽霊ってロマンがあっていいと思うけどね」

 葵を宥めるのは地元の和菓子屋の娘、同じく二年の朝日希菜子あさひきなこであった。三つ編みを2本垂らしている。希菜子は葵が大好きで大好きで仕方がない。


 2人はこの高校で初めて出会ったのだが、入学式に希菜子が葵を見て一目惚れして猛烈アタックしたのだ。

 それから二年生になった今、付き纏うかのように希菜子は葵のそばにいて二人はほぼ一緒にいる。


「あー、ほんと学校つまんねー。事件の一つや二つ派手に起きないかなー」

 葵がそう言うと希菜子は窓の外を再び見て


「早速事件事件」

「嘘?!」

 葵は期待して外を見るが、ただ校長が流れてる基礎を傘をさしてボーゼンとしてるだけであった。雨が強すぎてスーツとかも濡れている。


「なんだよ事件じゃないじゃん。でも修繕に金かかるから校長もショックだよね」

「また私たちの親の血と汗と涙が学校に吸い取られるんですね」

「ある意味それも事件だ」

 と2人はこんなふうにしてたわいもない時間を過ごしてる。葵もなんだかんだで悪くはないとは思っている。


 カツカツカツ……二人の元にヒールの音が近づいてきた。

「貴方達、もう少しで授業始まるわよ」

 理科担当の御嵩紗子みたけさえこだった。スカートルックにおっとりとしているがマドンナ的な人気のある可愛げはあるのだが少し目の奥が笑ってない。


 葵の腕にしがみつく希菜子を見て御嵩先生は

「青春ねぇ」

 と言って去って行った。


 葵はそうかぁ? という顔をしているが横の希菜子はニコーっとする。そして二人とも教室に走って行った、が……。


「こら! 廊下を走るなっ」

 今度のヒール音はとてもリズムが速い。うわ、と葵たちは振り返る。


「うわー」

 仁王立ちするのは美術担当、高橋綾子たかはしあやこだった。小柄な痩せ型。御嵩先生とは違ってモノトーンルックで赤いメガネが異色感漂わせ、気高い雰囲気を醸し出す。彼女は規則に厳しい。そして授業開始のチャイムが鳴った。

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