第三章

第25話 告白(1)

私があなたと仕事をするようになったのは、確か6年前の美恵子ちゃんの事件からですね。


あなたはよく「ひさばぁ」と呼んで頼ってくれましたね。私は嬉しかったです。まるで息子ができたみたいでした。


でも、今回はあなたに謝らなければならないことがあります。

2つです。

今回のことと、もうひとつは美恵子ちゃんのことです。


美恵子ちゃんのこと、あなたもよく覚えているでしょう。

可愛い子でしたね。目がまんまるの三つ編みの髪を今でも思い出します。

あなたは彼女を愛しさと悲しみと共に思い出すでしょう。

でも私は違うんです。

私は彼女を思い出すと罪悪感に胸が潰れます。


「東京藤川医科大学病院に入院している美恵子ちゃんとお母さんからの依頼が来たから手伝って欲しい。」


あなたがそう私に協力依頼しにきたのは6年前の9月26日。まだ日差しが強かった日です。よく覚えています。

私の運命が変わった日ですから。


この依頼はあなたにとっても、私にとっても大きな依頼でした。依頼金もそうですが、依頼内容がとんでもなかったですから。


『美恵子が病院でつくった友達が先日手術の失敗で亡くなった。しかしその友達の母の話によると、その手術は失敗しようのない簡単な手術だそうだ。美恵子もかなり悲しんでいる。病院側にミスがなかったか調べて欲しい。』


実際に美恵子ちゃんの母親に話を聞くと、美恵子ちゃんも同じ医者に手術をしてもらうことになるから警察沙汰にして手術を遅らせたり、変に疑って恨みを買い、手術を失敗させたくないという想いから私たちに相談したと言っていましたね。


ああ、そういえばなんでこの依頼に私みたいな老いぼれを手伝わせたのか今でもわかってないんです。もしかして人員が足りないから1番安いなんでも屋に頼んだ訳ではないでしょう?


すみません、謝罪の文で脱線してしまいました。

あなたは病院内部について調べ、私は美恵子ちゃんのお母さんや友達のお母さんなどに話を聞きました。

親族以外に病棟に入れなかったので勝手に美恵子ちゃんの祖母として入っていましたが、何度も美恵子ちゃんに会ううちに本当の孫のように思えてきました。


「久子おばあちゃん、折り紙教えて。」


何もせずに折り紙だけ教えて帰った日もあったり、なかったり。とにかく、幸せな日々でした。


それは突然来ました。

ここからはあなたに報告していない内容です。


病院を勝手に歩き回って情報を仕入れていた時、二人の医者がなにやら話している声を聞きました。

私はすぐに物陰に身を隠しました。


「お前さ、今年何件医療ミスしてるんだよ。この前のガキなんて死んじまったんじゃん。」


「いや、しょうがねぇだろ?俺ら本当は成績悪くて医者になれなさそうなところを、親に金払ってもらって西畑さんに口利きしてもらって医者になれたんだから。そもそも頭悪ぃんよ。」


「ははは!それな。でも代わりに給料まぁまぁ安いけどな。」


「その辺のサラリーマンよりは高いんじゃね」


「確かに。てか、今夜飲みに行かない?」


「いいねぇ。ってお前明日手術だろ?ダメだろ禁酒しなきゃさすがに。お前飲みすぎるから二日酔いするぞ?」


「いや大丈夫だって。手術はノリだよ。俺はお前と違ってまだ1回も医療ミスしてないんだよ。」


「1回も?すげぇな。」


「まぁ、したところで西畑さんにちょっと怒られるくらいだよ。お前みたいに死なせなければ『今回はここまでの施術しか出来ませんでした。別の病院で続きをしていただきます

。』とか言って、また西畑グループの病院に連れて行って手術代ぶんどるんだってさ。」


「ブラックだな。ここ辞めて暴露本書いた方が売れるんじゃね。」


「お前声がでかいって。ここ辞めた奴ろくな人生歩んだやついないから。西畑グループは敵に回さない方が身のためだぜ。」


「おお。怖ぇ。」


私は人生で初めて怒りに身を震わしました。

許せない。そんな感情が私の動きを不自由にしました。


私はついよろけて音を立ててしまいました。

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