第13話 セイコウとシッパイ

憲介の予想に反して、水森恭子は両親のことを話してきた。

父親が借金を残して夜逃げしたことと、母が亡くなったこと。

憲介は西畑からの資料の内容は全て確認できたと思った。そして水森恭子の信頼をやっと手に入れることができたとゆうことも。


興奮気味にすべてを話し終わり、肩を微かに上下させる水森恭子に対して憲介は

「大丈夫ですよ。」

と言い、優しく彼女を抱きしめた。

恋愛感情はないけど、傷ついた友を守るように。

憲介の肩はじんわりと熱くなった。

 


実家(設定)に行ってから水森恭子は憲介に馴れ馴れしくなった。例えばこんな会話があった。


「憲介さん、私そろそろ敬語やめてもいいですか?あと、私のほうがちょっと年上ですし。」

顔はガキのそれだった。

「別にいいですよ。」

「やったー。ありがとう憲介!」

これもガキのそれだった。

あと憲介には敬語は解禁されなかった。


別の日には

「私達ずっと本名で呼び合ってるけど、そろそろあだ名ってやつで呼んでみない?」

憲介はもう見慣れたが、水森恭子の本当の精神年齢はだいたい十歳くらいだった。

「いいですよ。」

「いや、いいですよじゃなくて考えてよ。私の...ニックネームってやつ。」

憲介はできるだけ恥をかかないようなやつを考えた。

「じゃあ.....きょうちゃん.......とか?」

そういった途端、水森恭子の顔が出会った頃の顔に戻った。それから無理やり笑わされてるような顔になって、

「うーん。ちょっと嫌かな。そうだ!『きーちゃん』がいい!」

憲介は「何が違うんだよ」と思ったが口には出さずに承認した。

「じゃあ憲介は『けー君』でいい?」

これには憲介も嫌な顔をして、

「それは嫌かな。『けんくん』ならいいよ。」

と水森恭子のような返しをしてしまった。


成り行きで同棲も始まった。

水森恭子の「普通・・そうする」とゆう意見で決まった感じだった。

気づけば憲介は仕事とゆう感じが無くなっていた。水森恭子はいつも一緒にいる、いつも弁当を作ってくれる、いつも一緒に寝る、でも好きじゃない人だった。

人としては嫌いではなかったが、全く恋愛感情は生まれなかった。


同棲して1ヶ月くらいして水森恭子は仕事から帰った憲介にこう聞いた。

「けんくん、私たちこれじゃあダメじゃない?」

「ダメって?」

憲介は少し冷や汗がでた。なにかバレたのか。それとも別れようとしているのか。

どちらでも、この計画が失敗してしまうことに繋がってしまうからだ。

「だからその、、、夜がさ。」

「夜が?」

「もう言わさないでよ。普通カップルが一緒に住んでいたら夜にそうゆうことするんじゃないの?」

憲介は思わず苦笑いをした。いつもの「普通・・はする」なんだが、まさか水森恭子からそうゆうことを求めてくるとは思わなかったからだ。

しかも憲介の構想外すぎる。いや、普通は考えてもおかしくないが、憲介にとってはありえなすぎる話であった。

そこで憲介はズルい手を使った。

「きーちゃんがそうゆうことしたいの?」

「きーちゃんがしたいならいいよ。どうなの?」

わざと責めるように、恥ずかしさを煽るように言った。

「いや、そうゆう訳じゃないよぉ.......」


このときの顔が憲介の思う一番可愛い顔だった。

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