第10話 ダウトゲーム(2)

2人は都内のカフェで会うことにした。

憲介は先に来て紅茶を飲んで待ってた。紅茶は好きな訳では無いが、この仕事に就いてから飲むようなった。理由は言うまでもない。

紅茶を半分くらい飲み終えてしまった頃に

「お連れの方です」

と店員が女性を連れてきた。

その女性、水森恭子は憲介の予想とはかなりかけ離れた雰囲気だった。

後ろで結ばれた髪、整った顔立ち、そして大人びた雰囲気があった。

憲介は第一印象勝負だと思い、

「初めまして、円谷憲介です。」

と憲介の中では最上級の丁寧さで挨拶した。

水森恭子は軽く会釈をしながら、

「初めまして、水森恭子です。」

と同じように返した。同じよう返したはずだったが、憲介の挨拶が子供用に思えた。

よく見ると水森恭子の服装はやっぱり庶民的な、それこそ憲介がよく着ているようなブランドだった。しかし水森恭子は上手く着こなしており、憲介のがかなりしょぼく、子供じみて見えた。

「あ、すみません。先に頼んじゃってました。」

「いえいえ、私がもう少し早く来るべきでしたね。私も何か頼もうかしら。」

そうやったメニュー表をめくる手すら憲介には大人びて見えた。

彼女がアイスコーヒーを頼んだところで二人の間に沈黙が流れ出してしまった。

恋愛目的で会ったとは思えない緊張感が2人ともに流れていた。

憲介はどうにかして話そうと思ったが、天気の話題しか思いつかなかった。恋愛している時は何を話せばいいのか。そんな思春期の中学生みたいなことを考えていた。

そもそも憲介は恋愛なんて得意じゃない。前は弥咲が広すぎる心で憲介を受け止め続けてくれたから成り立っていただけなのだ。

憲介がうだうだしていたら水森恭子から話しかけてきた。

「私、結婚にとても憧れがあるんです。素敵な男性に出会って、素敵な恋愛をして、素敵な結婚生活を送りたいんです。それも両親の影響で、2人ともとても仲が良くて素敵だなって思いますね。」

水森恭子は笑顔でそう言ってから、汗をかいたアイスコーヒーを1口飲んだ。

彼女は嘘をついている。そう憲介の安い勘が言った。そもそも西畑の資料と矛盾した話だ。でも憲介はあの薄っぺらい資料の中の数少ない情報では確証が持てなかった。

そこで憲介は彼女を試すためにこう返した。

「僕も結婚には憧れがあります。父親がとても母親に優しくて、かっこいいんです。僕もそんな夫婦になりたいなと思いますね。」

わざと水森恭子の目をよく見て言った。

「そ、そうなんですね....。」

またにこやかに振舞っていたが、明らかに水森恭子は動揺した。次は何度もアイスコーヒーを飲んでいた。これは両親が仲がいいとゆうのは嘘で確定だろうと思った。

ではなぜ嘘をついたのか。憲介はじれったくなり、ある奇策を思いついた。それはこういったものだった。

「いきなりですけど、僕と結婚を視野にお付き合いしませんか?」

普通ではありえないスピードでの告白を憲介は試みた。もし憲介の予想が違えば、西畑の依頼内容を達成できない可能性がかなり高まる。でも、するだけの価値はあると思った。

水森恭子は「えっ?」と一瞬戸惑ったが次の言葉は予想の範疇はんちゅうだった。

「嬉しいです!まさかそんなに早く告白していただけるなんて思ってなかったんですけど、私も会った瞬間気が合うなって思っていたんです。ぜひお願いしたいです。」

憲介の予想は当たったようだ。

理由は分からないが水森恭子は結婚を焦っている。異常なほどに。

SNSでの恋人募集、唐突な結婚関連の話から予想したことだった。嘘をついたのは結婚したいアピールをするためだと考えた。

憲介はトイレに立ち、水森恭子が結婚をしたがる理由を考えた。

単純に生活を支えて欲しいからか。確かにそれなら納得がいくが、これほどまでに焦る必要もない。彼女は何かを隠している。

考え続けるうちに憲介には水森恭子という存在すら危ういのではないかと思い始めた。やはり偽名を使った赤の他人なのか。

どれだけ考えても思考が堂々巡りするだけであった。

その日は「今日はこのへんで」とか適当なことを言って解散した。


この日から婚約者・・・との奇妙な日々が始まった。

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