第4話 部屋はサムいし、頭はアツい

憲介は帰り道で今回の依頼についてまた考えていた。

弥咲は憲介が言い出した作戦と言っていだか、この作戦はほとんど依頼人が提示してきたものだった。


―遡ること半年前―


その日憲介は、事務所がだいぶ底冷えするようになってきていたのでエアコンのスイッチを入れるかどうかでかなり頭を悩ましていた。

中三のとき読んだシャーロックホームズの「緋色の研究」で一気にミステリーの世界に引きずり込まれた憲介は、大学を出てすぐに興信所を設立した。

奇々怪々の難事件や未解決の大事件が舞い込んでくる!わけもなく、週一の浮気調査でしか稼げないは日々を過ごした。気づけば28を迎えた。冬にはカウントダウンを1つ進めてしまう。親からは転職しろと言われ続けてきたが意地を張ってやり続けてきた。

しかし、今ではエアコンのスイッチ1つに明日からの生活を左右されている始末。

ヴァイオリンも引けなければ、後にも引けない性格だから決断はなかなかつかなかった。


諦めてエアコンのスイッチを入れた憲介のもとに1本の電話がかかってきた。

「もしもし円谷興信所です。依頼は何ですか?」

そう言い終えたとき、憲介は何故か少年の時の気持ちになった。

「今からそっちに向かってもよろしいですか?」

男の声だった。

「はい、もちろんです。午後8時までならいつでも大丈夫です。」

そのまま何も言われずに電話を切られてしまった。


依頼人はすぐに来た。電話から1時間経っていないくらいだった。

コンコン、「先程電話した者です。」

「あ、どうぞお入りください。汚いところですけど、、、」

憲介は依頼人の姿を見て思わず言葉を失ってしまった。奇抜なやつが来たわけでも、異様な雰囲気なやつが来たのでもない。

むしろその逆だ。

体に合った漆黒のスーツを身にまとい、重厚な顔はこれぞ権力者の佇まいであった。

憲介は思はず2歩後ろに下がってしまって、それから1歩だけ前に出て、

「ど、どうぞおすわりください。」

と流れる背汗を感じながら言った。


依頼人は憲介の想像より遥かに礼儀正しく、穏やかな人柄だった。はじめ憲介はカタギの人物かと思っていたが、彼は自分を西畑海運株式会社のCEOの西畑敏三だと言った。

人を信用できない憲介はトイレに行くと言いその場を離れ、トイレの中で調べ直した。どうやら本当らしく、会社のホームページにはあの重厚フェイスがデカデカと載っていた。「しーいーおーって社長…。ま、マジか。」小声でそうボヤいたあと、

「ひゃ、150億円!?」

と大声で叫んだものだから

「大丈夫ですか?」

と西畑に言われてしまった。

西畑海運は年商151億、社員600人を抱える大企業であった。西畑はそんな会社を1代で作り上げた。

そんな情報を見れば見るほど憲介の頭は熱を帯びていくだけであった。

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