第13話 先輩たち

 俺はサーカスのテントへ無事移動することができた。


 だが目を覚ましたビローさんに、新入りである俺の実力を確かめるため、喧嘩をふっかけられた。


 俺はそのため先輩のビローさんに、高火力ファイアブレスをくらわせてしまった。


 ビローさんは怒ったらしく、無言で俺の方へと歩いてくる。


 肩をすくめ歯を食いしばると、やはりと言うべきか、俺はビローさんに肩を思い切り叩かれた。何故か肩を組まれるようにして。


 あれ、何か思っていたのと違う。


「お前やるじゃん。ええ? これがあのツタまみれを倒したって言う技か。すげぇな」


「え、はあ。え?」


 なんだ。本当に思ってたのと違う。


 なんだビローさんのその笑顔。なんだ。なんて言ったこの人。


 俺、怒られるんじゃなかったのか。


 鞭打ちじゃないの?


「おい。どうした緊張してんのか」


「はい」


「いいんだよ。お前はもうオレたちの仲間なんだ。気軽にヤングとでも呼んでくれ。敬語なんて必要ないからな」


「え?」


「おい。どうしたはこっちのセリフだ。先ほどまでのドーラに対する接し方と全く違うじゃないか」


「そ、そうですよ。困惑しますよ」


 俺とリルの抗議に対し、ふっふっふ。と鼻で笑うと、ビローさんは腰に手を当て下を向いた。


 なんだ。なんで笑ってるんだ? 火を吹かれて楽しそうな人は、アリサ以来なんだが。


 大抵の場合、そんなことされるなんて聞いてないと逆ギレされるのに。


「新入りに舐められないため、あとは、これからやっていくのに生半可な覚悟じゃダメだということを伝えるためっすよ。オレは別にいじめたかったわけじゃないっす」


「それはわかるが」


「そもそも、実力がある人間を正しく評価できないのは良くないじゃないすか。何も準備なく火を吹けるなんて面白いし、そりゃリルさんもコイツをスカウトするのも納得っすよ」


「わかってくれたならいいが」


「と言うことでだ。ドーラ。改めて、オレはヤング・ビロー。ヤングとでも呼んでくれればいい」


「はい。ヤングさん」


 俺がヤングさんを呼ぶと熱そうに手を振った。


「いいいい。そんな堅苦しくなくて。さっきのは本当に演技なんだ。お前の実力がわかれば十分だと気づいたからな。わかったか?」


「わかった」


「何してんのヤング。うるっさいわね。人が寝てるのに大声出さないでくれる?」


 俺たちが騒いでいたせいか、もう一人ツタから助け出した女の子の方が起き出した。


 肩よりは短いくらいのピンク色の髪。射抜くようなつり目は同じく団員であるヤングのことを見ている。


 リルと同じく、賊のような服装に身を包んでいる。


 少女、服のほこりをはたきながら立ち上がった。


「おい、マイル。新入りだぞ新入り。お前以来の新入りだ。しかも期待の新人だ。コイツはすごいぞ」


「新入り?」


 マイルと呼ばれた少女は、何を言っているんだといった表情を浮かべたものの、すぐに俺と目が合った。


「あ、どうも初めましてワタシ、マイル・フェニーって言います」


 なんだろう。ヤングに対するものとだいぶ印象が違う。


「もう猫かぶっても遅いと思うぞ」


「うるさいわね。あんたのせいでしょ? あんたが静かにしてれば普通に新入りを歓迎できたわよ。ほら、見てみなさい。引いてるじゃない」


「それはマイルの変化が大きいからだと思うぞ」


「いちいち言わんでいい!」


「いったー! お前、人を強化ができるからって、逆に使って弱体化するのやめろよな。それに図星なら図星ってわかりやすく反応しない方がいいと思うぞ。やめろ。痛い。マジで痛い。折れちゃうって」


「おい。助けてくれた恩人の前でなんて態度なんだ!」


「え?」


 今までヤングを殴っていた手をマイルが止めた。


「ヤングには言ったが、ツタからマイルを助け出したのはこのドーラだぞ」


「ど、どうも」


 やはり何度言われてもしっくりこない。


 照れると言うかなんと言うか。


「え、ああ。そうなんですか」


 おや、また急にしおらしくなった。


「あの。これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ」


「では、ドーラにも、コイツは我がサーカスの看板娘のマイルだ」


「はい。看板やらせてもらってます」


 営業スマイルなのかもしれないが、なんだか胸がドキドキする笑顔だ。


 これが看板娘の力。


「看板娘なんだ。可愛いもんね」


 俺は口を滑らせたと思い、口をふさいだ。


 こう言うことは親しい奴が言わないとキモいだけだ。


 やはりと言うべきか、マイルは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


 また、怒らせてしまったか。いや、さっきは冤罪だったが。


 スルスルと滑り寄ってくると、ヤングが口を開いた。


「あいつ、あんな性格してるけどサーカスに入るだけあって、結構夢見がちなところあって、お姫様な境遇に憧れてるんだよ。だから、ピンチを助けられてお前に惚れてるんだぜ?」


「え?」


 俺は改めてマイルを見てしまった。


 そのマイルは顔を赤くしたまま、こちらを見ることなく、黙ってヤングの首根っこを掴むと引きずっていった。


「あんた人のことを勝手にペラペラと話してんじゃないわよ」


「だから、黙ってればオレの冗談で済んだだろうが。わざわざバラすようなことしてるのマイル自身だからな」


「うるさいうるさい」


 ヤングのことを弱体化して殴り始めた。


「まあ、見ての通りマイルは人を強化したり、弱体化できる能力者だ。ドーラのような見かけの派手さはないが。私の能力を見通したり少し力を強くしたりするのとは訳が違う、しっかりとしたサポーターだ。ドーラのブレスも強化されると思う」


「なるほど。それはありがたい」


「ヤングに関しては今は何しているのかわからないかもしれないが。ジャグリングやナイフスローイングがうまい。対人戦ならこの中で一番強いだろう。素手で構えていたが、気づかれないようにナイフを投げるためのブラフだ。もし本気でやる気があるならお前は今頃立っていないんじゃないか? ツタ相手じゃうまく戦えなかったようだが、大抵の相手はなんとかなるもんだ」


「へぇ。全く見えない」


「今はそうだろうな。だらしないように見えるかもしれないが、やる時はやる奴らだ。信頼してやってくれ」


「もちろん」


「あんたのせいで印象台無しじゃない」


「オレのせいじゃないって」


「おい! いい加減にしないか」


 ギャイギャイ言ってる二人と止めに入るリルを見ながら、俺は苦笑いを浮かべた。

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