第4話 スカウト

「私のサーカス冒険団に入らないか?」


 名も知らぬ女性を森で助けたら、よくわからないものにスカウトされた。


「はい? サーカス冒険団?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


「そうかそうか。いいだろう。入団を歓迎しよう。よろしくなドーラ」


 リルは俺に向けて手を差し出した。


「いや、今のはい。は疑問のはいで」


「何を訳のわからないことを言っているんだ。ほら、行くぞドーラ」


 無理矢理手を取られ握手させられてしまった。


 せめてなんなのか教えて欲しいのだが。


「あの」


「いや、サーカスにいたならちょうどいい。どうせ旅をしていたのだろう?」


「その通りですけど」


 とは言え街までの方向はさすがに把握してたはずなんだがなぁ。


「通りで私が知らない訳だ。ということはここの地理には詳しくないだろう。ついでに教えてやる。ついて来い」


「え、ええ?」


 何故か先導を始めた女性を追うために、俺は慌てて走り出した。


 行くアテもないし、サーカスなんて言っているから、もしかしたら俺にぴったりの環境かもしれない。


 なんだかよくわからないが、この森を出るためにもとりあえずついて行くことにしよう。


 何にしても、これからは聞き返す方法を変えた方がいいかもしれない。


「あの。サーカス冒険団ってなんですか?」


「よくぞ聞いてくれた!」


 女性は急に大声を出した。


 また、さっきのツタの仲間が来ることを警戒する俺をよそに、女性は高笑いを浮かべた。


「そんな調子で大丈夫なんですか?」


「ああ。大丈夫だ。あいつに耳はないからな」


 俺はホッと息を吐き出した。


 ならとりあえず警戒は必要ないか。


「サーカス冒険団はそのままの集団さ」


「そのまま?」


「そう。言った通りだ。世界を旅し行った先でサーカスとしてショーを披露したり、冒険者として冒険をしたりしているのさ」


 言葉だけ聞くとものすごくワクワクする。


 冒険者。それは、俺がサーカス団員になった後も、憧れを持っていた職業だ。


 スキルがダメなだけに、目指すことはなかったが、色々なところを冒険しに行くのは胸が躍る。


 しかし、団と言いつつも今いるのは目の前の女性が一人。


 それに、俺の所属していたサーカスは、危険な場所を移動する時は護衛をつけて移動していた。なかなかに危ない橋を渡っているのでは。


「そして、私はそのサーカス冒険団、団長のリル・ジャグナーだ」


「あの。リルさん」


「リルでいい。それと、敬語は必要ない。団長と団員と言っても、上下のない組織だからな」


「わかったす。リル。つかぬことを聞きたいんだけど、メンバーはどれくらいいるの?」


「ドーラが団員三号だ」


「俺が三号? 少なっ!」


 もっと多いのかと思ってた。


 よっぽど大きなサーカスから、だいぶ落ちぶれたサーカスに落ちたんだな。俺って。


「そんなにがっかりするな。敷居が高いと思われているだけだ。一人一人が優秀で入るに入れないのだろう」


「本当に?」


「本当だとも。どちらかだけならやりたいと思うものは多いが、どちらもというのはなかなかいないのが現実なんだよ」


 まあ、俺もサーカスしかやって来なかったしそれはそうか。


「ドーラが聞いたから今度は私が聞く番だな」


「どうぞ」


「お前、力がみなぎる感じはしないか?」


 突然何をと思うものの、確かにリルの言う通り、先ほどよりも不思議と力があふれるのを感じる。


 しかし疑問だ。俺ですら指摘されるまで気づかなかったというのに、リルはどうして気づいたのだろう。


「なんでわかったの?」


「私だって無能じゃないさ。これでも人を見る目はあるんだ。実際ドーラが珍しいスキルを持っていることもわかる。元から強かったのだろうが、余計に強くなったはずだ」


「それも本当? 気休めでも嬉しいけど、俺が強かったなんて思えない」


「本当だとも。スキル、ブレスなんて、人で持ってるやつはこれまで見たことがないぞ」


「でも、俺はサーカスをクビにされたんだぞ?」


「それはおそらく強すぎて扱えないか、正しく判断できていないかのどちらかだ。お前のいたとこのリーダーが間抜けで私は大儲けできた。むしろ感謝だな」


 アリサにしても目の前のリルにしても俺のことを高く買いすぎだ。

「そもそも俺のスキルは火吹き芸でブレスじゃないんはずなんだが」


「いいや。ブレスだぞ?」


「なんでわかるのさ」


「これが私のスキルだからだよ。人を従え人の力を見抜く。団長として必要な審美眼というスキルさ」


 怪しいと思いながら俺は周りを見回した。


 俺が団員三号なら、他の団員の姿も見えるはず。


 しかし、誰の姿も見当たらない。


「俺とリルの他に誰もいないように見えるけど」


「一人で来たのさ」


「こんなところにリーダーが一人で来て何してたの?」


「やろうとしてたのはこの森の主。あいつを探していたんだ」


「森の主?」


「そう。私が捕まってた相手だ」


「あれが? 倒しちゃったよ?」


「違う。あれは一部だ。だが、一部でそこらのモンスターよりははるかに強いはずだ。相性がいいとは言え一撃で倒すとは、私のスキルがあっても驚きだ」


 通りで力が湧いてくるわけだ。モンスターを倒し今までにないレベルアップしたのだ。


 それで火吹き芸がブレスへと進化を遂げたのだろう。


 そもそも俺の火吹き芸ってこんなに強かったのか……。


「何を一人で浸っているのだ。行くぞ。ツタがあったと言うことは森の主はすぐそこのはずだ」


 歩き出したリルに続いて俺は走り出した。


「見つけてどうするのさ」


「従えるんだよ。もしくは倒してもいい。サーカスでも冒険者でもどちらもやってると選択肢が多くていいぞ」


「なるほど。ってどうやって」


「私のスキルか。ドーラのスキルがあればいいだろう。大丈夫。お前ならできるさ」


「はい」


 返事してしまったが、この人はどうして一人でこの森に来てしまったのだろう。話しぶりからすれば、周りの人の強化もできるようだ。


 誰か連れて来ればよかったのに。


 それにしても、もう森の主を目指すとは、先ほどツタに絡め取られたことをもう忘れているのかもしれない。


 堂々としているが案外抜けている人なのだろう。


 団員になったついでだ。ここは進化したスキル、ブレスを試すためにも森の主のところまで行くとするか。

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