◆もの思いにふける

 そんなことを考えていると騒がしい声が聞こえてくる。

「だから、お前なんかに勉強を教えられるか!」

「はぁっ⁉別にあんたに勉強教えてほしいって頼んでないんだけど」

 二人が言い争っている。

 どうやらさっきの話の続きらしい。

 現状はなんとなく理解できるが李奈りなに一応訊いておこう。

「いったい何があったんだ?」

 微笑みながら紙コップに口をつけている李奈に現状確認を行う。

「私が『だったらヌエ君に勉強観てもらったらどう?』と提案したところこうなっちゃった」

「なるほど。理解した」

 あんな短い考え事の最中にここまでケンカが発展するとはな。

 しかし、つくづく李奈とは気が合うな。

 オレも考え事をしていなければ李奈と同じことを提案していただろう。

 そう思って李奈の方を向くと李奈もちょうどこちらを向いたので必然的に目があってしまう。

 李奈と目を合わせると意識せずにあの日のことを思い出してしまう。

 あの日のことを思い出して急速に恥ずかしくなってしまったオレは急いで視線をそらす。

「どうしたの?顔真っ赤だよ」

「いや、ちょっとあの日のことを思い出しただけだ!」

 何をバカ正直に答えているんだオレは!

 気持ち悪い男だと思われてしまう。

 このままでは李奈に嫌われてしまう危険性があるので弁解するしかない。

 オレは恐る恐る李奈の方を向く。

 だが、先ほどまで目が合っていた李奈は今はこちらを向いておらず視線を宙に浮かせ少し遠い目をしていた。

「…… 李奈?どうしたんだ」

「……ううん。何でもないの。少しもの想いをしていただけ。さっきの悠聖のように」

 観られていたのかさっきの姿を。

「それより、そろそろ止めた方がいいんじゃない」

「え?」

「あの二人結構エスカレートしているよ」

 李奈が遠い目をやめて見つめた先には、取っ組み合いをしているヌエと美波の姿があった。

 先ほどまでの微笑ましいと思っていたケンカとは違い今は二人とも殺気立っている。

 二人があばれた後なのか、机の上のお菓子やジュースは床にちりばめられていた。

 このままでは帰ってきた妹に怒られるだろうな。

 これ以上被害が拡大する前に、

「二人を止めてくる!」

「止められるの?私も手伝おうか?」

 少し責任を感じているのか李奈も立ち上がり加勢しようとする。

「大丈夫だよ。こういうのは男の役目だ」

「だったらなおさら私も手伝わないと」

「…… ?いいからそこで待ってろ」

 李奈のわけのわからない言動は置いておいて二人の間に立ち、止めに入る。

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