◆賢者モード

「…… 勃っちゃたらどうしよう!」


「おとこの娘が勃たなくするにはどうしたらいいの?」


 そういって李奈りなは羞恥にまみれる赤い顔を隠すようにうつむいてしまった。

 心の中で『おとこの娘の苦悩を理解できなくても支えることは出来る』と言っておいてよかった。

 言わなかったら今頃逃げ出していただろう。

 それぐらい強烈な質問だった。

 質問した李奈も恥ずかしすぎるのかジャージの裾をつかみプルプルと震えている。

 どうやら李奈はおとこの娘のそういった質問をするのが恥ずかしいらしい。

「…… 。なあ、李奈。オレと一緒に風呂に入ったときよくみてはいなかったんだがあのときは確か勃ってなかったよな」

「うん」

 か細い声で返答してくる。

「それはつまりオレにみられても興奮しないってことか?」

 この質問は彼氏としては是非訊いておきたい質問だ。

 今後の沽券にも関わる話だしな。

「たぶん悠聖ゆうせいにみられたら興奮は…… すると思う。でも、あのときは緊張や恥ずかしさが勝っていたから。その…… 勃たなかったんだと思う」

 恥ずかしさが限界を突破したのか次第に涙目になっていく。

 これ以上この話を続けるのはやめよう。

 女の子を泣かせるのは男として最低だからな。

 本題の解決にのみ尽力を注ごう。

 緊張や恥ずかしさが興奮に勝って勃たないのなら、これらの感情を利用する手は使えない。

 何か別の方法で対処するしかない。

 …… と言っても対処の方法はすでに思いついている。


 結論。賢者モードになる。


 要するに溜まっていたものを排出してスッキリするということだ。

 これをすることにより男の子は賢者になることが出来る。

 しかし、これを女の子に伝えるのは難易度が高い。

 いくら今はおとこの娘でも好きな相手に『ちょっとトイレでヌいてこいよ!』なんて言えない。言いたくない。

 でも、悲しいかなオレにはそれ以外の妙案が出てこない。

 男なんてな。所詮下半身でしか物事を考えられない愚かな生き物なんだよ!

 そんな男嫌いな女の子の言ってそうなセリフしか思いつかない。


 李奈はいまだにプルプルと涙目で愛らしく震えている。

 ここは彼氏のオレが男らしくはっきりと物事を言わなければならない展開の様だ。

 男にはな。戦いを避けちゃならないときがあるんだ。たとえ嫌われたとしても。

 漫画の主人公のようなセリフが脳裏をよぎる。


「李奈。こうなったら賢者モードになるしかない!」

「賢者モード?」

 可愛らしく上目遣いで見上げてくる。

「イってスッキリするということだ!」

 良い笑顔で言ってやったぞ!主人公。


 ……うわぁ~李奈の表情が段々と無になっていく。ジト目になっていく。おとこの娘モードになっちゃうのかな。

「確かにそれはいい手だと思うよ。ただ一回で満足するの?」

 声音がいつもより冷たく感じる。

「普通は一回で満足すると思う」

「ボクはそういうのあまり経験ないからよくわからないけど。悠聖はいつも一回なの?」

 なんだが辱めの報復をされているような気がする。

 恥ずかしくて今度はこっちが涙目になる。

「あの~それはですね」

「一回じゃ満足しないよね。あのときは何回もしたよね」

「///ッ」

 あのときとはおそらくお互いの初体験のときだろう。

 たしかにあのときは舞い上がっていつも以上に張り切ってしまったが、それが通常運転というわけではない。

 普段はもっと可愛らしいものだ。

「思春期のしかも男の子の性欲を甘く見ているボクではない!この身で体験しているからね。嫌というほどね!」

 嫌だったんだね。何回もされるの。

 思春期の性欲に負けてごめんなさい。今度からは自重します。

 それはそうと、この話そろそろ終わりにしない。新学期早々泣きたくないんだけど。

 辱めと初エッチの失敗で二倍泣けるんだけど。

「それと学校でそんなことできるわけないでしょ!」

 ごもっともです。

「でも、それ以外に方法が思いつかないです」

「それじゃあ、悠聖は学校でできるの?何回も!」

「できません!」

 できないよ。学校でなんて。

 そういうのはもっと落ち着いた環境じゃないとできないんだよ。男の子は繊細なんだから!

 繊細だから辱めにも耐えられないんだよ!

 おとこの娘よりは繊細じゃないと思うけど。


 というか今の李奈の発言。

 もしかして、李奈は一回しただけじゃ満足できないということか?

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