その7 ~ハワイの謎 その4~

山中 慎太郎やまなか しんたろうは理不尽な結末を迎え、山田 花子やまだ はなこと言う少女に転生&転性した。今世では人類共通の敵エネミーが居て、微力ながら対抗組織が存在する…元の世界ではないが近しい世界であり、エネミーという異物から人類を守る組織がある世界だった。花子は人類の敵を倒す為に対抗組織「対エネミー自衛隊」に入隊の後、自らの高い肉体性能と魔法少女に変身することにより発揮する人外となったと自覚した今…半ばやけっぱちとなってはいるが自らの生活と母親を守る為に頑張ることとなる。そして…ダブルTS少女から魔法少女にクラスチェンジした山中慎太郎…否、山田花子は…本人の意思を他所に何処の誰かもわからない意図に依り、本人が気付かない内に身体を張った実験をさせられるのであった…そして、出張先でとある実験に巻き込まれた花子は、今…日本に帰還しているのだが…さて?

━━━━━━━━━━━━━━━


- 決戦は東京湾「鉄鋼ふ頭」? -


黒壱号ブラックを無音飛行で飛ばし続け…ついでに移動した周囲の黒い靄ダークマターを吸収しつつ花子は…山田 花子やまだ はなこは誘拐された母親を追い続けていた。追っているのは黒いバンだ。探知している生命反応から母親は眠らされているのだろう…身動みじろぎすらしないで寝かされている模様。幸い、バンの中には運転手と見張りの人員しかおらず、母親に悪戯いたずらしそうな雰囲気は無いようだ。


(…まぁ、俺からすれば元老婆に手を出すような連中だったら引くけどな…)


世の中には婆専って奴も居るから油断はできないが…(苦笑)


〈目的地だと推測される「鉄鋼ふ頭」です〉


バンは広いふ頭に入っても暫く走っていたが、ブラックが輪郭を強調表示している件の貨物船の付近で停車した。


「…バンが停まったな」


〈まだ出ない方がいいと思いますが…〉


「何故だ?」


〈人的被害を考慮しますと、慎重に行動した方が宜しいかと〉


「どちらの?」


〈?…双方ですが〉


「…何故敵の被害まで考慮しなくちゃ?」


〈宜しいので?〉


「俺の命を消そうとしてた連中だぞ?…それに、ここで失敗したからと堂々と戦争吹っ掛けてくるとは思えないし…多分」


連邦となる程、アメリカの各州が連合国家になったり元ソ連と手を組んだのは対エネミー戦略の都合上…と聞いている。アメリカは各州毎に警察や保有している軍組織があるが…それだけではエネミーに敵対するには力不足だった訳だ。故に、連邦として諸国を纏め上げ…特に軍事力に金を注いで保有戦力の向上に努めて来た…という訳だ。


「あのハワイは…恐らくは…」



対エネミーの実験場だったのだろう。


そして実験の結果…暴走して殆どが吹き飛んでしまい人が住めぬ地となって…


だが残った施設を用いて実験を継続しようとして…


偶々現れた、エネミーに対して少々強い俺を利用しようとして…


予想外なことにブラックが召喚されて抵抗され…実験は失敗と判断。


失敗の痕跡を隠滅しようとして地球すら巻き込みそうになって…


ブラックでダークマターを吸収して事なきを得たが………



「俺が生き残っていたとわかり、人質を取っていうことを聞かせようと…って訳だな」


ブラックとは血の契約で口にしてないことまで理解可能であり、その思考に上らない行間すら読めるようで…


〈理解しました。では、現在できる最善を尽くしましょう…〉


丁度、バンからは運転手と母親の見張りが外に出ており、バンの中には母親だけが残っている状況だ。そいつらはバンから離れて貨物船から来た恐らくは船員だろう者と何か話しているようだ。


〈では…行動開始しましょう〉


バンの周囲のダークマターの濃度が急激に上がり…離れた場所からは見え難くなる。


「・・・?」


「・・・!!」


慌てて戻ってくる人影。だが時既に遅し…バンは


バン!


がー…バン!


と、運転手側のドアとスライドドアが勝手に閉まってしまう(擬音であり、決して駄洒落ではない)


そして…


「オ-マイガッ!?」


目の前でバンが浮き上がる…それも、ゆっくり浮遊するような感じではなく、巨人が持ち上げるかのような勢いで…だが、それだけではない。


「リアリー!?」


「マイガッ!?」


そのまま数m浮き上がったかと思ったら、そのまま


スゥ~~~………


と消え去ってしまったのだ。そして、一陣の風が吹いたと思ったその後には…何事も無かったかのように静かになった。その場には、唯…貨物船の汽笛の音と、潮騒の静かな囁きだけが聞こえるに過ぎなかった…



- ブラック・コクピット内 -


「あっはっはっ…見た?連中の度肝抜かれた間抜け面!」


〈はい…これが愉快痛快って奴なんですね…大変興味深いです〉


現在、ブラックはバンを抱えた状態で東京湾から中野区へ帰還途中だ。できるだけ地上から見上げても問題ない高度を維持したいが…急に届け出も出さずに飛行している関係上、旅客機やヘリの航路に触れない場所を飛んでいるので、時折高度や移動経路を変えて飛行している(ブラックが何処からか傍受した飛行計画書を読んで変更している模様…なにこの便利なの!?)


(来る時はその辺、頭からぶっ飛んでたからなぁ…まぁ、道路から5mくらいしか離れてる所を飛ぶヘリや旅客機は無いから問題無いっちゃ無いか…)


緊急時…エネミーが現れた時の自衛隊なら有り得るが、通常時や対エ自が作戦行動を行っていても、そんな地上ギリギリを飛ぶことは…まぁ無いことも無くはないが、ほぼ・・無いだろう。そんな装備や人材を備えている支部は余り無いのだし?


(そんな人材・・は高円寺支部にしか居ないし、本人・・ここに居る・・・・・しなぁ…)


少なくとも東京には他に居るとか聞いていない。あの日、入院してた時に懐かれた?あの娘は…


(聞いた話だと北海道出身らしいな。今頃は北海道の…)


そうこうしている内に、ブラックは目的地である中野区の対エネミー自衛隊・高円寺支部の演習場に到着していた。初着陸時とは違い、離着陸場みたいな○にHの字があるヘリポートが用意されており、ブラックは隊員の誘導に従って静かに着地し…黒いバンも静かに降ろした。


「あー…ドアの拘束を解いて?」


〈了解〉


下から聞こえてくる「ドアが開かない」だの「どうやって開けるんだ?」という声に、そーいや忘れてたなとブラックに指示を出す…と、普通に開け放たれ…勢い余って運転席の左右のドアがひん曲がり、スライドドアも戻す時に力まないとスライドしなくなったが…まぁそれはいいとして。


「これ…矢張りアソ連邦のだな」


「あぁ…ナンバープレートは南北ア連邦のだがな?」


所謂外交官の所持している車の1つということだ。通常なら外交官ナンバーを付けている車といえば高級車のセダンなどを想像するがバンも無いわけではない。だが、内装をチェックしていた隊員が見つけた書類から、乗っていたのはアソ連邦の工作員と判断したようだ。


「あー…降りて来てくれるか?」


『了解です』


外からの音は外部マイクで拾ってコクピット内のスピーカーで普通に聞いていたのでしゃがんだ状態で地上高5mのコクピットでも聞き取れるが、こちらの声はわざわざ外部スピーカーに通さないと聞こえない。余り大音量でやりとりすると、時間も時間なので指向性スピーカーを用いて返事をする花子。


がしゅっ…うぃ~~~ん…


外部装甲が展開、内部装甲もスライドして花子が出て来る。


添えられた手の平に乗り込んだ花子は、気付く。


〈狙撃手です〉


ぱぁぁぁんん・・・


見上げた先には無音飛行ができる攻撃ヘリ…ではなく、狙撃銃を備えた大型のドローンが発射時の反動で墜落中だった。そして…


かん…


と、気が抜けた音と共に潰れた弾丸が花子の頭から跳ね返ってブラックの手の平に落ち、転がっていった…


「おお…びっくりした。まさか対エ自の敷地で狙撃されるとか思わなかったわ」


転がった弾丸(潰れてるが)を拾い、ブラックの腕はそのまま地面に降りていく…


「頭、大丈夫かっ!?」


「いや失礼な…」


「撃ち抜かれたんじゃっ!?」


「はいこれ。鑑識に回して下さい!」


「生きてるのかっ!?…死んでないよなっ!?」


「いや部隊長…死んでたらこんなに元気に動けないでしょ?」


と、パン!…と、ダンの顔を両手で音を立てて挟んで…要は同時に左右を平手打ちした訳だが(苦笑)


「痛っ!…ま、まぁ…良かった…」


と、両腕を持って開いていく部隊長。いや、痛いですから強く握らないで欲しいんですが?



〈ドローンは如何しますか?〉


(逃げないように捕らえておいて。あ、壊さないようにね?)


〈了解です〉


地面に墜落していたドローンはローターを破損した為、再び飛び立てない為に確保されていた。だが、他のドローンはその様子を見ていて静かに引き上げようとしていた為にブラックに捕縛されていたw


〈他に3基捕縛しました〉


(じゃ、こっちに)


転送されたドローンはローターを折られて飛び立てなくなっており、自爆装置も解除された状態で現れた。ドローンは遠隔操作で操作されるのだが既に通信は途絶しており、元を辿れる状態ではなかった。


「ふむふむ…こいつぁ…」


「何処のメーカーの物だろう?」


「これ…中華の安物じゃないか?」


「あ~…こっちの監視するだけの奴はそうですね」


「スナイパーライフル積んでるのは軍用みたいだが…」


「お前ら…仕事は此処じゃなくて、作業場でやれっ!!」


という訳で、演習場から倉庫へと、蜘蛛の子を散らすように駆けていく隊員たちだった(苦笑)


「…まさか、ドローンで狙撃をするとは…な」


「監視用のカメラを増やす必要がありそうですね…」


「ああ…だが、予算が下りるかねぇ?」


まさか、同盟国と思っていたアソ連邦からの攻撃。そして…想定外の爆発に隊員が巻き込まれる事態に混乱気味のダン部隊長。そしてあの報告書でその混乱に拍車が掛かっているのだ…


「あの…私は一体…?」


バンから出て来た花子の母親は、残っていた隊員(女性)に説明を受けていたが…娘?である花子を見て…途方に暮れているのだった…


※元々息子ですが、現世界では娘とご理解下さいwww



- 対エ自・高円寺支部に籠城? -


「…という訳で、花枝はなえさんの身柄を保護…となる訳です。ご理解頂けましたか?」


驚愕の事実が発覚…母親の名前を、家族でもないダン部隊長の口から知らされる現実…いや、調べようとも思わなかった俺が悪いんだけどさ…


(そっかー…別世界だもんな…名前が違っててもしょーがないかぁー…)


ちなみに父親は昭三しょうぞうっていう名前だった。まぁこっちは玄関の表札でわかったんだけどな?…勿論前の世界の名前とは微妙に違ってたさ…え?前の名前?…今更知ってどうすんだってって話だな…


「あー…母さん、これ…」


ブラックから渡されたアクセサリだ。


〈母御に渡して下さい…〉


といわれて持ってきた奴だが、体を守る護符みたいなもんだと。致死性の攻撃や身柄を拘束されそうになると発動するらしい…ちなみに見た目は薄い金属製の腕輪だ…装着すると体に浸透して見えなくなるそうだが黙ってた方がいいだろうな…怖がって装着してくれなさそうだし。


「これは?」


「護符みたいなもんだよ。付けてみて?」


「そうなの?…」


この世界の母親は、何も疑いもせず装着し…腕に嵌めてすぐ消え失せるとそんな怪しい物を受け取ったことすら忘れたかのように振る舞う…周囲の人間も同様だ。


(え?…どうなってんのこれ…)


護符アミュレットの存在を覚えられると色々と困りますので、マスター以外の方々からは記憶消去しています』


なにそれこわっ!…と思わないでもないが、まぁ遺物オーパーツも同然だもんな…しょうがない…のか?…と思いつつ、苦笑いでまた別の物を渡す。


「後、携帯電話。前の壊しちゃったでしょ?…」


そう…あのシット!外人のせいで、元々持っていた携帯電話はアソ連邦の貨物船の船員に渡されて処分されたみたいなんだよね…ブラックの中で一応、探知してみたら壊されたようで反応消失していたし…こっちがシット!だぜ…ったくよう!


「そう…悪いわね」


母親は何も考えないで受け取ったが…それは前の物とほぼ同じ物で…まぁブラックの謎機能で複製した物だ。流石にアドレス帳などのデータは復元されてないが(一応新品扱いにしてるんで)電話番号とキャリアは同じに設定してある。後、家の固定電話と俺の携帯電話の番号も登録してある。それくらいはいいだろうと思ってな…


それだけだと、単に複製しただけだって?…勿論別の隠された機能もあるぞ。


闇の靄ダークマターを動力源にしていて、常に吸引している=人がいる限り…停まることはない

◎身に着けている限り、物理的な攻撃性接触を防ぐ(流石に大型隕石衝突とかは焼死するから無理)

◎この俺花子の携帯電話とは無料で通話可(お陰で俺のも改造される羽目に…イヤイインダケドサ)

◎改造した状態でエネルギーが切れない携帯電話そのものは物理攻撃では破壊不可に!(溶岩に投入で溶けるけど←「耐熱にできないの?」と聞いたら、そこまで付与できなかったそうな…付与魔法の限界?)


そんなこんなで、取り敢えず身に装着された護符と携帯電話のダブルで防護措置を取ったので…今後は大丈夫そうだけど、対エネミー自衛隊・高円寺支部で保護することになった山田 花枝…この俺山田 花子の母親(元老婆、今中年女性)だったのだった…



- アソ連邦日本基地某所 -


「ミス・花子の身柄の拘束に失敗しただと?」


「あぁ…オアフ島の実験施設と爆破した現場を見られている…不味い」


「非常に不味いな…彼女は今何処に?」


「日本だ」


「まさか…」


「早過ぎるぞ!?…どうやって帰還したというのか!?」


「まさかとは思うが…対エ自の高円寺支部に戻ってるとかいわないだろうな?」


「…そのまさかだ」


「「「!?」」」


「マイガッ…」


「クソッ…」


「こうなったら「まさか…全面戦争でも起こそうとか…考えてはいまいな?」…そのまさかさ」


「あぁ…エネミーを利用して世界を制す…この計画を漏らす訳にはいくまい?」


「はぁ…ここまで短絡的な奴らだったとは…」


「なぁに…消してしまえば無かったことにできるさっ!!」


黒い笑みを浮かべる2人に、


「はぁ…俺は知らんからな?…勝手にしてくれ!」


と匙を投げるアソ連邦の高官。2人の高官は


「「任せてくれ!…」」


と、許可を得たとばかりに高笑いして基地を闊歩する。


「…俺は許可を出したつもりはないからな?…はぁ」


と、去って行く2人をジト目で見送るのだった…



- 対エ自・高円寺支部の深夜 -


ひゅるるるるるるる・・・


どがああああああんんんんんっっっっっ!!!!!


突然の大轟音に揺れる地面。


『敵襲!敵襲!!』


ウォォォオオオオオ~~~………!!!


警報の後に遅れて鳴る空襲警報に似た警報音が響く。今は演習場や倉庫に爆弾が投下されて被害が出ているようだが周囲の空き地にも被害が出ている。


幸いにもそれ以上の被害はまだ出ていないのは不幸中の幸いだが…


「ちっ…俺が狙いか…」


寝床に入っていた花子は飛び起きると仮眠室を飛び出る。


「待て花子!」


男性用の仮眠室から出てきたダン部隊長に止められるが、これが待てる筈も無く…そのまま廊下を走り、正面から駆けて来た他隊員を避けて壁と天井を蹴って着地。そしてすぐ駆け始める。


「「「ちょっ!?」」」


いきなり三角跳びの要領で避けられた他隊員たちは慌てて振り向くが、そこには既に花子の姿は無かった…


「ちっ…しょうがない。俺らは花子のおっかさんの護衛に付く。おめーらはダン部隊長の指示に従ってくれ!」


「わかった…ったく、当直の日に限ってこんなんばっかだぜ…」


「ぼやくな!…あの美人ママさんの護衛なんてご褒美以外の何物でもないだろう!?」


「まぁーな…相手がアソ連邦じゃなければ…」


「それをいってくれるな…」


隊員たちは二手に分かれる。彼らは既に戦闘装備を装着済みであり、ガチャガチャと鳴らしながら走っている…仮に今、建物内に敵が侵入して来ても対応する為だ。



「被害は?」


「演習場と倉庫の一部です」


「どの程度だ?」


「演習場は数箇所穴が…後で埋め戻せば問題ありません」


「倉庫は?」


「屋根と壁が一部崩壊していますが…中の施設にはまだ被害は出てません。ガラス窓が割られてしまいましたが人的被害は出ていません」


「そうか…で、侵入者はどうだ?」


「それが…少し離れた場所に外交官ナンバーのバンやらセダンが停まってましたが…爆撃と共に動き始めました」


「成程…アソ連邦か?」


「そのようです」


報告に来ていた隊員とダンは頷き、ニヤリと笑う。


「では、事前に話してた通りに」


「了解です」


さっと敬礼をした隊員は男性用仮眠室を出る。


「あ~…囮作戦は?」


『継続中です…』


「…わかった。終わったら特別手当を出すから『いえ、それには及びません』…そうか」


仮眠室に居る女性は…実は花枝さんではない。花子すら騙す程の偽装技術を施した彼女は…カナデだ。花枝さんに比べてやや年若い為、バレないか心配したのだが…どうやら徒労に終わったようだ。本人は高円寺支部の地下シェルターに匿われている。此処なら至近弾でなければ核を落とされても問題はない。まぁ、直撃されれば地下50mの深度程度では防げないだろう…まぁ、そんな度胸が今のアソ連邦にあればだが…


(エネミーだけでも頭が痛いというのに、各国から叩かれるのは間違いないだろうし、先のハワイ諸島の爆撃事件に付いても叩かれまくってるだろうしな…)


表立って叩く国は無いだろうが、裏ではここぞとばかりに叩いている筈だ。


『それはそうと…失礼なことを考えていたのではありませんか?』


「いやっ…そんなことはないぞっ!?」


恐らくは、「やや年若い」と考えたことについてだろう。口に出さずに考えてただけなのに…勘が鋭過ぎる…


『そうですか?…ではそういうことにしておきます…本件が終わったら奢って下さいね?』


声が弾んでいる…近くからは声を抑えた含み笑いが聞こえるが…


「お前ら…奢る側で参加するんだぞ?」


ええーっ!?…とか、しょんな酷い!…と聞こえてくるが笑った罰だ。財布の刑に巻き込んでやる!…さて、それは兎も角…


ぴりりっ…


首筋にひり付く感覚を感じる…そう、戦場でもなければ感じられない、殺気・・だ…


「来たぞ」


「はっ」


一応、護衛に付いている部下にぶっきらぼうに伝えると…


どがっ!


だんっ!


「・・・!!」


スラング交じりで何ていってるかわからない英語らしい言葉で叫ぶ…恐らくはアソ連邦に雇われた傭兵だろう…屋根裏を蹴破って飛び降りてナイフ片手に突進してきた。銃を撃たないのは証拠を残さない為だろう…銃弾の線状痕など、弾丸そのものから色々と証拠が取れるからな。特に、ここはそういう専門家が居る組織だ。まぁ…大量生産品のメーカー製品の弾丸でない場合は調べあげるのに時間は掛かるだろうが…


「リアリーッ!?」


片手の2本の指でナイフの切っ先を挟んで受け止め、


ぐりんっ!…ばきんっ!!


と巻き込んでナイフの刃を半ばから握り折る。


ぱらぱら…


と、握り潰した刃を幾つかの小片に粉々にしてから手を開き、その小片を落とすと…


「へッ…」


「へ?」


「ヘルプミィ~ッ!!…マイガッ!!」


と、股間から黄色い液体をちびらせて…腰が抜けたのかへたり込んで神に向かって助けを叫ぶ有様だ…


「…ダン部隊長」


「何だ?」


「怖がらせてどーすんです?」


「あぁ…暫く使い物にならんか…」


「ここの掃除、部隊長でやって下さいね?…俺は嫌ですよ?」


「…あ~っ、わかったよ…」


こうして、普通の人間・・・・・相手に手加減ができずに、怪物扱いされたダン部隊長は…仮眠室が綺麗になるまで床掃除をすることに決定したのだった!w



「敵襲です!」


護衛の隊員が周囲を固めるが、気配は天井裏だ。殺気が先程から駄々洩れで笑うのを顰めっ面で我慢する方がきつい。


(そろそろ突入してくるかな?)


と思った頃に、


どがっ!


だんっ!


「・・・!!」


「・・・・・!?」


と、ダン部隊長の方と同時に突入して来た。あちらは1人だけだったみたいだけどこちらは人質を取る為か2人が飛び降りて来た。1人はあちらと同様にナイフを。もう1人はサブマシンガンを所持している。成程…室内で取り回しが容易な上に拳銃弾を使うので調達も容易で一般的に流通量も多いので何処で調達したかわかり辛いんだろう…(何でわかるのかって?…そりゃあ無線繋いだままだし向こうの騒ぎも筒抜けだからねぇ…)


(アソ連邦領国内ならね)


此処は日本で、そうぽんぽんと銃火器や弾丸を容易に入手できないのだ。エネミーが蔓延る今…ハンター資格を持っている一般人なら兎も角、唯の一般人にはまだまだお気楽に金を出せば入手できるようにはできてない。


(カナデさん、作戦通りに?)


(えぇ…囮として捕まります。大丈夫…証拠を掴んだらさっさと脱出してきますから)


(わかりました…)


護衛の隊員は多少の抵抗をする振りをし、そして


どがあああああんんんっっっ!!!


「なっ!?」


「・・・!」


どがっ!!


…と、2度目の爆撃に驚いた隙に腹を強打されて…気絶する程じゃないけど気絶した振りをする。いや、もう…凄く痛かったんだけど…これは後でダンさんに一杯奢って貰わないとね?…護衛の隊員は倒れて気絶振りをしてると思うんだけど…


「・・・?」


どがっ!


「・・・」


げしっ!


「・・」


聞いたことない言葉なんだけど…英語に似てるけど違う?


2人は蹴られても動かないことから殺すまではしないで捨て置かれてるみたい。良かった…無駄な殺生をされなくて…まぁ、痛いんだろう…よく見るとそこかしこがプルプル震えてるし…うん、笑いそうになってごめん。可哀そうだから奢るのはダン部隊長だけにしてあげよう!


…何か「ひでぇっ!」って声が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。さて…


「・・・・・」


「・・・」


乱暴に荷物を担ぐみたいに肩に背負われて…がっくんがっくん動かされるので気分が悪いんだけど…リバースすると意識があるとバレるので、懸命に我慢する。お腹に力入れるとバレるから大変よ…はぁ。


(さて…一体何処に拉致監禁されるんだろうねぇ…)


薄目を開けて見るけど、担いでる人の腕が邪魔してて風景は見えないので諦めて耳だけ澄ますことにした。せめて、曲がった方向や距離などは覚えようと必死だったが…それは全て無駄な努力だったことに、orzするしかなかった…いやいいんだけどね?…脱出する時に助かったんだし…



「カムヒヤ・ブラック!」


穴ぼこだらけになった演習場に出て叫ぶ花子。


召喚に応じて現れるブラック。


〈マスター、私は此処に…〉


静かに佇み、しゃがんで待機するブラック黒壱号


「敵襲だ」


〈…理解しました。こちらへ〉


手の平を下ろし、花子を待つブラック。とそこへ


どがあああああんんんっっっ!!!


「うっ!?」


爆撃を受けるブラック。だが…


〈大丈夫です。さあこちらへ〉


と、障壁の外…頭上で破裂する爆弾はこちらまで影響がない。


「わかった…」


汗を垂らしながら花子は手の平にに乗り…開け放たれた装甲版と隔壁を潜り、コクピットへ滑り込む。


「くっ…このっ…何とかならないかな…この座り難いの」


〈…考えてみます〉


コクピット内のスクリーンが外を映し出し、探知機能がオンとなり、爆弾を落とす敵機を探すと…


「気球?」


〈はい…もう通り過ぎてしましましたが、正体は気球です〉


拡大表示すると、2つの気球が風下へと移動中だ。風任せという訳でなく、若干の進路を変えられるように2つの可変ファンが付いている。


「ってことは、人も乗っている?」


〈いえ…生命反応はありません。無線誘導ですね〉


「…わかった。潰しちゃって」


〈了解です〉


ブラックは腕を伸ばし、指先から黒い円柱を飛ばし…気球2つは綺麗に分解して消え去った。


「他には何か居るかな?」


〈…近くには居ないようです〉


「近くには…ってことは」


〈はい…此処から5~6km程南東に離れた場所に、潜伏している敵性勢力があります〉


「そこって何処かわかるか?」


〈地名でしょうか?…「代々木公園」という名称のようです〉


「代々木…公園」


まさか大きいとはいえ、そんな所に潜伏してるとは思わなかった花子は唖然とする。そして、表向きは自然…というよりは木が多く、隠れる所も多い彼の公園は…昼間も尚暗く、夜になればエネミーが多く闊歩する危険なダンジョンと化しているのだ。昼間で陽の光が当たっていてもエネミーが時折見ることがあるという…


「あんな危険な場所で潜伏って…バカじゃないのか?」


〈確かに…ですが、人目を避けるならある意味好都合なのでしょう…〉


だが、そんな場所に母親が連れ去られるなどとは…そして、その母親が実は囮のカナデさんだったとは、後で知る花子であった…


━━━━━━━━━━━━━━━

携帯電話は花枝さんから借りていたようです。無論、腕輪は花枝さんの腕の中ですがっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る