【短編】TS2(ダブルTS)シリーズ

じょお

TS2(ダブルTS)シリーズ

おっさん、現代風異世界にダブルTSする

その1 ~おっさん、転性(転生)する~

転性で転生ものを書いてみた(書いてみたかったし)。後悔は…長過ぎたという所だけしてる(なんだそらw)

※カクヨムに短編てことでアップする用に一部修正しました

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- 序章転生(転性)前 車とのランデブー -


突然だが俺は会社を首になった。


原因は…悪いのはこちらだっていうのはいわれなくてもわかっている。上司がねちねちとこちらの悪い部分を突いてくる余り、頭に血が上って…後はお決まりの…いや、別にぶん殴ったりはしてないが辞めてやる!って怒鳴って出てきちまった。…はぁ。


今思えば上手いこと誘導されてたんだなぁと…もう止そう。どう考えても戻って元通りという訳にもいかんだろうしな。取り敢えず、一度家に戻るか…。


キキィッ!!


「ん?なん…うぉおっ!?」


帰り道、やや薄暗い道路を歩いていると…後ろから車が迫って来る。住宅地の中の車道で有り得ない速度で走って来る車を見ると…人が居るとは思ってなかったのか運転席で慌てているようだ。


「まじかっ!?…てかブレーキ踏めよ!!」


既に降ろされたシャッター…営業時間を過ぎた店舗の物だ…にガシャンと音を鳴らしながら背中を押し付けて怒鳴るが、何故か加速する車に戦慄が走る。恐らくだがブレーキとアクセルを踏み間違えているに違いない。その証拠に、加速したこと自体に驚愕で引き攣っている運転手の顔が見える。


「何とか避けないと…(ぐぎっ)…ぐはぁっ!?…ま、まじか…腰が…腰がぁっ!?」


10数年前に痛めた腰…いやぎっくり腰には至らなかったが。あの時はもうこのまま動けなくなるんじゃないかと思ったが、30分程で回復して会社の近所の整体医院だっけか?…に何とか辿り着いて処置を受けたんだったかな。注意しないと再発するので…といわれたことを思い浮かべるが、まさかこんな所で再発するとは…人生何が起こるかわからんもんだ…なんてゆっくり考えてる暇は…。


ぐしゃ…


という音を聞いた以降は記憶がぷっつりと途絶えていて何もわからない。きっと、お腹から突っ込んだ車がそのまま背後の店舗に突っ込んで、俺の体はぐしゃぐしゃの真っ二つになって、他人様には見せられない惨状になったんじゃないかな?…ははっ…会社をクビになった直後の人間にこんな追い打ちをかけるなんて…この世は…現実はクソゲーといえるだろう。まぁ、いい。これからどう生きて行くかとか考える必要もなくなったんだ。残して行く母親には迷惑を掛けちまうだろうけど、な…はぁ。


………

……



- 第1章 転生(転性)後 異性な体とのファーストコンタクト -


ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ、ぴぴ(ぽち)…


「むにゅ…」


目覚ましの電子音で目が覚める。朝が非常に弱い俺は午後いちからの勤務に変更して貰ったがそれでも昼前に起きるのも非常に辛い。まぁ顔を洗って飯を食えば目が覚めるんだけど…


「あれ?」


今日は脳みその調子がいいらしい。目覚ましを止めてすぐに覚醒して回り始める。と、いうか…


「ここは異世界…って訳じゃないな?」


周囲を見回しても見知った光景がある。所謂自室って奴だ。天井も壁もいつも見ている少々薄汚れた物だ。ガラス窓だって10年以上汚れを落として無いから…いや、それはいい。


「…俺の声って…こんなに高かったか?」


自分でいうのもなんだが、50代ギリギリ前半。四捨五入しても50の俺は不細工なおっさんだ。かなり低い声で最近は掠れ気味で自分でも聞きたいとは思えない程。それが、今出た声は…


「女…それも少女の声?」


流石にアニメ声という程じゃない。ややハスキー気味ではあるが、それは少女の物といえる声であった。ふと、手を見てみる。


「そういえばはっきり見えるな…確かに、これは少女の手だ…」


細い少々小さめの手。指も細くてしなやかだ。つつーと手首、腕へと視線を移すと、着ている寝間着が見える。本当なら結構腕回りギリギリの余裕の無い袖が、今ではダボダボに…それも手の平が辛うじて覗いてるくらいだ。


「いつも着ている寝間着代わりのジャージ、だな…」


視線を真下に移すと…男には無い膨らみが2つ見える。それ程大きくはない。ちょっとだけ頬を染めてからしみぢみと呟く。


「これがTS(転性)って奴か…ていうか、今の俺の年齢って何歳なんだ?」


鏡があれば外見から予想は立つのだが、生憎俺の部屋には鏡が無い。いや、前はあったんだが枕元に置いてたら割れちまって処分したんだ。寝相が悪くて寝ている間に叩き割っちまったらしい…。いや、どんな寝相だよ!って突っ込まれても、割れてしまったものは仕方無い。買い直しても同様に割ってしまうならと思って買い直してないしな!


(いつまでもこうしててもしょうがないな…洗面所にでも行って確認するか…)


俺は意を決してベッドからのそのそと這い出て部屋を出ることにした。俺の寝ているのは普通ベッドではなく「ハイ・ベッド」っていう2階部分だけあるベッドで、1階部分には荷物とか置ける奴だ。おっさんだった体は身長が178cm程あり、寝床の2階部分から降りるには問題なかったんだが…


「う…足が届かない」


どうやら身長…というか股下も短くなっているというのがわかる。転性・少女化して体が縮んだようだ。うぅむ…これから色々と体格の違いによる苦労が待っているだろうな…と困惑しつつ、何とか近くに積んでいた荷物に足を引っ掛けながら床に降り立つことに成功する。


「母さんは…居ないのか」


恐らく買い物に出ているんだろう…でなければ、目覚ましを掛けていくこともないだろうし。


のそのそと台所の部屋(ダイニングというのも烏滸おこがましいが、キッチン付きの食事を摂る部屋だ)を通過して洗面台へ…そして鏡を見る。


「おお…見知らぬ美少女(大仰)がこちらを見ている…!?」


凡そ10cm程だろうか…背が低くなっているが頭の天辺からお腹辺りまでは見て取れる。そこには、短髪でふくよか(デブともいう)なおっさんではなく、肩に掛からない程度に髪を伸ばした化粧っ気は無いが若さで押し通せる程に瑞々しい肌の…高校生くらいの美少女が居た(自分の口で美少女とか抜かしているが、10中8・9…いや7・8くらいは見た目だけでも美少女と呼んでくれるんじゃないだろうか?)よくよく見れば、日本人よりはやや外国人寄りのハーフ…いや、クォーター?くらいの容姿だ(日本3:外国1程度)肌色は普通に日本人…黄色人種にカテゴライズされると思える色合いだけどな!


「目は眠そうな感じだし陽キャというよりは少々陰キャに偏った感じだな…」


元々俺は活動的ではなかったし、オタクって程じゃないけどアニメやゲームの方が好きだった。それに引っ張られているのかも知れない。


「胸は…この年齢層なら普通か少し大きいか?」


はしたないと思うが、両手で両胸を下から掴んで「ぷるぷる」してみる。流石に「ゆさゆさ」とか「たゆんたゆん」とかいう擬音じゃないが、あることはある。軽く連続ジャンプしてみる。


「うむ、揺れてるな…!」


何をおばかなことしてるんだろう…とは思わないが、確認である。


「…!」


…と、アホなことしてると下半身に緊張が走る。所謂生理現象って奴だ。俺は慌てて手を洗って口をゆすぎ、2階のトイレへと慌てて階段を登る。ちなみにここは1階で1階のトイレは余り使うなと母親からのお達しなのだ。勿論、緊急事態の場合は漏らされても困る為に使ってもいいといわれているが…



「はぁ…本当に女になってた」


何処とは敢えていわないが念の為確認したのだ。そして生存…否、存在確認の結果、息子は天に召されていた…地に落ちたのかも知れないが。


「はぁ…50年以上も野郎として生きてきたってのに、これからどうしろと…」


見た目は17歳前後くらいの少女だ。まんま高校生といっても通じるだろう。尤も、俺が高校生だったのは遥か30年以上前の話しなんだが。何?…50歳としたら33年前くらいじゃないかって?…んな細かい話ししてもしょうがないだろうが。


取り敢えず亡くなった父親と父方の祖父母、神棚に朝…もう昼前だが…の挨拶に向かう。まぁ、いつも「おはようございます」しか思い浮かべてないんだが。それ以外にどうしろと?…神様つっても神社じゃないし、肉親の仏壇にお願いしてもそんな力も持ってない者(仏)に無理強いしてもしょうがない。毎日挨拶するだけでいいんじゃないかと俺は思っている。所謂生存報告のようなもんだな。「今日も取り敢えず生きてますよ!」ってな。


(おはようございます~っと。あぁ、それとは別に、何か女に転性しました。これって何でだろう?…って聞いてもどうしょうもないか…)


ちなみに神棚には2回。祖父母の仏壇(写真しか飾ってない)には1回(それぞれ手を叩いている)父親の仏壇には小さい鐘…りんっていうらしい…を2回叩いてから心の中で挨拶をしている。間違っているかも知れないが、まぁ10年以上やっててバチも当たって…あぁ、昨日当たったのかもなぁ…よりによって全力で車がぶつかって来たんだが…


「…まぁいっか。過ぎたことはいってもしょうがない」


ちょっとどんよりしながら、どうしたもんかなぁと思いつつ1階へ降りる。足の長さの違いのせいか、足を滑らせて階段から落ち掛けた。年老いた親用に手摺りが増設されてて助かった。何故か、車が突っ込んで来た時より冷やりとしたわ…



「あら、起きてたのね」


母親が帰ってきた。俺を見てもいつもの通りの反応に戸惑う。姿が変わってるって気付いてない?


「あ、うん」


手の平が汗ばんで仕方ない。きっと、背中も汗でだらだらだろう。


「あら、もうこんな時間。早く食べて着替えて仕事行くんだよ?」


それだけいうと、母親はトイレに入って行った。勿論1階のだ。足腰が弱くなったせいか2階の自室に居る以外では1階のトイレをメインに使用する。日中は1階の…リビングではないよな?ここ…台所と食事をするテーブルがあるこの部屋で専らTVを見ている。TVは地デジに切り替える時の数か月前に俺が買ってきたやつだ。東芝のレグザ32インチでチューナーが1つしかないので安かった奴だ。どうせ録画なんてしないからワンチューナーでいいよなと思ったが、今思うとせめてチューナー2つ以上の奴にしておけばと後悔している。何故なら、今なら外付けHDDは予備が一杯あるしUSBで接続するだけの簡単録画が可能なのだ。寝ている深夜くらいしか使い道が無いワンチューナーでは困るってものだ。ちなみに値段は細かくは覚えてないけど5万前後だったと記憶している。


「関係ないけどよく今までもってるよな…2011年だから、もう10年も経過したのかぁ…」


通常、PC向けではあるが液晶Displayは背後、若しくは横に設置した細い蛍光灯の寿命が商品寿命とされている(個体差はあるが5~6年とされている)。現在はLED照明が増えてきているので蛍光灯よりは商品寿命は延びているのだろうが…。記憶が正しければ、液晶そのものの寿命は黎明期の単純液晶(数字の7セグメント液晶)で7年程。昔買ったポケコンの液晶は20年近くもったが流石に古くなり過ぎてその寿命を全うしていた(中のIC回路などは生きてるんだが、先に液晶が寿命を迎えたという…)話しが逸れたが液晶TVみたいな高集積で複雑な物はもっと短いと思うのだが10年経った今でも普通に稼働していた。バックライトかサイドライトか知らないがそちらもまだ元気に明りを照らしている。


「ま、いいか。どーせ買い替えの時は親が(商品代を)出すんだろうし…」


取り敢えず、用意されていた食事を急いで腹に収め、出勤…というか様子見?…退職願を出しに?…取り敢えず出掛けて行って様子を見てから決めようと思う。



- 第2章 過去会社とのケジメと未来女体の扱い? -


会社をクビになったのでそのまま次の人生を謳歌すればいい…という訳にも行かないだろう。何しろ、退職願を申請して受理されてる訳ではなく、上司と喧嘩別れし暴言吐いて出て来ただけなのだ。社会人にはどんなに底辺でも責任というものがある…という建前の元、俺は通勤経路の電車に乗った。見た目未成年…高校生くらいの容姿の少女…なのだが見咎められることもなく。


(ひょっとして俺だけが未成年の少女と見えるだけで、周囲からはいつも通りのおっさんとして見えてるのか?)


周囲の反応からしてそんな推測が立つが、着ているのはいつも通りのくたびれたYシャツにダサいワークベストと作業ズボン。その上から防寒具としてハーフコートだろうか?…を着用している。勿論、体格が変わってしまっているので腕まくりしたり裾上げして紐で半固定してる有様だが。


「流石にあのでかい鞄を背負うのは無理だからな…」


いつもは縦60cm程ある大容量のリュックサックみたいな鞄を背負っている。ジッパーで開け閉めできるのでリュックじゃなくて何か正式な名称があるんだろうけど、別に知らなくても問題ない。ただ鞄と呼んでいる…で、何を背負っているかというと100円ショップで買ったナップザックだ。一度壊れかけたので、慣れない裁縫道具を駆使して所々強化しているが。


(これ、背負えるし取っ手があるから手で持てるし、肩掛けも出来るから便利なんだよな…)


推定身長が160cmちょいまで縮んでしまった今では、手持ちの鞄の中ではこのナップザックしか体にフィットする物が無い。取り敢えずパンと飲み物。筆記用具しか入れてないのでこれで十分だ。


「…っと、急がないと」


改札を通ってのんびり階段を降りていたら次の電車が来るアナウンスが流れたので慌てて階段を…勿論、手摺りに捕まって転げ落ちるのは回避した(学習してないっていうな…慣れてないんだからしょうがないだろ!)



取り敢えず会社の前まで無事?…に到着。物凄く不安になったが意を決して入口から入る。廊下を歩く他の社員に怪訝な目で見られる。が、特に声は掛けられない。そして、自分の席があるフロアへと到着。


(…若干背が縮んだから、みんな大きく見えるな…)


きょろきょろと周囲を見ながら自分のタイムカードを…あれ?無い。


(やっぱし昨日のあれで回収されちゃったかなぁ…はぁ、わかっていてもダメージ半端無いな…)


そして、取り敢えず自席へと歩を進めるが…


「あれ?どちらさまかな?」


パートのおb…お姉さんが席を立って対応してくる。何か初対面みたいな反応なんだが…


「あ、え、えっと…山中 慎太郎なんですが…」


一応、真正直に答える。っていうか、この姿でそれは無いだろ!…っと、心の中の俺が罵倒する。いや、別の自分が居る訳じゃなく自分自身で、なんだが…。


「山中?」


「そんな奴居たか?」


背後で聞いていた他の社員がそんなことを話しているのが聞こえてくる。その様子を見るとそれ程大きな声で話している訳じゃなく、ぎりぎり周囲に聞こえる程度の声量で話しているのが、何故かわかる。


「…?」


首を傾げていると、目の前のおb…お姉さんが他の社員たちの元へ歩いて事情を聞いているようだ。俺は暫し放置されていたが、またお姉さんがこちらへと戻って来る。


「ごめんなさいね?…山中さんて方を訪ねてきたみたいだけど、この本社には居ないみたい。他の支社に在籍しているか調べましょうか?」


この物言いから推測するに、俺は俺を訪ねてきた親類か何かだと勘違いされているようだ。それも…


(どうやら俺の見た目通りの少女として認識されてるっぽいな…)


そういうことなら、今は退職願を出すよりも先に調べることがある。


「そ、そうですか…。こちらに居ると思ったんですが勘違いだったみたいです。お手数掛けて申し訳ありませんでした!」


そこまで一息に喋って頭を下げ、廊下まで出てからもう1度頭を下げて扉を静かに閉じる。内心は興奮しているが廊下は静かに走らない。そして…


(これって…そういうことだよな?…転性した上に別の似たような世界に転生って…)


トランスセクシャルの上に転生TS。TSの二乗。女性としての人生を若い年代から送れるってことにはなるが、ただそれだけの事態に俺は矢張り困惑する。


(そりゃ、若い時なら「やったー!」とか思うけどさぁ…50代の親父(未婚)にそんな元気ねーわ…)


人目のある道中でorzはしなかったが、心中はorzしまくっている50代未婚の親父だった(但し見た目は女子高生くらいの少女)



「まずは…この近くの図書館なんて知らないから自宅の傍の図書館から行ってみるか…」


徒歩で30分程度…今の体格だと1時間近く掛かるかも知れないが…の中央図書館がある。あそこなら何度も通っているしそこそこ蔵書もある。調べたいこともあるかも知れない。そう思って電車を逆順で乗って帰ることにした。


「まだ昼過ぎだからか空いてる…うぉっと!?」


丁度大勢の人が乗り込んで来て、あっという間に車内は人混みで窮屈になる。体が若返ったからと立っていたのが仇となった訳だ。


(うう…苦しいって訳じゃないけど…女性化したせいで何かやだなぁ…)


野郎だった時は気にしなかった他人との接触も、女体となった今では感じ方が違うのかちょっと触れるだけでビクビクしてしまう。


(ひっ!?)


背中を何かが触れただけで心の中で声を上げてしまう。続けて腰…お尻の辺りにも何かが触れた気がする。


(ううう…会社に電車に乗って来た時は何ともなかったのに…一体何なの!?)


確かに会社に向かう電車に乗った時は何かの拍子に触れられても何も感じず、いつもの調子だったと記憶している。おっさんの時と同じだったと…それが、帰りの電車では体が過敏に感じてしまっている。


(意味わかんない…ってひょっとして?)


会社に行くまでは見た目だけで感触などはまだ男のままだった。そして、帰り…いつの時点からかはわからないが、見た目も触感なども女性化した?…そして、周囲の認識も…おっさんではなく少女として見られている?


「ひぃっ!?」


小さいが確かに声を漏らしてしまった。腰…お尻の感触からは、見えないが確実に尻肉を掴まれていると…そして、突然目の前に有り得ないモノが見えた。それは…


〈体の感覚をシャットアウトしますか?(y/n)〉


(…え?)


一瞬固まったが、絶えず送られてくるくすぐったいような快感のような…性感的に開発されてない肉体の刺激に抗うことも難しく、俺は何とかYesを選択する。


〈シャットアウトする割合を指定してください[-100%+][決定]〉


二も無く100%のまま決定ボタンを指先で押し込む。勢い余って突き抜けた気がするが、それで絶えず送り続けられていたくすぐったいような快感のようなモヤっとする刺激は消え去った。そして、


〈刺激を与えたユニットからの刺激ポイントは、経験値と金銭ポイントに分けられて当ユニットに加算されます。現在は50%づつとなっていますが変更しますか?(y/n)〉


…と表示されている。いや、訳わかんないし…


(取り敢えずNoで。後で確認できるんだろ?)


思い浮かべていたゲームとは違うが、恐らくこの世界はゲームみたいなシステムがあるんだろうと推測。心の中の台詞に反応したシステムは、


〈了解しました。ステータスを見たい時は「ステータスオープン」と唱えるか、心の中で唱えて下さいませ〉


と、数秒の間目前に浮いていたが、気付くと消え去っていた。俺は取り敢えずこう思い浮かべる。


(ステータスオープン!)


と。



【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断


何か健康診断の時のような項目が並び、最後に在ってはならない項目が書かれている。


(山田花子?…名前すらも変わってるってことか…後、体感覚遮断?…これってさっきシステムがいってた奴か…)


本来の俺の名前は「山中 慎太郎」と書いて「やまなか しんたろう」と読む。まぁ、もうこの世に居ないおっさんの名前だ。気にしなくていいだろう。それよりも、今も尚、俺の尻は痴漢と思われる手でまさぐられている。くすぐったいような快感のような感触はカットされたが、触れているという感触は残っている。例えるなら人形の手でぺたぺた触れられてるような感じといえばわかり易いだろうか?…まぁ気にしてもしゃーないって感じかな。


(ん?これ何だろ…)


ステータスの項目に2箇所、▼マークが表示されている。タップすると隠された項目が表示されますよ~的な感じだ。本来なら未だに尻を揉みしだいている(段々とエスカレートしてきているが感触がほぼ無いので気にしてないだけ)痴漢を駅に着いたらふんじばって突き出すべきなのだがまだ駅に着いてないので放置している。途中からあえぎ声…自分的には驚いてうっかり出た声なんだけど…が出なくなったので意地でも出させてやろうと奮戦してるんだろう…キモい奴だ。


(それは兎も角…まずは上の▼をぽちっとな)


【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

ーーーーーー

レベル:2

経験値:(加算中。停止次第再表示されます)

所持金:(加算中。停止次第再表示されます)

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断


(…)


RPGロープレではよく見る表示項目が隠されていた!…しかも、レベルが1じゃなくて2に。経験値と所持金は加算中とかで数字ではなくその旨のメッセージが…あ、止まった。


レベル:4

経験値:349exp

所持金:10,580円


そして、背後の男が尻肉を掴みながらずるずるとずり下がって行き、床に力尽きたかのように倒れてしまった。


「げ…ず、ズボンがずり落ちる!は、離せ、離せこの!!」


執念深い手だったのか、そこだけは力尽きずに尻肉を離そうともしない。やがて、電車は駅に到着して…乗客の誰かが通報したのか、駅員だか鉄道警察かはわからないが車内に駆け込んで来て…俺とその痴漢は駅ホームへと連行されたのだった…


(あ~、尻触られてても動じてなかったし、痴漢と痴女って思われたのかもなぁ…くそっ…冤罪だぁ~!)


などと心の中で叫んでも仕方なく…



詳細は割愛するが駅舎内のとある部屋に連行された俺と痴漢だったが、痴漢に意識が無いと気付くと救急車で運ばれて行って俺1人だけが調書を取る羽目に遭った。別に被害側なので悪くないと思うのだが、痴漢があの状況だったので何かしたと思われたのかかなりしつこく…。もう勘弁してくらさぁい…(牛丼を取って食べたという事実はない(そら警察でしょ!))


尚、開放された後…再び電車に乗って1回乗り換えた先の電車でも痴漢に襲われました。今度は腕をつねり上げてから逆関節を決めて背中側に両腕を捻り上げて次駅で降りて駅員に突き出した。時間が惜しかったし…。相手の意識もあるので今度は短時間で開放されると思ったんだが…痴漢をされても過剰防衛は良くないと意味の分かんない説教された…なんでやねん!…orz


「何か知らんが酷い目に遭った…」


自宅の最寄駅に着き、真っ直ぐ帰宅しようと思ったが公園に向かうことに。取り敢えず試したいことがあったんだが…まずはこいつだ。


(ステータスオープン!)


ステータスは一定時間が経過すると消える仕様のようで、駅で調書を取ったりしてる間に消え去っていた。表示してる間も他人からは見えないみたいだ。自分にしかないモノなので見えないのか、あらゆる人に備わってる機能だけど他人には見えない・見せられないモノなのかはわかんないけど。


【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

ーーーーーー

レベル:5

経験値:96exp

所持金:11,650円

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断

ーーーーーー

体感覚遮断Lv1

 ・分配率[経験値-50%+][所持金-50%+]

攻撃力:5

防御力:3


「あぁ…項目数少ないけど、それらしい項目が下にもあるんだな…」


並びが変則的だがRPGでの最低限度の項目が並んでいることは確認できた。だが…


「HPとかMPの表記は無いのか…ひょっとして…」


視界の片隅や公園のトイレに備え付けられている鏡を見て頭上に横棒がないか確認してみる。


「う~ん…無いか」


ゲームの中には怪我をしてHPが減って初めてHPゲージが表示され、回復すると消えるといった仕様のものがあるが、そこまでして試してみたいとは思わない。


「大怪我しても治せる手段も無いしな…我慢するか」


取り敢えず自販機でジュースを買って飲み、飲み干した後で帰宅することにした。昼飯を食べてから何も飲んでないし食べてなかったのだが、取り敢えずは喉の渇きを癒すのだ。



「動くな!」


飲み干した缶をゴミ箱に放ろうとしたら…誰かわからんが後ろから羽交い絞めにされた。体感触遮断が効いてるので多少の圧迫感があるくらいで痛みは無い。寧ろ、俺自身のレベルが5まで上がってるので遮断されても痛みはないかも知れない。


〈体感触遮断を切りますか?(y/n)〉


律儀にシステムが訊いてくるが、俺は痛いのは嫌だからNoを選択。必要以上の圧迫で体を壊す危惧を少し抱いたが、体の動きを阻害する感触(快感・くすぐったい感触・嫌悪感を抱く感触など)を除き、骨を圧し折る・体を圧し潰す程の圧迫感などは警告が出るので一応は問題はないらしい…放置しなければ、だが。当然、切断などの瞬時に体に影響を与える感触は接触前…というより、接近前に警告が出るらしい。まるで危機感知みたいなスキルで驚く。


「…誰?」


後ろに目がない訳で、誰だかわからない。故に質問したのだが…


「それを知る必要はない!」


口を何かで塞がれ、(なっ…やばいかも!?)と、急いで背中に固定された腕を外そうと藻掻くが、


(ク…ロロ…ホル…ムか…何か…か?)


心の中でそう思ったが時既に遅し。俺の意識は闇へと沈んで行った…。



「ん…ここ、は…」


知らない天井だ…といおうと思ったが止めておいた。この世界じゃ●ヴァはやってないかも知れないしな。


「…」


周囲を視線だけ動かして見回すも、僅かに漏れてくる明りだけで大部分は暗い室内であることに気付く。まだ目覚めたばかりで明るくなくとも暗闇が見通すことができたようだ。


(ステータスオープン…)


【ステータス】

名 前:山田 花子やまだ はなこ

年 齢:17

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断

攻撃力:10

防御力:7


何故か攻撃力と防御力が微増している。眠らされている間、何をされたのかわからないが…いや、確認したいとも思わないが。取り敢えず上段の▼をタップしてみる。


レベル:10

経験値:8,744exp

所持金:215,780円


(レベルアップしてる…想像したくないけど、ひょっとして…)


両腕を動かしてみる。特に縛られてる訳でもないようで動かすことができるようだ。


(…)


ゆっくり腕を持ち上げて目の前に寄せてみる。Yシャツは手首まで袖があった筈だが…


(袖が無いな…)


もしかしてと思い、ぐるりと腕を回してみる。目的は注射痕が無いか調べることだが…特に無いようだ。念の為に両手で擦って傷が無いか調べてみるが、指先で擦る程度ではわからないかも知れない。


(後で…後があるかわからないけど、調べてみるか)


注射で媚薬や麻薬を打たれたかも知れない。立ち上がろうとしてふらつくようならその線が濃厚だが…。


(…問題なさそうだな?)


取り敢えず寝かされてたベッドから降り立つ。後は…


(余り確認したくないが、しておいた方がいいよな…)


股間に手を伸ばして…ズボンを履いていることに気付く。


(むう…チャック下すだけでいいか…)


いつここに運んだ暴漢が来るかもわからない状況ではズボンを脱ぐのは不味いと思い社会の窓のチャックだけを下す。そして履いていた男性用ボクサーパンツの前の部分から手を入れる。


(…体感触遮断してるから殆ど何も感じないが…)


手を抜いて指先を見る。ひょっとすると赤くなってたり白い粘液がまとわりついてるかもと思ったが、特にそんなこともなかった。


(取り敢えず、女にされてるってことはないようだな…というか、女の体になった俺でも、初体験する…なんて時は来るのかねぇ?)


外見が少女でも心がおっさんの自分には永遠に来そうもないな…と思いつつ、チャックを閉じる。取り敢えずチャックに一物いちもつを挟んで痛い目に遭うことは一生なくなったが。


(さて…いつまでもこんな所に居てもしょうがない、か。脱出だな)


着ていた物は全部着ているなと確認した後、ナップザックを探す。


(あぁ、あんな所に…)


ベッドの下に放ってあったナップザックを取ろうとしゃがんで取ろうとすると、それはそこにあった…いや、居た。


(!?…びっくり、した…)


それは、見た記憶がない男だった。背格好は俺と同じか少し高いか?…寝っ転がっているのでわかり辛いが。取り敢えず俺はナップザックを引き寄せて手に持つと十分な重さがあり中身は揃っているだろうと判断し、摺り足で静かにドアのある方へと向かい…開けようとしてロックが掛かっていたので解除する。


がちゃん!


ロック解除の音が思いの外大きく、びくっ!として背後を振り向く。だが誘拐犯は身じろぎ一つせずに寝転んでいた為、静かにドアを開けて外へと脱出した。



「うわ…ここって…」


ドアの外は共用廊下で外の景色は見覚えがあった。取り敢えずエレベータまで向かい、ここが何階か調べると…


「9階か…ってことはあそこのマンションのどれかかなぁ?」


10数階建ての中層マンション?が俺の住んでいる家から見て大通りを挟んで立ち並んでいる。俺はそこの1つに監禁…いやロープなどで縛られていないので軟禁状態だろうか?…されていたようだ。


「取り敢えず、降りるか…」


エレベータを呼び出して到着するまでにナップザックの中身を見る。取り敢えず過不足が無いことを確認した。


「ふぅ…」


到着したエレベータに乗り込み、1を押してすぐさま閉ボタンを押す。ゆっくりと階下へと向かうエレベータの中で次々と変わる表示階数を見てぼ~っとする。


チン…


指定階への到着を現すチャイムが鳴り、視線を上げると…そこに立ちはだかる暴漢が居た!…ということもなく、俺はドアが閉まる前にゆっくりと歩き出す。



「何か騒がしいなぁ?」


中層マンション群がある場所には大通りを渡ることができる横断信号がない。中間部分に1つあると随分と利便さが変わると思うのだが。この大通りが拡張されていた頃には元々ある中層マンションが1つか2つしか無かったので横断歩道の必要性が感じられなかったんだろう。だが、後から設置するのも大変だ。歩道橋を造るにしても俺の住んでる側にはそれ程歩道に余裕がない。立ち並ぶ家屋と歩道を削って数年に及ぶ拡張工事を行ったせいですぐさま予算を組める程の余裕がこの町の行政にあるかというと…正直いってなさそうだしな。


「はぁ…横断歩道までが遠い」


そんなことを思いつつ、遠くから鳴っているパトカーの警告音をBGMに俺は横断歩道を渡って自宅へと帰還する。あのパトカーや警察は俺とは関係ない。関係ないったらないんだ!…と思い込みつつ…


………

……



- 第3章 新たなる生活!-


「じゃあ行ってきます」


「気を付けてね」


いつもの挨拶を経て俺は家を出る。何故か、用意された服がおっさん時代のダサい奴ではなく、少女が着るような相応の物が用意されていた。下着もばっちり少女向けの物だった…


(…)


どうやら家の内外でも俺自身を女性と認定されたようで落ち着かないが、職を持たない高校生くらいの少女が外に出て何をしろというのだろう…。当ても無くフラフラしてたら警察に補導されそうなもんだがそんな目に遭うことなく。


(ひょっとして…満員電車に乗って…男に痴漢されると稼げるってシステムを利用して稼げってのか?…何か嫌過ぎるな…)


異性に偶然触れる程度では経験値や所持金が増える訳ではないようだが、危害(痴漢や暴力)を加えようとして触れたりすると吸えるらしい(何かって、経験値と金だが)。そして…


「ぐはっ…」


仕様を確認しようと、電車に乗ってみたんだが…触れてる相手のステータスの一部が見えるようだ。そして確認していると、そいつの所持金とHPというか体力が0になると力尽きる…という所までは見えた。尚、体力が0になってもすぐ死ぬ訳じゃなく気絶するだけだ。追い討ちすれば確実に死に至るだろうけど。


(どちらかが0になると、残ってる方の数字が倍速で減って行くのか…)


最初は所持してる金額かな?…と思ったのだが、どう見ても持ち運びできる額じゃない人も何人か居た。どうやら銀行かタンス預金か知らないが総資産が表示されてるようだ。そして、以下が現時点の俺のレベルと所持金だ。


レベル:56

経験値:45,744exp

所持金:21,215,780円


(…)


先日同様に駅舎で調書を取った後に開放され(毎回同じ駅じゃないので顔を知ってる駅員は居なかったがそろそろ顔写真が出回りそうで怖い…)、ステータスを見て唖然とする。どうやら総資産が1千万円を超えてる痴漢が居たらしい…。


「ていうか、レベル56って…」


そして、下の隠しステータスを開いて見る。


体感覚遮断Lv3

 ・分配率[経験値-50%+][所持金-50%+]

     [攻撃力-00%+]

     [防御力-00%+]

攻撃力:56

防御力:24


(…何か分配先が増えてる………)


攻撃力と防御率がレベルアップと連動して2桁になっていた。攻撃力はレベルと直接連動し防御力は半分くらいだ。恐らく服を1とし、レベルの半分が加算されてるんだろう。というか最初に見た時の数値と見比べてもそういう計算が成り立つ。武器を装備すれば、武器の攻撃力が加算された数値になるんだろうな…多分。


「…武器って何だよ。用意できるのって、包丁とか果物ナイフくらいしかないぞ…」


苦笑いしながら駅の外をゆっくりと歩く。実はあまりにも痴漢に遭う為、ある物を自宅で作っている。凄く時間が掛かるし手が痛くなるんだが…少し太目の鉄線を使ったチェインメイル…不幸の手紙の奴ではなく、RPGでは序盤で装備する鎖帷子くさりかたびらっていう奴な…を自作している。きりや千枚通しみたいな細い物は無理だけど、ナイフや包丁などの刃物はギリ防げる奴。…あぁ、刺身包丁なんかは刃先が細いので防げないかも知れないけど。


(後1箇月くらいで完成するかな…?)


別に刃物をぶっ刺されるのを防ぐんじゃなくて、服の下に着込んで痴漢の手や暴漢が腹を殴るのを防ごうかな…って。まぁ、顔を殴られたり首を斬りつけられるのは防ぎようもないんだけど(首から上まで覆うようなのは土台無理だし…てか変人扱いされるわ!)


(だけど、釈放された痴漢が復讐しにナイフを持って斬りつけてきたのはビビったかなぁ…)


つい最近起きた事件を思い出してブルっとした。


(流石にレベルアップして防御力が上昇していたお陰で怪我はなかったんだが…目とか柔らかい部分を突き刺されてたらヤバかったかもなぁ…)



「クソアマがぁぁぁあああっっっ!!!」


って怒鳴りながら、どん!って突っ込まれて、そいつが手にしたナイフ…いや、ダガーといっても差し支えない程大振りのアーミーナイフっぽい奴が根本から折れていて刃先が転がっていて、俺の刺された部分というと、服が一部切れてて地肌が見えてたんだけど…


(肌には傷一つないとか…)


慌ててその場から逃げ出したけど、後でニュースで犯人が捕まったって見てホッとしたけど…多分、茫然としてる間に周囲の人間が通報したんだろう…と思う。


………

……



そういやいうのを忘れてたが…どうやらこの世界は俺の居たあの世界とは矢張り違うらしい。図書館で調べた範囲で判明した内容だが…


・惑星の名前は地球で同じ。太陽系とか星々なども同じで、そこら辺は大差ないようだ

・住んでいる国も日本で同じ。見知らぬ小国はわからんが大国や周辺国は大体同じ模様。歴史は苦手だが…多分大体一緒。微妙に「ん?」って思う史実の差異があるようだが現代に生きる俺には余り変化はないと思う…

・但し、確実に前世の世界には無いモノがあった。それは…

 ・ステータスボードとシステムが現実に存在する

 ※但しステータスに覚醒しないと使えないしスキルなども行使できない

 ・システムを扱える者は金銭をステータスに収納できる

 ※この機能により、持ち運べない量の金銭を持ち運べる

 ※レベルアップにより、アイテムインベントリ機能も開放される

 ・システムを悪用しても取り締まる法はないが、それとわかる罪が発覚した場合、警察機構による罰が適用される

 ※証拠による逮捕はスキルにより無力化されており、基本的に現行犯逮捕しか適用されない模様。依って裁判所は存在しないようだ(異議あり!ごっこはできない模様)

 ※勿論、スキルを使わない罪にも罰は適用される。現行犯逮捕しか適用されないのは同じだが

 ・そして、最大の違いだが…人類に敵対する異物が存在する。この世界では敵対する存在として「エネミー」と呼んでいる

 ※その姿は多種多様に存在する。見た目はファンタジーRPGに出てくるモンスターに酷似しているが、単に小型エネミースモール中型エネミーミドル大型エネミーラージと大きさで呼び分けているだけの模様

 ・普段は目に見えないしそこに居ても触れることすらできないとされている。が、閾値を超えると顕現するらしい

 ※この辺は極秘らしく、調べてもわからなかった…


「う~ん…見た目は現代日本なんだがなぁ…」


腰の裏に突っ込んでる3段ロッド(見た目はちょっと太い金属質の棒)を引き抜いて振る。すると、シャキン!と音を鳴らして伸長する。大体40cmくらいの長さになるか?


目の前には道路が伸びていて前方には何もないように見える。ここは自宅から少し離れた道路。人も車も往来はなく、時間も遅いということで夜も更けている。都会の夜らしく霞んだ夜空で星はほぼ見えなく、月も新月に近い月齢のせいで殆ど見えない。頼りの光源はぽつんぽつんと立っている街灯のみで、何故か暗くて頼りない灯りが揺らいでいる。


「…」


何処からか浴びせられている見えない視線を感じながら3段ロッドを装備しているチェインメイルに軽く当ててその存在を確かめる。


「うん、大丈夫。ちゃんと着てるな…」


未知の存在に対してどれ程効果があるか不明だが、服しか着てないよりは遥かにマシだろう。


〈前方…いえ、上方から斬撃接近!〉


体感触遮断スキルが警告する。


「ちぃっ!」


バックステップで回避する。宵闇の中、更に不可視の存在がこちらを攻撃してくる!


(唯でさえ見えないっつうのに、更に夜の暗闇に乗じて攻撃してくるとか…国の防衛組織はこんな連中とよく平気で対応できるよな!?)


目前に着地音が響き、と同時に前方ダッシュしてロッドを振り抜く。


ガキィンッ!!…どさっ


音からして、ロッドを防いだが防ぎきれずに真後ろに倒れたって所だろうか?


(安定した四足動物型じゃなくて不安定な人型のエネミーか?)


国では体格だけで区分してるが、俺は前世のファンタジーゲームの情報が頭にあるせいで、独自に大まかな区別をしている…とはいえ、その姿が見えない上に攻撃したり回避した時の挙動で大雑把な区別しかできないんだが…


(…!)


何となく横を通り過ぎて背後に回り込みそうな気配があり、気配を感じた左…ロッドを持っていた右手とは反対だが、くるっと体を回して勢いを付けて振り抜く!


ごすっ!…「………!!」


体にジャストミートした感覚と聞こえはしないが悲鳴を上げたような気配がする。そして…


「…消えたか」


恐らくは存在が消えたか、顕現するだけの何かを失ってこちらの世界への干渉力を失ったんだろう。あれらに死というものはない。あるのは、存在するかしないか。つまり、こちらの世界に干渉する力があるかないか。その二択だ。力を失えば死ぬ…といえるかも知れないが、放置するとまた湧いてくるらしい。Gやボウフラよりやっかいな連中だ。


「…レベルアップしてるな」


レベル:60

経験値:104exp

所持金:20,000,000円


丁度59から60に上がったようだ。所持金は死ぬと全て失うらしいので取り敢えず端数を給料を振り込んでいた銀行に貯金しておいた。…とはいっても、端数全額でも百万円以上あり、何処から得たんだ?っていわれそうだったので21万ちょいだけ預けて、百万円は部屋のとある場所に隠してある(タンス預金?…いや、自室にあるけど引き出しが固定されてて開かないし…秘密ってことで!)


(エネミーってのを倒しても、経験値は結構大量に入るんだが金は稼げないんだよなぁ…)


恐らくそこに居ただろう場所を見ていると、ドロップ品が転がってるのが見えた。


(これは…?)


近付いて見ると街灯の明りにキランと光る。拾ってみると、小石よりは大きめの…近い物といえば…。


「宝石とかの原石か?」


やや長細い磨けば輝きそうな宝石の原石と思える物だった。


「…また図書館行って調べてみるかな…?」


こうして、名前だけは平凡だがその実力は唯の美少女じゃない山田花子の明日の予定が決まったのだった…ドカ●ンじゃないわい!(それは山田太郎)


………

……



「ふむ…これは魔石って奴か…」


魔石…エネミーからのみ得られるドロップ品。その正体はエネミーの核と呼ばれている。エネミーを倒すと稀に得られる。国の…政府のエネミー対策施設に持って行くと金銭と交換して貰えるが、一般人にはエネミーを倒せることは不可能なのでスキル所持者に任せた方がいいといわれている。


(そらそうだろうな。レベルが上がってる奴でも見えないエネミーを対処できないだろうし…)


ソロでは不可能に近い。昼日中ひるひなかにあいつらは出てくることはほぼ無い。日中でも地下…下水道で照明が故障してるような真っ暗な中ならわからないが、今までの経験上…新月かそれに近い夜か、真夜中で月が殆ど沈んでいるなどの条件が揃ってないと現れない…と思う。


(この前はたまたま条件が揃ってたからなぁ…)


雲が割と厚く立ち込めていて星が見えなく、月も新月に近い月齢。街灯の明りはものともしないっぽいが…。


(システムを扱える?ようになってから1箇月くらいしか経ってないからな…もう少し検証しないとはっきりしたことはわからない…か)


レベルも60に上がり、スキルレベルは3のままだが…


攻撃力:70

防御力:35


3段ロッドとチェインメイルを装備したことにより、攻撃力と防御力が増強した。3段ロッドは数値から推定するに10。チェインメイルはレベルの半分と服の1を引いて防御力は4だろう。尤も、服を普段着じゃなくてもっと丈夫な服にすればもう少し上昇するだろうけど。


(お手製のチェインメイルもいつまでも使えるとは限らないしなぁ)


所詮、ニッパで切れる程度の鉄線を丸くして編んだだけの物だ。業物の刃物でも思い切り斬りつけられれば…肌はともかく、チェインメイルは切り裂かれるだろう。


(魔法とかあればなぁ…魔法の鎖帷子とかあったし)


所謂、チェインメイル+1とかそういうものだ。物理だけではなく不思議な魔法防御で防御力が上昇するという訳だ。


(武器も市販品の3段ロッドじゃ弱いし…物理(力)でごり押しが有効な内はまだいいけど…)


所詮は内部に空間がある鉄製の棒だ。力が掛かり過ぎれば歪んでしまい、畳めなくなるし伸長もできなくなる。こうなると銃刀法が生き残ってる中途半端な法律が恨めしい。尤も、自衛の為に3段ロッドが使えるだけマシなんだが。


「う~ん…エネミー関連で何か情報がないかな?…お、これは………」


図書館の情報閲覧室のPCを見ているとタイムリーな情報が目に飛び込んで来た。それは…


「対エネミー自衛隊員募集!…か」


詳しく読み進めていくと、陸自とか空自、海自とは違う組織で独立組織であるらしい。一応、国の…政府の組織の一部らしいが、どちらかというと警察組織に近い…いや、これは…。


「う~ん…これって地域に根付いた消防団みたいな感じか?」


バックアップは国だが、全国に多数ある町や市、村などにいつ現れるかわからないエネミーに対して数が余りにも少ない警察官。そして、システムの恩恵であるステータスを得ている人間は更に限られている。戦闘に向いたスキルを持つ者は更に少なく、24時間扱き使えば疲労してしまい、倒れてしまえば回復するまで対処の手段を失ってしまう…という訳だ。使える者は一般人であっても使え…ということか。


「内部事情はわかるが、どんな扱いをされるかわからないとなぁ…まさか、死ぬまで扱き使われても報酬が雀の涙…ってことも有り得るし…」


公表できる訳は無いが、取り敢えず資産は当分遊んで暮らせる程度はある。死ぬ前の年収が非課税枠だった俺としては、それこそあれだけあれば20年近くは働かなくても生活できる自信がある…物価が上昇し過ぎなければ、だが。


…話しが逸れた。


「う~ん…何々…」


【システムの恩恵を受けて戦う力を得た者よ!…我こそはと思う者は当地区の対エネミー自衛隊へご連絡を!! Tel 03(xxxx)xxxx代表 まで!】


まんま自衛隊隊員の求人みたいだ。


(いや、自衛隊だったか。対象がエネミーってだけの)


取り敢えず、司書さんにプリンターの使用許可を得て関連資料と募集チラシっぽいページを印刷した。俺は司書さんに紙代を支払うと印刷したプリンター用紙をまとめてナップザックへ入れ、図書館を後にした。


………

……



結局、応募することにした。あれから自宅で調べたんだが、図書館のPCからしかエネミー関連情報が閲覧できないし図書館からでもあれ以上の情報は検索しても引っ掛かることはなかったのだ。アングラサイト?…怖くてセキュリティー甘々の自宅PCからアクセスできんわ!…図書館のPCもそういう所にアクセスしようとするとフリーズするし…。多分、セキュリティーに引っ掛かってるんだろうな。司書さんが飛び込んで来てお説教を1時間近く受けた時はどうしようかと思ったよ…


「えっと…この辺で待ち合わせか…」


募集チラシの代表番号へ掛けたら、変な音が聞こえてきて…募集対応の担当者が出てきたんだけど、聞き取れたのは…


「出会う日時と場所。そこで車をまわすから車に乗って事務所まで行くことだけ…」


それだけいうと怪しい会社の事務所に連れ込む怪しい人たち…って感じだけど。どうなんだろうか?


パパーッ!


何とも懐かしいクラクションが鳴る。見ると、結構古い形式のバンが止まっていた。ドアの窓から早よ来いって手を振られる。


「…行くか」


なるべくゆっくりと観察しながら歩く。中の人は…まぁ普通の成人男性か。女性もいるがそちらは成人してるかギリギリだろう。少なくとも俺よりは年上だろうが(忘れてるかも知れないが、中身は50代のおっさん。外見は17歳のピカピカの高校2年生…じゃなく、女子高生みたいな美少女だ)


「よく来たな。さ、乗ってくれ」


男性が名乗りもせずにいうと、隣の席に座っていた女性がドアを開けて運転席の中央へずれていく。バンだから後部に乗るのかな?…と思っていたが、見ると仕事道具らしき物で一杯のようだ。


「…」


取り敢えずだんまりでこくりと頷いて乗り込む。ナップザックを引っ掛けてないか確認した後、バン!とドアを閉める。バンだけにバン!って…ギャグか?…と思ったけど笑う者は居ない。いや、内心一人で受けてたけど。


きゅるるる…ぶぉん!


セルを回してからエンジンが唸りを上げる。ていうか停車してすぐエンジンを止めたのか。燃料消費や空気にはエコだがエンジンにはちょっと厳しいな…なんて思っているとバンが動き出す。


「初めてか?…て当然か。ま、我々2人だけだが自己紹介をしておこう。俺は段田 弾だんだ だんという。高円寺対エネミー自衛隊所属。そこの部隊長だ」


高円寺は総武線の中野駅の次駅だ。早稲田通りを中野から西へと進むと広い敷地があった気がする。もしかするとその敷地に駐屯地というか部隊の建物とかがあるんだろうか?…前の世界では野方警察署とか東京警察病院があった筈だが…


「…クレイ。宜しく」


俺よりは年上の女性は視線も合わせずにそれだけいうと、すぐに黙りこくった。どうやらお喋りは得意ではないらしい。


「…クレイ、すぐ仲良くしろといわないがもうちょっと、こう…はぁ」


部隊長のダンさんは彼女の扱いに困ってるのだろう。見た目は同性の俺が来たってことで、もう少し態度とかそういうのが変わらないか?…と思って連れて来たのかも知れない。


「…着いた」


見ると、殆ど目の前に広大な敷地を擁する建物が見えてきた。殆どは運動場みたいな空き地なんだが。端っこには高いポールが幾つも立っており、その間にはネットが張り巡らされている。そして外と連絡する通路には巨大な扉が設置されており、まるで巨人でも通れるような雰囲気がある。扉は彼方にある建物より高く、扉だけが豪勢な気がする。


「あの…あの扉は?」


そう訊くと、


「気になるか?…まぁすぐに何なのかわかるだろう」


…と笑って答えてくれなかった。恐らくは想像してる物と一致するんだろうなぁと思いつつも、取り敢えずそれ以上は突っ込まないことにした。


「さて、君は…山田さんだったか?…ここで降りてくれ。後から迎えの者を寄越す」


段田 弾さんことダンさんはそれだけいうと、ドアを開けてくれた。年式が古い癖にドアは運転席から操作して開けることができるようだ。タクシーなんかはその辺の機能は充実してたけど、バンにもあるとは思わなかった。


「は、はい」


喉が渇いてたせいかそれだけを何とかいうと、慌ててドアの外へ。ドアを押して閉めると「さんきゅ!」といってバンを出すダンさん。クレイさんは微動だにしてなかった。きっと興味を示してくれなかったんだろうな…。悲しいけど、これ現実なのよ。


「…あ、あの人が迎えの人かな?」


非常にでかい扉の更に西側にある人間大の出入口。そこで俺は待っていると、建物の奥から人影が見えた。


「…あなたが先日応募に来たって人かな?」


明らかにクレイって人より年上の…有体にいえばおばさんに片足を踏み込んだアラサーの婦人警官って雰囲気の女性が現れた。制服じゃなくて女性用のビジネススーツに身を包んでいるが。


「え、はい。山田花子と申します」


取り敢えず外向けの営業スマイルで頭を下げる。服装はチラシには自由と書かれていたので普段着を。流石に公式に使いまわせそうな女子高生の制服なんかは持ってないからな…


(そもそも、俺はほぼ男子高な共学の工業高校に通ってたからな。その制服(ブレザー)なんぞ残ってないけど…つか、この世界じゃそもそも所持すらしてないだろう)


性別も世界も違うこの世界の俺の本質はどこにあるんだろう?…なんて哲学的なことを考えても下手な考え休むに似たり…ってことだ。取り敢えず頭を上げて真正面を見据える。


「高円寺対エネミー自衛隊へようこそ!事務の安西 奏あんざい かなでよ。宜しくね?」


思ったより乙女な名前に生暖かくなる視線を必死に抑えながら、


「は、はい。宜しくお願いします!」


と元気良く答え、先導するカナデさんの後に続く。どうでもいいが、そろそろ水分補給したいなと思いつつトイレにも行きたいなと思う俺が居る。何故か知らんが緊張したせいか喉が渇くしもよおしてきたんだよ…。建物の入り口横にドリンクの自販機を目ざとく見つけた俺は、カナデさんの許可を得て何本か買い込んでナップザックに入れた。1本はその場で飲み干して横のごみ入れに放り込む。別にいいだろ?…喉が渇いてたんだから!…トイレ?勿論カナデさんの案内ですぐ行ったよ。凄い変な娘を見る目で見られたけどな…うぅ~。




「じゃ、ここに座って?…簡単にここで何をしているかとかの説明をしちゃうから。その後で、幾つか質問と検査をしたいんだけどいいかしら?」


こくりと頷くと、順を追って話しを聞く。大体20分くらい掛けて説明を受けたんだが説明慣れてないのか、少々冗長気味だったんで…まぁ要約するとこんな感じだ。


【対エネミー自衛隊のやってること】

・エネミーの出現予測と出現時に撃退、若しくは殲滅すること

・普段は対エネミーの戦闘訓練、体力向上訓練、対外(一般市民)アピールなどをこなしている(事務の作業の一部でもある)

・事務職は通常の会社と似たような仕事をしている。対外(一般市民)アピールや苦情受付などの雑務もこなしている

・他の3自衛隊と違い装備は個人携行可能な物に限り、大規模攻撃の武装は行使禁止されている(特別に上層部から許可が下りるか命令された場合を除く)

・当然ではあるが外部への情報漏洩は厳禁。もし一般市民に対エネミー戦闘現場を見られたなどの場合はすぐに上司へ伺いを立て、迅速に命令に従うこと


(…ま、お役所仕事だからこんなもんだろうなといった感じか。仕事は拙速を貴ぶだろうから、仕事は早いんだろうけど…東京の交通事情が事情だから、余り遠いと間に合わないかもなぁ…)


この支社というか部署…高円寺の部隊の管轄は大体半径5km。実際には区境とかあるから正確じゃないけど。渋滞とか考えると、車メインでの出動ではそれが限度らしい。エネミーの予兆を捕らえてから最低でも30分以内に現着して対応しないと被害が拡大して最悪その付近一帯を爆撃しなくてはならないらしい…。つか、爆撃なんてしたら、一般市民がわんさかと目撃するんじゃ…それに何時何時いつなんどき現れるか不明なエネミーとの戦闘を目撃者の対処って無理がある気がするんだけど…


(ヘリとか装備してないんだろうか?)


気になって訊いてみたら、東京の空では突然のエネミー出現に合わせて飛行計画書の提出とか無理だから、余程の緊急時でもない限りは車で出動がメイン、らしい…。


「大変なんですね…」


しみぢみと呟いたら、「そうなのよ~」ってぼやかれた。法改正がまだ追いついてなくて、当分はこのまま運用するらしい。道路は早稲田通りを見ると前の世界より拡充されてるお陰で高円寺対エネミー自衛隊のある周辺は車を飛ばせるだろうが、他の道路はどうなのかは見てみないと何ともいえなかった。


「じゃあ、質問タイム…なんだけど、いいかしら?」


「え? あ、はい…」


質問は幾つかあったが、2つだけは恐らくこちらの世界の俺の進路を決める物だろうと思う。他は当たり障りない内容だったから。その2つとは…


「えっと…システムっていって何かわかるかしら?」


「えっと…ステータスとかスキルを司るあれですか?」


「そう…そこまでってるのね。では、それはいつ…気付いたのはいつかしら?存在を認識した日でも構わないけど…」


「えっと…ついこの間ですね。といっても1箇月以上経過してますが」


ふんふんといいながらメモするカナデさん。特に細かいことに突っ込まれないのは有難いが。


「…最後に。募集チラシを見て来てくれましたが…あなたは対エネミー自衛隊に入る意思はありますか?」


「えー、まぁ。興味があったので見学しに来た…というのが本音なんですが…」


まぁそうだよねって感じの苦笑い半分で続きをどうぞ…と促される。


「逆に訊きたいんですが…ここって人材不足とかじゃありませんか?」


ぎくって感じで固まるカナデさん。何故それを?…といった表情でこちらを見る。


「えーまぁ…外から見た感じ、動いてる人が少なく感じましたし…。お役所でよくある「箱だけ作って中身は後で」感が半端なかったですし…」


何故か危険感知までしてくれる「体感触遮断スキル」で敷地内の危険は感じられなかった。つまり、訓練をして敵意という訳ではないがそれだけの強い意志を感じられなかった。広い敷地の割には、中で活動してる人間が少ないんじゃないか?って思ったことがひとつ。人が多ければ、中には悪意を持つ人間が多少なりとも混ざる筈だけど、それも殆ど感じられなかったのもある。


「…という風に感じたんですが?」


唯一取得しているスキルをばらさずに説明をするのが難しかったのだが、そのまま公表する気にはならなく、悪意や強い意志を感じ取るスキルという感じで誤魔化しておいた。


「だから余り戦闘には向いてるとは思いませんが、一助になればと…」


という訳で、装備も整ってないソロ冒険者をやるよりは、装備も福利厚生も整ってる国がバックについてる組織に入った方がマシかな?…と思って入ることになった。まぁ、色々と契約することになったけど…秘守義務とかも色々付いて来たけどね…あはは。



「えっと…順番がちょっとアレになったけど、検査をするわね?」


「はい」


今度は検査をするらしいが、部屋を変えるようだ。何でも検査の為の機械が別室にあるそうで…。


「じゃ、ここに座って。はい、手を出して?」


テーブルが在って椅子が在る。テーブルの上にはどこかで見たような…


「水晶球…じゃなくて。これはホログラムですか?」


何と、驚いたことに空中に浮いた水晶球の立体映像が浮かんでゆっくりと横に回転している。下を見ると背の低い円型の立体映像を空中に投射する装置があることから、この世界では立体映像技術がある程度確立してるみたいだ。


「それは技術の名称。これはホログラフィーね。まぁいいから手を出してこの水晶球に触れてみて?」


どんな原理かわからないが、ラノベの冒険者ギルドなんかで用意されてるステータスを見る機能でもあるのかも知れない。魔力が大き過ぎて崩壊する水晶球とかベタ過ぎる。


「えっと…こう、ですか?」


いわれるままに手を伸ばして空中に浮かぶ水晶球に触れる。正直、触った感触は無くて…あ。


(体感触遮断スキルが反応してる?)


それは痛みや快感などの感触ではなく、体の奥底を見られているような…体に侵入して見透かす目とでもいうだろうか?


(…ふむ。僅かに感じられるけど、危害は少ない、か…)


暫くすると目の前の水晶球の色合いが変わり、別途あるモニターに文字が出力されていく。


【解析ステータス表】

名 前:山田 花子

年 齢:17

レベル:61

攻撃力:61

防御力:35


「おお…」


モニターに表示されたそれは簡素ではあるが、確かに現在のステータスと同じだった。実際のステータスはこうだが。


【ステータス】

名 前:山田 花子

年 齢:17

ーーーーーー

レベル:61

経験値:8,944exp

所持金:201,902円

BWH:85、60、87

身 長:160cm

体 重:54kg

血液型:A(RH+)

スキル:体感覚遮断

ーーーーーー

体感覚遮断Lv3

・分配率[経験値-50%+][所持金-50%+]

    [攻撃力-00%-]

    [防御力-00%-]

攻撃力:61

防御力:35


あれからまた痴漢に遭って…後はいわんでもわかるだろう。経験値も所持金も大して増えてないけどな!…はぁ。


「凄いですね。ほぼ一緒ですよ」


取り敢えず、素直に賞賛しておく。無駄にハイスペックな立体映像装置を使う必要があるのかはわからんが…。これ、電力も無駄に消費してる気がするし…。それはさておき、


「凄いわね…レベル60って…」


と、違う所で驚かれてた。61なんですけど…


(あ~、そ~いえばステータスを得てから1箇月ちょいしか経ってないっていってたっけ…不味ったかな?)


カナデさんは何の疑問もなく驚いて喜んでいたが、少しでも疑問を持つ者が見れば、これは異常だと気付くだろう。


(…ま、その辺は襲って来るエネミーを撃退してたらいつの間にかレベルが上がってましたって誤魔化すか…)


幸い、所持スキルは非表示で申告した内容は敵意感知系だと伝えてるので、不意打ちにも対処できると思われるだろうし、後は撃退できる腕前を持ってると納得して貰えれば…


(何とかなるかな?)


とまぁ、取り敢えずその時はそう思ってた。


………

……



- 第4章 高円寺対エネミー自衛隊 -


「えっと、本日入隊しました「山田花子」です。宜しくお願いします」


結局、親御さんの許可を得られないと人材不足ではあるが入隊は許可できない…とのことで、一旦帰ってから説明をして、電話で自衛隊にも確認して貰って(陸自に入るのかと思われて最初は反対されたけど)双方共に納得して貰ってから今日に至る…といっても、書類のやり取りもあって遅くなったんだけど…1週間かかるってメール全盛の時代で紙の書類をFAXでやり取りって…いや、郵送よりは遥かにマシですけどね?


「うむ、ようこそ高円寺対エネミー自衛隊へ!…我々は君の入隊を歓迎する!!」


ぱちぱちとぱらついた拍手が流れる。顔を上げて見回すと数人の隊員と事務のカナデさんを含め、総員で7人しか居ない。実行部隊は…隊長とクレイさんと、他2名しか居ないようだ。残りは裏方部隊と事務員という…小隊どころか分隊規模にも満たない人数だ。尤も、ここは軍隊じゃないから部隊人数の規模は違うのかも知れないけど。


「これでやっと正式な人数に届くな!…まぁ、俺はここから指令を出す身分で、今まで部隊員と兼業だったんだけどな!」


(4人で1部隊だったらしい…。まぁ、その中でも色々と役割があるんだろうけど…)


俺も軍隊の中身なんてよく知ってる訳じゃないけど、どうもこちらの世界の対エネミー自衛隊って組織では人数の最小規模はあちらの軍隊より少なめらしい。


「で…これから訓練を始めたいんだけど、山田はレベル60もあるんだって?」


部隊長のダンさんがそれを口にした途端、周囲の目の色が変わる。特にクレイさんは油の切れた人形が関節の油切れを無視して回したかのような感じでこちらを見…凝視したせいで、凄く、怖い…


「強い子は大歓迎だ!…まぁ、今日は最初だから肩慣らしで行くけどな?」


がははと笑いながら敷地の中央へ歩いて行くダン。そして後に続く隊員たち。事務員のカナデは用は済んだとばかりに建物の中へ。他の裏方部隊は見学のつもりなのか、敷地の端に設置されたベンチに座って高みの見物と洒落込んでいる。


「うう…何するんだろう?」


元々の体は運動は苦手だった。今生の体はシステムの恩恵で体機能は向上し、下手な猛獣程度では負けることはない。エネミーに対してはまともに攻撃が当たった場合はわからないが…今の所は連戦連勝できている。だが、どうにも体育会系ってのは慣れないのだ。


「お、お手柔らかに…」


つい弱気が前面に出てしまい、口から出る台詞も尻すぼみになってしまう。


「おう、宜しくな!」


さっきから同じ台詞しか吐いてない部隊長だが、まずはランニングらしい。戦いの基本は1に体力2に体力。3・4が戦闘力と防御力で、5にも体力って所だろうか?


(それだと戦闘の行方を見極める戦術だか戦略が抜けてるか…)


その辺は戦闘員ではなく、司令官の仕事なんだろうけど。



「ぜはぜはぜは…」


荒い息を吐いてるのは…実は俺ではない。汗は全身から流れ落ちてはいるが、肺機能はまだ余裕のよっちゃんである。まぁ…軽く肩が動いてはいるが息そのものは安定している。


「お前…いや、山田、凄いな…」


部隊長が荒い息を吐きながら褒め称え、地面にぶっ倒れているその他2名も頷く。クレイは立ったまま息を整えつつ「…うん」と呟いている。


「いや、まぁ…レベルの恩恵、ですかね?」


実際、隠しパラメータじゃ様々なステータスが高いレベルでまとまってるのだろう。表に出てる攻撃力と防御力、そしてレベルだけじゃそんなんわからなさ過ぎる。


「そう、か…」


それだけいうと部隊長は黙りこくる。そういえばここの隊員のレベルってどれくらいあるのだろう?…という疑問が浮かび上がる。


(ん~…入って初日の新人に公開する訳ないよな?…俺のは公開されちゃったけど…。気にはなるがもう少し時間が経ってから聞いた方がいいか。実戦の直前くらいには向こうから教えてくれるかも知れないしな)


取り敢えずそう思い、そろそろ休憩も終えて次の訓練メニューに入るかな?…と指示を待っていると、それは来た…



- 第5章 隊員としての初めての実戦 -


う゛ぉ~~~~お~~~~~………


(これは…空襲警報?…って、戦時中かよ!?)


映画の戦争なんかで聞いたことの有る空襲警報音を真上から響かされて耳を抑える。流石に直接触れている訳じゃない音には、体感触遮断スキルは通じないらしい。大音量を発すエネミーが居たら気を付けよう…なんて思っていると、


「総員出動準備!」


と怒鳴って走り去る部隊長。それに続く他の隊員たち。見ると、裏方部隊の連中は既にその姿が見えない。とっくの昔に自らの仕事場へと走り去ったらしい。


「え?…取り敢えず!」


部隊長の後を追いかける。今日から訓練を始めたど新人もいい所だが、追いかけてれば何かの役に立つだろう…



「全員乗ったな?じゃあ出るぞ!」


今日は部隊長は指令役として残るんじゃ?…と思っていたが、急に連携を切り替える余裕はなく、昨日までと同様に全員で出るとのことだった。一応、前衛には出ないで車内から指示出しの訓練も兼ねるとか。


(…)


空襲…じゃない、エネミー緊急警報が出た現地は、ここから北へ600m程。何とかって公園がある辺りらしい。直線距離じゃそれ程遠くじゃないけど…


『ざぴ…対象は可視化を済ませている。至急応援に来られたし。オーバッ』


(可視化ってことは、一般人にも見えてるってことか…。そうなると…やっぱパニックを起こした一般人が逃げ惑うから撃退するにしても接近が困難になるか…急いだ方が良さそうだけど…)


焦る気持ちはあるがバンは一向に進まない。道路が渋滞を起こしているからだ。近所で事故を起こしたのか黒煙が上がり、渋滞を加速していた。


「あれじゃ消防も近寄れないな…まぁ、ガソリン車に水をぶっかける訳にはいかないが…」


ガソリンは油だから水をかけると余計に燃え広がることがある。その為、化学消防というのがあるが…最悪、爆風なんかで空気中の酸素を吹き飛ばして火を消すという荒い対処法なんかもある。


「…すいません。ちょっと出ます」


俺は部隊長に断りを入れ、返事も聞かずにバンを飛び出す。逃げるのかだって?…違う違う。用事は前方で燃えてる車の対処だ。こいつのおかげでバンが動けないからな。


高レベルステータスでごり押しのジャンプを駆使して道路上の車の天井をぴょんぴょんと跳んで燃えている車両群を見つける。2~30mは離れてるんだが結構な熱量で肌がじりじりと焼けて…るように感じる。スキルのお陰で痛みも熱もほぼシャットアウトされてるけど。


「肌は…熱ダメージも遮断されてるのか。滅茶苦茶優秀だな、これ…」


流石に着ている服まではフォローされてないが、その辺で水でも被れば暫くはもつだろう…と思い、たまたま見掛けた公園で水道を利用することにした。ちょいとルートから離れるが仕方がない。


「さてと…」


水道の蛇口を全開にして溢れ出る水を体に浴びる。1分程そうして全身がびちょ濡れの…水もしたたるいい女になってから、蛇口を閉めて走りだす。


「せー、のっ!」


と声掛けをして大ジャンプを1つ。燃え盛っている手前の歩道に着地をして、降下中に吸い込んだ息を…一気に時放つ!


ごぉぉぉおおおっっっ!!!


人間が吐く息じゃない音がして、一瞬にして火を消し止める。その間1秒もなかったと思う。幸い、野次馬も周囲には居なかったようで、人が空を舞って大怪我をしたということは…後で聞いたが無かったようで安心した。


「はぁ…これで動いてくれるかな?」


無論、火災で動かなくなっていた車両群の話しだ。念の為、火災でぼろぼろになっている廃車たちは歩道側に寄せておく。火を消し止めたばかりで触れれば火傷どころか普通の人間なら即死してもおかしくないのだが…


「うむ、触っても大丈夫のようだな。まぁ、服には触らないようにせんとな…」


と、花子本人の体はスキルによって保護されているので無事だった。水で濡らして保護したつもりの服は…後で見たら焦げ付いていたが。それはまた別の話し…


パッパー!


廃車の移動作業が終わってすぐ車が動き出し、部隊長一行が乗るバンが到着してクラクションが鳴らされる。見ると、早く乗れという表情が認められたので素早く頷いて…バンの天井に飛び乗った。ドアを開けて乗るより早いだろうとの判断だが…後で目立つ行動は慎めと注意というか苦言をいい渡された…緊急事態なんだからそれくらい…と思ったんだが。解せぬ…



「…見えた。あれか…って、でかっ!?」


目標の公園まで後僅か…といった時点でそれエネミーは現れた。大きさを比較できる物といえば、公園に生えてる木なのだが…最低でもその3倍は背が高かった。


(一体何mあるんだ?…あれ)


仮に一番高い木が10mだとすれば30m。ちょい小さめのウルト●マン並みである。とても人間が相手できるとは思えない。怪獣案件で空自か陸自が出張る必要性がありそうだが…


(そんなことしたら…町は弾幕や爆撃で火の海に。とても人が住める状況じゃなくなる…か。その為、携行武器が制限された対エネミー自衛隊、という訳なんだな…)


今更ながら自衛隊の中でも特殊な立ち位置を持つ対エネミー自衛隊の理解が進み、俺はその隊員なんだという自覚を覚える。そして、目の前の大型エネミーラージを倒すべく頑張ろうという気概も沸いてきたのだが…


「不味い…あれは超大型エネミーヒュージだ。我々の手には負えんぞ!?」


と、真下から部隊長の悲鳴が聞こえてくる…。


「は?…手に負えない?…あれってラージなくてヒュージ?」


カナデさんの説明ではエネミーの種類はラージまでしか聞いてなく、更に上がいるとは…全くの初耳だった。下からは空自の出動を要請した方がいいとか聞こえてくる。恐らく陸自だと道路が混雑しているせいで間に合わないと判断してるんだろうけど…


(んなことしたらこの界隈かいわいは火の海になるじゃん…それは不味いぞ!?)


映画なんかじゃゴ●ラとかの怪獣が日本の都市を全滅させても数か月で復旧したりしてるがそれはお話の中の出来事だ。んなご都合主義の如く復活できる訳はない。何をするにしても、金と物資と人が大量に必要になるんだ。それも復旧まで年単位で…


(こうなったら、できる所まででもやるしかないな…)


続、高レベルステータスでごり押しだが…。山田花子はバンからひょいっと飛び降り、道路に立つと集中する。目標、良し。距離、良し。体調、良し。武装…


「部隊長、ちょっと拝借しますね?」


バンの後部ラックに詰め込まれている数々の武器を見て、2つをチョイスする。1つは長槍だ。長さ2m、重さ5kgのパルチザンと呼ばれる簡素な刃を持つ長槍だ。もう1つは…本来なら剣とか刀をチョイスしたかったが、相手はラージの上を行くヒュージ。でかぶつに相応しい武器でなければ勝てるものも勝てないだろうと、一際重い武器を選んだ。


「お前…そいつは…」


バンの中の全員がそれきり絶句する。それは特殊な収納箱に入っていた特殊武器。絶対使えないけどいつかは使うかも?…といって置かれていたネタ武器でもある。


「物凄く重いっていってたので…現場まで箱で持って行きますね!では、後から応援宜しくです!!」


そして、また返事も聞かずに全力ジャンプして立ち去る花子。パルチザンを背中に背負い、特殊収納箱は両手で抱えての移動だ。だが、重量物を持っているという感じもさせずにぴょんぴょんとジャンプ移動を繰り返す。そして…


「やっと着いたっと…さて」


取り敢えず収納箱を地面に置き、まずは小手調べとパルチザンを背中から抜いて構える。正直、正当な構え方など知らないが…左手で前を。右の利き手を後ろにして左半身を前に、半身で右半身を後ろにして構える。


「ぅぅぅううう、行っっっっけぇぇぇえええっっっ!!!」


助走もなしに一気にトップスピードに乗せて走り出し、そしてジャンプ!…蹴りだした地面は抉られて相当酷いことになっていたが既に人々は避難済であったのが幸いし、被害は地面と後方にあった敷地内だけで済んだ。


空気が摩擦熱で揺らぐ程に加熱され、花子の服が燃え尽き…否、お手製のチェインメイルと上に羽織っていた対エネミー自衛隊からの支給ジャージは辛うじて燃え残っていたが既にズタボロの状態だ。そして、音の壁をとっくに超えてソニックブームをまき散らしながらパルチザンを構えた花子がヒュージに激突する!


どぱがぁぁぁあああんんんっっっ!!!


音速突破の衝撃音と、パルチザンがヒュージに激突して分解した衝撃音が同時に響き渡り、この公園周辺の建物という建物のガラスは木っ端みじんに砕け散った。避難もせずに外に居たチャラい男や女の鼓膜も破裂した…と、後のニュースで報じられたが、当の原因である花子はその時点では気付くことはできず。


「痛っ…流石に…痛い………」


スキルで遮断しきれなかったのだろう。衝撃とは音であり、肌を通した衝撃は辛うじて遮断されたが、耳までは不可能だった。スキルレベルが上れば対応できるかも知れないが…。


(武器は…粉砕されたか。もう1つの武器は…)


鼓膜が破裂して三半規管にもダメージが行ったようだ。ふらふらとよろける花子は、置いて来た収納箱を探しすが…なかなか見つけられない。


『う゛お゛お゛お゛お゛~~~!!!』


余りの痛みに屈んでいたヒュージが雄たけびを上げて動き出す。だが、鼓膜を破壊された花子には雄たけびは殆ど聞こえなかった。が、スキルのお陰で悪意・敵意を感じ取り、彼の敵を何とかやり過ごす。


「くそ…たった一度の…それもこちらからの攻撃で…」


スキルでは防げない音波攻撃…それが自らの攻撃で発生して自害行動となるとは…まさかの展開で困惑する花子。鼓膜破裂と三半規管を半ばやられ、まともに歩くこともできない今、唯一敵を倒せるかも知れない武器の元まで移動することも困難な状況では勝てるものも勝てないだろう。


「確かこっちに…」


収納箱を置いたと思える場所。地面を抉るクレーターの元まで何とか歩き、到着したのだが…そこに怒りのヒュージが現れる。上空からのスタンプ攻撃という形で!!


ずどぉぉぉおおおんんんっっっ!!!


「うわぁぁぁあああっっっ!?」


危機一髪とはこのことか。踏みつけた足からはずれた位置に居た花子は、確かに直接の圧死は防げたのだが…代わりにバウンドした地面から放り出されて上空へ高く高く…このまま自由落下に転じて地面に撃突すれば、地面の染みへとジョブチェンジを強制されてしまうだろう。体感触遮断スキルで防ぎきれなければ、だが…


「山田!」


耳には届いてない筈の叫び。だが、確かにそれは届いた。緩やかに回転している視界の中に…地面から光輝く何かが。


「受け取れぇ~~!!」


そしてそれは、花子の手に飛び込んできた。自分を使ってくれといわんばかりに。


「これは?」



何処かで見た記憶のある形。そう…それは剣の形をしている。


「超重いっていうからハンマー系かと思ったけど…」


それは手の中で光を点滅させる。ご希望であれば、如何様な形状でも…といっているようだ。


「そっか…ふふっ」


花子は微笑むと剣を握る。視線を動かすと、もうすぐヒュージとの交戦距離となる。再戦の時は近い。


「じゃ、ろうか?」


手にした剣はその言葉に応じて光輝く。名は…まだ聞いてないので知らないけど。本能で相棒と認識した途端に力が溢れる。失われた体力や破壊された鼓膜、三半規管、驚くことに装備品の類いまで全てが…破損以前の姿に、回復した。


「ありがとね…」


礼をいった後、俺は目前のエネミーを一刀両断し、意識を失った。まるでその一斬りで全力を出し切ったかのように…


………

……



- 終章 エピローグ -


あれから1箇月が過ぎ、俺は病室のベッドの上の人にジョブチェンジを余儀なくされていた。前人未到の単独での超大型エネミーヒュージの撃退やら、俺のステータスやスキルを調査したいとか色々。何より、まともに扱えなかった国宝級武装例の剣を初めて扱えたどころか、


「付き従ってる?」


当の剣はベッドの横に立て掛けられ、ヒィンと僅かな音を立てて応じる。どうやら俺を主と認めている、らしい。他の者が持とうとすると、途轍もない重量が掛かり、例の特殊収納箱に入れないと持ち上げることすら困難になるとか…


「あれは…重量軽減の魔法が掛かってたのか…」


(ならば、魔法は存在する世界ってことになるな…)


前世では30歳を迎える前に童貞ではなくなっていたせいか魔法使いにはなれなかったが(素人童貞ではあったが…って、何をカミングアウトしてんだ、俺!?)…今世ではなれそうではある。


「…あ~、まぁ…魔法少女になっちまうかもだけどな…」


ま、それはそれでありかもな(フラグw)…などと思っていると、高円寺対エネミー自衛隊の皆さんが見舞いにきた。全員ではなく、1~2人くらいでだけど…。



「どう?体の調子は?」


安西 奏あんざい かなでさん。通称カナデさんだ。何故か精勤賞なくらい見舞いに来てくれている。そんなに心配を掛けてしまったんだろうか?


「よ、元気してたか?」


部隊長をやっている段田 弾だんだ だんさん。通称部隊長…って、まんまか。聖剣と化した国宝級武装(実は誰にも正確な形状はわからず、剣のようなモノということくらいしかわからなかったそうだ)を投げて寄越してくれたらしい。あれがなかったら…はっきりいって死んでいただろう。感謝してもしきれない。体は聖剣のお陰で全回復済みだ。何処にも異常が認められない…とは、入院している医者たちの言葉だ。なら、何をしているのかというと…


「おね~さまぁ~!!」


誰だこいつ?…って思っただろ?俺も最初はそう思った。笑っちゃうことに、俺のスキル「体感触遮断」に引っ掛かったらしく、数分で病院送り…いや、ここって病院だから別室に搬送されてったが…されるとか、どんだけレベルが高いんだよって思ったが(レベル上昇の恩恵で、吸引力がダイ●ン並みに上昇…ってまぁ、一般人なら触れてから数秒で失神するくらいにはなったか?)


「ちょっと…離れろ!」


またぶっ倒れるぞ…という間もなく幸せそうな顔してずり落ちる謎の少女。…いや、既に説明は受けてるので謎でも何でもないんだが…はっきりいって関わり合いたくない存在だ。


彼女は…日本の…やっぱいわない方がよさそうだ。必殺の気配がチリチリと首筋に張り付いている。何か不遜なことを口に出すと首と胴体が泣き別れしてしまうような…こら、聖剣お前も殺気を漏らさない!…お見舞いの2人がビビってるでしょうが!?


「あー、すいません…何のお構いもできませんで…特に体には問題は無いと思います。ただ、このままだと体が鈍ってしまうかなぁとは思いますが…」


ベッドの上から動けない毎日は唯々ひたすらに退屈だ。運動のひとつもできれば別だろうが…


「上と掛け合ってはいるんだけどな…済まない、もう暫く辛抱してくれ」


部隊長はそれだけいうと、時間だということで帰って行った。カナデさんは何かいいたげにしていたが、矢張り揃って帰って行った。う~ん、何だったんだろう?…気になるな…。


「はぁ…こいつを従えさせた何かを調査してるのが…引き留められている理由、なのかな?」


…それは、真実をだったのだが…答える者は居ない。ただ、聖剣がその傍でゆっくりと光輝くいていた。


………

……



『緊急事態発生…緊急事態発生…至急、一般市民は最寄りのシェルターに避難して下さい…緊急事態…』


住んでいる地域では聞いたことの無い広域警戒放送が聞こえてくる。


「市民?…てことは、ここは中野区でも新宿区でもないのか…」


区なら区民というと思うのだが、録音されたものなら使い回している可能性もあるが、花子にはそこまで頭が回ってなかった。


「はぁ…避難つってもな…」


ここは特別病棟なのか人が少ない。重要な人物が入院してるんじゃなく、特殊な病気にかかっている病人が収容されていると思った方が良さそうだ。


「そうすると…避難の優先度が低そうだよな…」


よっこらしょとベッドから降り立つ。ベッドから動くなよ?振りじゃねーぞ?…と口を酸っぱくして毎日いわれてたので取り敢えず従ってはいたが、別に筋力トレーニングはするなとはいわれてないのでこっそりとしていた。聖剣の力を借りて、だがな。


「ふむ…行けそうだな」


装備品は傍らに置かれた聖剣と…病院服のみ。尤も、聖剣の保護の力で裸でも傷をつけられる存在はこの世界には居ない。それだけの権能がこの剣に秘められている。


「さてと…あっちか」


拡大された俺のスキル「体感触遮断」の悪意・敵意関知能力がその方向を指し示す。


「…くそ高そうなガラス窓だが…」


緊急事態だし勘弁な…という台詞は口にせず、ゼロ距離の全力ダッシュで破砕して跳び出す。勿論怪我は負わない。聖剣の保護能力は伊達ではないのだ。


(…見つけた)


高空から…聖剣の飛翔能力におんぶに抱っこだが…見回すと、そいつは居た。既に顕現しており、恐らくはテレビ局のヘリだろう…野次馬根性バリバリで周囲を飛び回っている。エネミーは普段は見えない為に可視化した今ならカメラに収められるというのが理由だろう。他局に先だって放送しようという魂胆がバレバレだ。


(攻撃したくても、邪魔だな、あれ…)


聖剣は投射型の武器ではないが、近付くにはジグザグに機動する必要がある。ましてや、もしエネミーが遠距離攻撃の手段を持っていれば、戦闘に巻き込むこととなる。


「…」


(…巻き込まれるの前提で戦場に居るってことでいいか。じゃなきゃ、敵対してるエネミーの前には出ないよな?うん、そうだ。きっとそうに違いない!)


考えることを放棄した堕天使は…戦場に参戦する。後始末のことはスルーして…


………

……



『…ということで緊急事態は解除されましたが、戦場さながらの現地は復旧の目処が立っておらず、政府の…』


テレビから流れる報道をBGMに、俺は説教をステレオで食らっている最中だ。ま、原因はいわずもなが。


「「聞いてるのか!?」」


説教の主は帰ったと思ってた部隊長とカナデさんだ。心配半分、説教半分てところだが、それをいっちゃうと全部説教になりそうなので黙っておく。


「ごめんなさい…」


取り敢えずはしおらしく謝っておこう。この身は外面だけなら女子高生みたいなモノなのだから!…多分、ゆるされる、よな?


━━━━━━━━━━━━━━━

同性で同年齢なら赦されなさそうだけどな…多分w

ってことで、昨晩書き始めてようやく書き終わりました(自分なりの改稿含めて)…2日(実質半日くらい)で3万文字オーバーはきつかった…。なろうは1話辺り10万文字まで許容してるけど、読む方はどうだろうか…改稿してる時、修正しつつ読み進んでても30分くらいは掛かったかな?…多分。まぁ文庫本1冊の1/3くらいだから薄い文庫本くらいはあるかな?…じゃ、読んでくれた方々お疲れさまでした!


※一応なろうから削除済みでカクヨムオンリーになります。後、ASOの前半部分と同じく修正を入れてあります(若干追加してるので文字数は増えてるけど大筋は変更無いですw…変な表現とか変えたくらいですかね?)

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