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「初めまして。綾瀬素直くん。私は吉田仄と言います」

 と仄はにっこりと笑った笑顔のままで素直に言った。

 仄の声はとても不思議な声だった。

 均質で、どこか感情が感じられなくて、まるで(あらかじめ録音され、プログラムされた)機械音声の声を聞いているかのようだった。

 素直はその吉田仄という名前の初めてみるとても美しい女の子の名前に聞き覚えがあった。

 それは素直が通っている小学校の教室で、いつも名前を呼ばれるだけで返事をしない、ずっと空席のままになっている机のところに本当ならいるはずの女の子の名前だった。

 ずっと昔から、(おそらくは入学式のときから)小学校に通っていない女の子。みんなからは『透明人間』だとか、『幽霊』だとか呼ばれている、その最初の一時期にだけみんなの注目をとても集めていた、今はもう、誰もその女の子のことなんて、気にしていないで、誰からも忘れられてしまっている女の子。(素直もこのときまで仄のことをずっと忘れていた) 

 その女の子の名前が吉田仄だった。

「初めまして。吉田仄ちゃん。僕は綾瀬素直って言います」

 とにっこりと笑って(そんな忘れられていた女の子の仄に)素直は言った。

 すると仄は「はい。もう知っています」となんだかちょっとだけ本当に嬉しそうな顔をして、笑って、素直に言った。

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