長閑はごくっと一度、唾を飲み込んでから、できるだけ、門の外側から自分の姿が見えないように気をつけて、体と手を限界まで伸ばすようにして、門の柱の部分に隠れるようにしながら、小さな家の玄関の扉の取ってに手をかけた。

 ……神様。お願いします。

 どうか、この扉が開いていますように。

 そう神様に(いつもの習慣のように)お祈りをしながら、長閑はそっとその取っ手を下に動かしてから、ゆっくりと玄関の扉を動かしてみる。

 すると、がちゃ、という小さな音がして、その玄関の扉はちゃんと長閑のいる方向に動いてくれた。

 やった!!

 開いてた。鍵はかかっていなかった!!

 ありがとうございます。神様!!

 声を出さないようにして(思わず声が出そうになってしまったけど)そう思いながら、笑顔の長閑は一人で玄関の横ではしゃいでいる。

 それからすぐに、は、危ない、危ない。はしゃいでいる場合じゃなかった。と思い直した長閑はそれからすぐに玄関の開いている隙間に素早く(まるで猫のように)忍び込むようにして、その小さな家の中に侵入した。

 長閑の後ろでがちゃともう一度音がして玄関の扉がしまった。(そこでようやくふー、と長閑は一息ついた)

 扉が閉まると、世界は静寂に包まれた。

 無音の世界の中で、長閑は少しだけ緊張が解けた自分の心がまたすぐに強く緊張していくのを感じた)

 玄関の電気はついていない。(と、いうか家の中で電気がついている場所はないように見えた)

 玄関の扉に背中を預けるようにして、その場所に座り込んでいる長閑はそこから小さな家の中を観察してみる。

 そこから見える風景は廊下と階段と奥にある扉だけだった。

 玄関には靴があった。

 大人用の革靴とサンダルと子供用の小さな白い靴があった。

 人の気配はどこからも、感じない。

 でも、車も止まったままになっていたし、靴もある。だからたぶん、この家の住人は、今も、この小さな家の中のどこかにいるのだと長閑は思った。

 ……お邪魔します。

 と小さく声を出さないように(口だけを動かして)そういってから、長閑は自分の靴を脱いで、その靴を一応、玄関にあった靴入れの中に隠してから、小さな家の中に足を踏み入れた。

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