兎姫のピンチ 剣司の新技炸裂

「なっ」


 背後から接近する存在に兎姫が気がついた時には、既に至近距離だった。


「うぷっ」


 檜扇を開き、光球を生み出し吹き飛ばそうとしたが、あまりにも近すぎて対応出来ず、兎姫は身体を包み込まれた。


「人食い澱! まだ残っていたのか」


 今朝、剣司が見つけた人食い澱の残りだった。

 完全に消滅させなければ、増殖して再び襲いかかってくる厄介な妖魔だ。

 少しでも精気を補充しようと、精気が豊富な兎姫を狙ったようだ。

 普段なら包み込まれる前に撃退しているが、井上の事もあって完全に油断していた。


「がはっ」


 兎姫は、なおも光球を作り吹き飛ばそうとする。

 だが、兎姫を包み込んだ人食い澱は身体を締め付ける。

 口からは入り口の中は勿論、喉奥まで入り込み嬲りつつ気道を塞ぐ。

 衣装の上から、あるいは隙間から入り込み身体の各所を締め上げ、絞り込んでいく。

 耳の中にも入り、鼓膜をなで上げ脳みそをいじくるような不快な感覚を兎姫に与え、身体の緊張を高め、感度を上げて行く。

 不快な感覚は苦痛を倍加させ、行動不能にし、恐怖から漏れ出す精気を人食い澱は吸っていく。


「たふけへ、げはっ」


 完全に力を封じられ、ピンチになった兎姫は珍しく剣司に助けを求めた。

 口を塞がれ、声に出せなかったが、助けて欲しいことは兎姫の表情を見るだけで剣司には分かった。


「下がっていろ!」


 剣司は裾を掴む井上に言って放させると、兎姫を包み込んだ人食い澱に向かって突進する。


「はああっっっ」


 人食い澱に向かう間に刀を一度鞘に収め、精気を刀に入れる。

 飛び出すように人食い澱に詰め寄ると剣司は刀を抜いた。


「蛇崩精流!」


 精気で満した刀身を神速で引き抜き、剣司は人食い澱に叩き付ける。

 解放された精気は濁流の如く人食い澱にぶつかり、兎姫から剥がして行く。


「がああああっっっ」


 まともに食らった人食い澱は全て剣司の精気で押し流される。


「がはっ、げほっ」


 人食い澱から解放された兎姫は、ぐったりとして地面に身体を横たえ、手をついて口の中から残りを吐き出そうと咳き込んだ。


「大丈夫か」


「なんとかのう。助かった。礼を言うぞ」


 珍しく素直に兎姫は言った。

 よほどのピンチだったため、眉は弱々しく寄り、弱気な表情を浮かべている。


「お、おうっ」


 剣司は顔を逸らした。兎姫の表情だけではなく身体の状態が拙かった。

 人食い澱に包まれていたため、全身が粘性の高い液体でベトベトにされている。

 胸の谷間や衣装の隙間から流れ落ちる滴が宝石のように輝き、時の体をより淫靡に輝かせる。

 元から妖しいテカリを放つエナメルの衣装が、粘液で光を歪ませ淫らに彩り、タイツはより一層輝き、包み込む肌の色を引き立たせる。


「うっ」


 兎姫も自分の姿に気がつき、肩から羽織っているマントで身体を包むが、粘液でピッチリと張り付いてしまい、身体のラインをより淫らに映し出した。


「くうっっ」


 さすがに、剣司も見てはいられず、制服の上着を差し出し兎姫に着せて身体のラインを隠した。


「す、済まぬ」


 普段から身体のラインどころか半裸状態のバニーガール姿でいるが、自分で衣装を身につけるのと、ベトベトにされてラインを露わにされるのでは、気分が違う。

 身体を隠せて兎姫は安堵した。


「す、すさまじい威力じゃな妾を傷つけず取り出すとは」


 それでも気恥ずかしい兎姫は、はぐらかすべく剣司に話しかけた。


「日々の鍛錬の成果だ。もう、悔やみたくないから作り出した技だ」


 兎姫との最初の遭遇で兎姫が舞に纏わり付いたとき、剣司は舞を傷つけることをお恐れ助けられず、舞の身体に兎姫を封印する事になってしまった。

 そのことを悔いて剣司は、また同じ事が起きたとき、舞を傷つけず払いのける方法を模索して生み出したのが、この技、蛇崩精流だった。

 暫し、二人の間に微妙な空気が流れるが、蛇崩精流では人食い澱を押し流すだけで完全に消滅させる事は出来ず、再び兎姫に襲いかかろうとした。


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