他の男の精気を求めようとする兎姫

「どうして出てきたんだ」


 兎姫に尋ねられ、剣司は尋ね返した。


「舞に封印されているはずだろう」


「舞? ああ、この身体の娘か。先ほどの戦いで精気を使いすぎての。妾の封印を施す力が弱まったのじゃ。それでこうして妾に再び身体を乗っ取られているのよ」


「舞を返せ!」


「嫌じゃ。封印されるなど妾はまっぴらじゃ」


 兎姫はスレンダーな身体を反転させ、肩で風をきり、その場を去ろうとする。


「何処へ行く」


「精気を集めに行くのじゃ。この身体では封印が残っていて全力を出せぬ。そなたの精気は美味じゃが、弧の身体の女に注ぎ込まれ、封印されてしまう。ならば適当な男を見繕い精気を吸い取り、集め、食い破ってくれる」


「なっ」


 兎姫の考えに剣司は驚愕した。

 確かに剣司が精気を送っても舞に注がれ兎姫は封印されてしまう。なら、他の生物から精気を吸い取り、舞の身体を食い破ろうとするのは当然だ。

 だが、舞の身体がバラバラになるのは許せない。

 それ以上に、舞の身体に他の男が触れる、それもキスまでされるのが剣司には嫌だった。


「そんな事させるか!」


 剣司は、行かすまい、と強く決意し兎姫の前に立ち塞がる。


「大人しく封印されろ!」


「ほほほ、面白いことを言うの。お主の力で妾に敵うのか? そもそもこの娘をお主は傷つけられるのか?」


 再び檜扇を広げて口元を隠し笑いながら剣司に話しかけ煽る。


「くっ」


 兎姫の言うとおり、剣司と兎姫では精気の量が違いすぎる。

 何より兎姫の身体は、剣司の大切な舞のものだ。傷つける事など出来ない。


「それでも俺は舞を助ける」


 剣司は剣を握り直し、切っ先を兎姫に向けた。


「はああっ」


 刀を大きく振りかぶり脚を縮めるとスタートダッシュを決めて兎姫に斬りかかる。


「ふん!」


 兎姫は檜扇を畳み振り下ろされる刀身を叩き、軌道を逸らして避ける。


「覚悟を決めてもどうにもならぬ!」


 再び振るわれる剣司の刀を、兎姫は身をかがめ飛び退いて避けた。

 避けられた剣司だが、踏み込んで兎姫に迫る。


「こしゃくな!」


 兎姫は檜扇を開き光線を浴びせるが、剣司は紙一重で躱して突っ込んでくる。


「くっ」


 兎姫は再び檜扇を閉じ、小刀のように振り回して剣司の攻撃を捌く。

 しなやかな身体を躍動させ、ひねり、屈み、兎姫に身体を回転させたり、飛び退いて避ける。

 剣司も、フェイントをかけて誘導し、思わぬ方向から攻撃を仕掛ける。

 それも避けられた瞬間、刀を切り返したり、身体ごと突っ込んで攻撃に隙を作らない。

 二人の戦いは激しかったが、離れてみるとそれはまるで舞踏のように優雅だった。

 スラリとした兎姫が表黒裏赤のマントをたなびかせ流麗に踊り、剣司は袖と袴をひらめかせ、力強く踏み込む。


「ええい! 鬱陶しい!」


 だが、攻撃があたらず徐々に焦ってきた兎姫は、一気に距離を取ると檜扇を剣司に突きつけ巨大な光球を生み出し放った。


「はあああっっ! はっ!」


 だが、剣司は裂帛の気合いを入れると迫ってくる光球に刀を振り下ろして両断した。


「なっ」


 自分の放った光球を剣司が真っ二つに切ったことに兎姫は驚く。

 その隙に、剣司は分かれた光球の間から兎姫に向かって突進し、刀を捨て兎姫を抑え込む。


「しまった」


 再び黒いグローブで包まれた両手を掴まれ、地面に押し倒されハイレグスーツで締め付けられる身体を両足で剣司に挟み込まれた。


「は、放せ!」


 兎姫は剣司の手から逃れようと身体を大きく揺らし暴れる。

 だが剣司の方が力が強く、逃すまいと強く押さえつけたため、抜け出せない。

 あとは、キスをして精気を注ぎ込み兎姫を封じれば、全ては終わる。


「や、止めるのじゃ!」


 激しく顔を振り拒絶する兎姫を見て、剣司は動きを止めた。


「そうやって無理矢理力尽くで押さえつけるのか!」


 眉を吊り上げ兎姫は剣司を睨み付ける

 兎姫の迫力に剣司はたじろぎ少し、後ろに身体を退けた。

 剣司の力が緩んだ瞬間、兎姫は右腕を動かし剣司の拘束から解放すると、檜扇を剣司に突きつけた。


「しまった」


 気がついた時には、剣司の目の前に光球が現れ、放たれた。


「がはっ」


 吹き飛ばされた剣司は宙に弧を描いて地面に落ち動かなくなった。


「ふん! 油断するとは、まだまだよのう小僧」


 立ち上がった兎姫は地面に倒れる剣司を見下ろして吐き捨てた。


「……ま、舞……」


 一瞬連れて行こうかと思ったが、身体の女の名前を呟いたので捨て置くことにした。


「ふん!」


 荒々しくヒールを鳴らしながら、兎姫は剣司の元を去って行った。

 剣司が触られた身体の部分が疼いていたが、兎姫は無視して男の精気を求めて街に向かった。

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