封印解除! 兎姫が現れ、ぬりかべ撃破 だが兎姫が残った

「全く、妾の身体をこのように締め付けるとは、とんだたわけじゃ」


 光に吹き飛ばされた、ぬりかべから現れたのはまごうことなきバニーガールだった。

 現れたバニーガールは、頭から飛び出たウサ耳を揺らしながら忌々しいとばかりに締め付けられていた自分の身体を眺め、手入れをする。

 黒光りするロンググローブに包まれた細い指で、ぬりかべに埋め込まれて圧迫された身体、スラリとしたショルダーオフの黒のハイレグスーツに包まれた身体を摩り揉みほぐす。

 ファーの影から大きく開き素肌を曝す胸は指を埋めて特に念入りに行い剣司に見せつける。


「そなたもそなたじゃ、妾を守らねばならぬのに、ぬりかべごときに捕らえられるのを許すとは、全くなっとらんのう」


 身体を解しつつ、バニーガールは剣司を見た。

 衣装だけでなく、表情も変わっていた。

 舞が決して見せない妖艶な笑みを浮かべている。

 大きな瞳は細く吊り上がって切れ目となり、人を見下すような輝きを放つ。

 口元も上がり、小さな唇は嘲笑うような形となる。


「兎姫……」


 舞の中に封印されている妖魔、兎姫が弱った舞の隙を突いて身体を乗っ取ったのだ。

 衣装が替わったのは兎姫が、顕現して精気で衣装を変えたからだ。


「妾を封じておるのに、ぬりかべに捕らえられるとは」


 兎姫は性格そのままにヒールを高らかに鳴らして膝まで伸びる黒のロングブーツに包まれた両足を広げ傲然と立つ。

 そして顔だけを剣司に振り向け見下すような表情で見つめた。


「情けない」


 短い言葉だったが、剣司には答えた。


「仕方ないだろう。突然の事だったんだから」


「戦いの中で言い訳とは見苦しいぞ」


「ぐっ」


 正論を言われて剣司は、黙ってしまった。

 舞を攻撃されたことで慌てた上に、頭に血が上って冷静さを欠いた。

 そのまま舞を残して、ぬりかべを追いかけて、見落とし分断され舞が捕まってしまった。

 そして、ピンチになり封印が弱まって兎姫が復活し、乗っ取られてしまった。


「ぐおおおっっっ」


「まだ生きているのか」


 剣司が悔いていると、ぬりかべが声を上げながら立ち上がった。


「ふむ、粉みじんにしたつもりじゃったが、なかなかしぶといようじゃ」


 いたずらが失敗したのをみる子供のような口調と表情で兎姫は呟く。


「おい、そこの小童」


「剣司だ」


「妾から見れば小童じゃ。こやつを倒してみよ」


「何でだよ」


「其方が、退魔を生業とする郷間のものじゃからのう」


「言われるまでもないが、お前に言われたくない」


 剣司は険のある声で言った。

 確かに剣司は妖魔を討伐する郷間神社の一員だ。

 妖魔を退治することに異論はない。

 だが元は妖魔であり、舞を乗っ取っている兎姫の指示に従うのは、腹立たしい。


「ぐおおっっ」


「ぶつくさ言っておらんで、さっさと倒せ」


「ちっ」


 イライラしている間にも、ぬりかべは立ち上がり、再び舞を包み込もうと近づいていく。

 兎姫に乗っ取られているとはいえ、舞の身体を守る為に、剣司は舌打ちしながら、ぬりかべに斬りかかる。


「うおおっっっ」


 かけ声と共に、ぬりかべに近づいて剣を振り抜いた。


「ぐおおおっっ」


「くっ、斬るだけじゃ太刀打ち出来ないか」


 剣司の斬撃は鋭く、ぬりかべの巨体に切れ込みを入れるのが精一杯だった。


「ならば切り裂く!」


 剣司は刀を振り上げ、駆け寄りながら振り下ろした。


「うおおおっっっっ」


「があああっっっっ」


 剣司が勢いよく振り下ろした刀は、ぬりかべを上から下へ貫き、左右に両断した。


「ぐふっ」


 だが、次の瞬間切断面が膨れ上がり、隙間を埋め、切り裂かれた部分が消えてしまった。


「ほほほほっ、力不足じゃのう」


 ぬりかべに攻撃が効かず剣司が呆然とするのを、兎姫は檜扇で口元を隠しつつ高笑いする。


「攻撃とはこうするのじゃ」


 兎姫は言うなり、妖しい黒光りで輝くバニースーツでくびれた腰に左手を当て、ロンググルーブに包まれた細い右腕を伸ばし、ぬりかべに檜扇を向る。

 黒光りする檜扇の先から光線が飛び出し、ぬりかべの身体に当たった。

 光線が当たった周囲をも巻き込んで、ぬりかべの身体に穴を穿つ。


「ぐあああっっ」


 ぬりかべは、自分の身体に穴を開けられた痛みで悲痛な悲鳴を上げる。


「ほうれ、まだまだあるぞ」


 だが兎姫は、ぬりかべの悲鳴の聞き心地が良いとばかりに容赦なく光線を浴びせ、ぬりかべの身体を穴だらけにする。


「がああっっ」


「ほう、来るか」


 攻撃された、ぬりかべは一か八か、兎姫を吹き飛ばそうと突進する。


「兎姫!」


 剣司は叫んだ。

 ぬりかべが突っ込もうとしているのは兎姫に操られている舞だからだ。


「ほほほっ、妾を恐れず攻撃してくるとは天晴れなヤツよ」


 だが、ぬりかべが突っ込んでくる様子を兎姫は目を細め、口元に笑みを浮かべて嘲笑う。


「じゃが、ぬりかべ程度が妾の身体に触れようとはおこがましい」


 兎姫は両腕を伸ばし檜扇を水平に構え、下に左手を添えると、間に精気で作られた光球を生み出した。

 精気を込めつつ両腕を広げると光球も大きくなり兎姫の背丈と同じくらいに大きくなる。


「ぐおうっ」


 突如現れた光球に、ぬりかべは驚き足を止めるが遅かった。


「消え去るが良い!」


 兎姫はスラリとした左足を上げると前に踏み出し、くびれた腰を捻り、魅惑的な曲線を生み出す身体を回し、細い腕をしならせて振り、右手の檜扇の周りに出来た巨大な光球を、ぬりかべに向かって振り投げた。

 光球は飛んで行く間にも広がり、ぬりかべの身体よりも大きくなる。


「ぐおおおおっっっっ」


 ぬりかべの巨体は光球に包まれ、次の瞬間爆発した。

 爆風が収まり、煙が晴れると、ぬりかべがいた場所はクレーターが残るのみで何もなかった。


「ほほほっ、塵も残らぬとは、やはり雑魚じゃのう」


 その様子を見て兎姫は高笑いを上げ、ついで剣司に視線を向ける。


「さて小童よ。次はお前じゃ」

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