第24話 あいちゃんとたっくん

方南高校の横にある天川市立方南東保育園。あいちゃんの通っている保育園では運動会に向けて練習をしているみたい。


お昼休みの時間、隣の保育園から先生の鳴らす笛の音が聞こえた。うちは瀬奈とたっくんを誘って、あいちゃんの様子を見に行こうって思ったの。


あお「あいちゃん、楽しんでるかな?」

たく「どやろ。行ってみるべ」

せな「私、ポンポン持っていく」

たく「あいちゃんの応援か?」

せな「うん」


保育園に着くと、ちょうど練習が終わったのかあいちゃんが座り込んでいた。もしかして、泣いてる・・・?


あい「うわあああああん」

先生「どうしたの?」

あお「泣いてるね」

せな「急いでいこっ」

たく「俺先行ってる」

あい「うわあああああああああん!!!!」

先生「どうしたのかしら・・・」

たく「あーいちゃん」

あい「きゅぴ・・・!?」

先生「あらこんにちは」

たく「どうも。いきなりお邪魔して申し訳ございません。様子が気になったもので」

あお「大丈夫?」

せな「どうしたの?」

たく「そんなに泣いて、あにがあった?」

あい「きゅぴ・・・」

あお「あっ・・・」

せな「これって・・・」

たく「・・・やっぱりか」


うちら3人はあいちゃんの泣いている理由を理解した。それと同時に、たっくんは先生にこう言った。


たく「・・・先生、俺の方であいちゃんを預かります。荷物はあとで取りに伺います」

先生「ごめんね、ありがとう」

たく「いこか。な?」

あい「うん・・・」


そうしてたっくんは何も言わずにあいちゃんを抱っこして学校に戻った。うちらも結んでいたポニテの髪をほどいて、あいちゃんを囲んだ。


あお「ぎゅーしてあげる」

あい「きゅ・・・」

たく「あらさ、負けたんだべ」

せな「うん。あいちゃんの泣き方が負けた時の泣き方だった」


たっくんの予想は大的中。実はあいちゃんたちのクラスはリレーをするんだって。あとで聞いた話だけど、たっくんが来たタイミングでちょうど泣き始めてしまったみたい。


学校の授業を終えて家に帰ると、たっくんがあいちゃんを抱っこしたままこんなことを言い始めた。


あお「ついたー」

せな「みんなおつかー」

あお「あれ?たっくんは?」

たく「施錠よし。電灯、よし。反応、よし。モニター接続、よし」

あお「何言ってるの?」

あい「・・・」

たく「寝ちったか。泣き疲れたんだな。涙が残ってる」

あお「あいちゃん・・・」

せな「・・・愛央、チアの練習しよ」

あお「・・・うん」


瀬奈はうちと2人であいちゃんの応援をしたいって思いあいちゃんが笑顔で終われるよう練習をすることにした。早速チアの服に着替えてから6階のレッスン室で横に並び、ポンポンを持った瞬間、たっくんが「泣き疲れて寝てしまったあいちゃん」を抱っこして入ってきた。多分うちらが上に行ったのを察知して来たみたい。


たく「いた」

あお「どうしたのー?」

たく「寝ちゃってるけど、あいちゃんにも聞かせてやらなおいねぇ。お姉ちゃんのお前ら2人があいちゃんに内緒でやるわけにもいくわけねぇし」

あお「たっくんらしっ」


偶然にもあいちゃんの運動会はうちらの定期テストが終わったあと。妹のためにたっくんは本気になっていた。そのあとたっくんは1人で保育園に向かったの。あいちゃんの荷物を持って帰ってくるのを忘れてしまったみたい。


1週間たって運動会当日の朝4時。たっくんのアラームが爆音で鳴った。うちと瀬奈はそのアラームで起き上がり、急いで準備を始めた。


あお「そういえばたっくんは?」

たく「あ?」

せな「おはよ」

あお「おはよー」

たく「あいちゃん寝てるか」

あお「起きないよ」

たく「だろうな。いやにしてもさみぃ・・・」

あお「流石にたっくんも目が覚める?」

たく「覚める。ひー、水ひゃっけぇや」

せな「たくみん、ポニテのリボンつけて」

たく「おけ、ちとまってな」


とは言いつつたっくんはあいちゃんのために洗濯物を取り込んで、運動会のための服を用意してた。うちらも髪を整えて冬用のチアユニ、つまりニットを着てスカートに着替えて・・・ってしていると、あいちゃんが起きたのか泣き出してしまった。


あい「うっ・・・うわあああん」

たく「あっ。起きた。どした?」

あい「きゅぴ・・・ぐすっ」

たく「よしよし。にーにとねーねがいっしょだからな」

あい「きゅ・・・」

あお「フレっフレっ。あいちゃん」

あい「えっ・・・?」

せな「お姉ちゃんたち、あいちゃんの応援団だからね!」

たく「な?」

あい「・・・うん」

あお「愛央も、たっくんも、瀬奈もみーんなあいちゃんの味方だよ」

せな「がんばろっ!」

あい「・・・あい!!」


あいちゃんは安心しきったのか、朝ごはんを食べたいって言い出した。あいちゃんから食べたいっていうのは初めてだったからうちと瀬奈は驚いたけど、でもたっくんはそれを見越して作ってたみたい。


朝ごはんを食べ終えて、うちと瀬奈は両手にあいちゃんの好きな色=スカイブルーのポンポンを持ってぎゅーってしてあげた。あいちゃんの涙は消えたけど、多分まだ不安だよね。



あい「きゅぴ・・・」

たく「俺に似てるな」

あお「ね。たっくんに似てる」

あい「あむ?」

あお「あいちゃんとたったーが似てるって話」

あい「あむぅ・・・」

せな「たくみんとあいちゃん、兄妹だからかな・・・?」

たく「それはあるかもしれん」


保育園についてまずはあいちゃんをクラスに送っていく。これをしないとあいちゃんが運動会に参加できないけど、あいちゃんが既に嫌がってしまうことを予想したたっくんはあえて線路沿いに行ってしまった。


あい「きゅぴ・・・」

たく「やっぱりぐずり始めた」

あい「ぐすっ・・・」

あお「たくみっ・・・フレフレ」

せな「あいちゃん・・・ふぁいと」


うちと瀬奈はずっと黙り込んでたっくんとあいちゃんを見つめることしかできなかった。でも、たっくんはあいちゃんのことをぎゅっと抱きしめて、保育園の中へ入っていった。


あお「たっくん」

たく「あ」

あお「あいちゃん・・・どうだった?」

たく「俺は見守る。あの子がどうなろうと」

あお「うちら、チア踊って応援したほうがいいかな・・・」

たく「応援すんのはいいだろうけど野球部の応援みたいなことは出来ねぇべ・・・」

あお「うん・・・」

せな「あいちゃんがもし泣いたらどうする?」

たく「帰ってから考える」

あお「うん・・・」


うちらが不安の中あいちゃん達が出てきた。よく見ると、あいちゃんの服には私と瀬奈、たっくんの3人で作った必勝の文字が入っているお守りがついてた。あいちゃんは笑ってるみたい。


あい「これね、ねーねーがつくってくれたの!」

先生「あいちゃんのお姉ちゃん?」

あい「うん!」

先生「よかったね!見に来てくれてるの?」

あい「うん!せんせーもいこー!」


あいちゃんはそういうと、先生を連れてうちらのところに来てくれた。


あい「たったー!!」

たく「おっ、きたきた」

せな「あいちゃん元気になってよかった!」

あい「きゅぴー!」

先生「おはようございます」

あお「おはようございます!」

たく「どうもどうも。うちの妹がお世話になっております」

あい「きゅぴぃ」

たく「白組かぁ」

あお「ちゃんと白のチアユニ着たから、お姉ちゃんたちいっぱい応援するね!」

あい「きゅぴ!」

せな「フレ!フレ!あいちゃん!」

あお「ふぁいふぁいふぁいとっ!!」

あい「うん!」


あいちゃんはうちらの応援チアで元気になってくれた。でも、1人のチアリーダーとしてポンポンを両手に持って応援したのはいいんだけど、お姉ちゃんとして本当にあいちゃんが大丈夫なのか心配だった。


あい「あーあ?」

あお「えっ?なに?」

あい「あーあのかお、くらい」

たく「んだぁ?・・・確かに言われてみれば」

あお「えっそんなに暗かった?」

たく「びっくりするくらい」

せな「お姉ちゃんとして不安だったの?」

あお「うん」

たく「そらそうだべ」

先生「ごめんね、そろそろあいちゃんをお預かりして大丈夫?」

たく「あぁごめんなさい。どうぞどうぞ」

あい「たーた!たっち!」

せな「フレフレ!」

あお「ふぁいと!あいちゃん!」

たく「頑張れよ!」

あい「うん!!」


リボンだけでハーフアップを作ったうちの髪は晩秋に吹く風で揺れていた。気づいた頃には運動会が始まる前にたっくんが私の髪を少しだけいじりはじめていた。


あお「ひゃあ。なによー、たっくーん」

たく「あいちゃんがわかるようにあえてハーフアップを上で作り直してやろうと」

せな「私もあおっちもチアの服を着てポンポンを持ってきている時点で相当目立ってるよ?」

たく「愛央がチアやる時に本気のハーフアップ作らないでどうすんだべ」

あお「やっぱり」


そうしてたっくんはうちの髪を5分で高めのハーフアップに変え、リボンをつけてあいちゃんの様子を見守ってた。







あいちゃんは何事もなく運動会の競技に参加していた。うちと瀬奈は野球部の応援みたいに大きい声を出さず、あいちゃんのことをずっと見守ることにしてた。でも・・・最後のリレーだけは違った。たっくんも顔がいかつくなったの。


先生「いちについて、よーい」


「ピーーーーッ!!!」


先生の笛が園庭に響き、リレーが始まった。あいちゃんは1番最後のアンカーで、しかも2周。うちと瀬奈は本気でポンポンを振って応援していた。あいちゃんがバトンをもらったのは赤組とほぼ同時。うちと瀬奈はいつも以上にあいちゃんのことを応援した。


あお「あいちゃん!!がんばって!!」

せな「あいちゃんならいけるよ!!」

たく「どやろこれ・・・」

あお「え!たっくんすごい冷静・・・!?」

たく「・・・あいちゃんあと少し!!」

あお「がんばって!!」


うちらはもう祈ることしか出来なかった。あいちゃんが勝てるようにって・・・。


「ピッ!!ピーーーーーッ!!」


先生の硬い金属の笛が鳴り響き、リレーが終わった。あいちゃんは半泣き状態になってるのがうちの目に入ってきた。


あお「あいちゃん・・・」


うちはポンポンを持ったまま、そう呟いた。あいちゃんが最後の最後で追い上げて、同時にゴールしたからどっちが勝ったのかわからない。少しの間静寂が続き、先生がマイクを持った。


先生「ただいまの勝負・・・」

たく「頼む・・・」

あお「お願いっ・・・!」

せな「神様・・・!」

先生「・・・赤組の勝ち!」


赤組の勝ちが宣告されたのとあいちゃんが崩れ落ちたのはほぼ同時。あいちゃんは泣き出してしまった。


たく「あと少しだったんだがなぁ・・・」

あお「ほんと・・・惜しかったね」

せな「でも、あいちゃんすごい頑張ってた」

たく「・・・俺ちょっと行ってくる」


閉会式が終わりあいちゃんの涙がまだ残ってると判断したたっくんは、何も言わずにあいちゃんの迎えに行ったの。うしろからついていくと、あいちゃんがずっと泣いていたみたい。


あお「あいちゃん・・・」

せな「大丈夫かな・・・」

あい「た・・・た・・・」

たく「頑張ったなぁ。ねーねたちの声聞こえたんでしょ?」

あい「あむ・・・ぐすっ・・・」

せな「せーのっ・・・」


To be continued...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る