32 激戦の果てに

俺と睨み合っていたバッカスはすぐに動いた。


「……まずは小手調べだ」


そう呟いたバッカスは右手を俺に向けてかざし――


『ジェノサイド・レーザー!』


――上位の邪魔法を行使し、漆黒の光線を俺に向けて放ってくる。


「そんな攻撃、当たるかよ!」


バッカスの攻撃魔法を俺は瞬時に避ける。

……が、避けた光線の射線上にネルド村がある事に気付く。


「……あ、やべっ!」


防御結界を展開はしているが出来る限り直撃は避けたい俺は、すぐさまネルド村に右手を向け――


『リフレクト・シールド!』


――上位の聖魔法を行使し、放たれた攻撃の射線上に青白い盾を出現させる。

漆黒の光線は盾に激突すると、反射して遥か上空へと消えていった。


(……危なかった)


――ザッ

そう思うながら俺は、横に移動して背後にネルド村がこないようにする。


「ほう、私の魔法を跳ね返すとは……だが、これならどうだ!」


すぐさまバッカスは俺に右手を向け――


『ダークネスウェイブ』


――手のひらから漆黒の衝撃波を打ち込んでくる。


「食らうか!」


俺も負けじとバッカスに右手をかざし――


「アストラルウェイブ!」


――イスラに放ったやつと同じ聖魔法を行使し、青白い衝撃波をぶちかます。


バアアアアアアァン!!!


漆黒と青白い衝撃波は互いにぶつかり合い、すさまじい衝撃音を放ちながら周りに拡散しながら相殺する。


「なるほど……これもかき消すか」

「ふぅ……残念だったな。お前より俺の方が魔法を使っている経験値が違うんだよ」

「そんな経験値なんぞ何の意味もない、私の力の前にはな!」

「……なら。俺がどれだけ魔法を使いこなせるか、見せてやるよ」


俺はそう呟くとバッカスに右手を添え――


『メテオストライク!』


――最上位の召喚魔法を行使し、上空に巨大な岩石を出現させる。

それは瞬時にバッカス目掛けて落下していく。


「まだまだぁ!」


続けて俺は魔法を唱える――


『アース・ロック』


――上位の土魔法を行使して、バッカスの足を地面に固定する。


「ぬっ!」

「……ほらバッカス、避けてみろよ!」

「なるほど……連続魔法といったところか。……だが、避けずとも消滅させればいいのだ!」


バッカスは余裕ぶりながら呟き、落下する岩石に手を向け――


『ブラック・ホール!』


――最上位の闇魔法を行使し、上空に黒い空間の歪を出現させる。

その空間の歪は周囲の対象を無尽蔵に吸い尽くし、瞬時に俺が召喚した岩石を吸い込んで消滅させた。


「……ふ、他愛もない」

「お前……余裕ぶってるけどまだ動けないのは変わりないからな!」


俺はすかさず右手をバッカスに向け――


「バインド・オール!」


――最上位の拘束魔法を行使し、バッカスの手足を麻痺状態にさせる。

手足を完全に封じられたバッカスは、次第に焦りだす。


「う、動けぬ!!」

「……さぁ俺のとっておきだ。神の裁きを食らいやがれ!」


必死にもがこうとするバッカスに右手を添え――


『インディグネイション!!!』


――最上位の神聖魔法を行使し、天に輝く黄金の閃光をバッカスに向けて勢いよく落下させ――


――ドゴオオオォォォォォォォン!!!!

地響きが鳴り響き、物凄い衝撃波を周囲に放ち、周りにいた兵士達も吹き飛ばされる。




パラパラパラッ

舞い上がった砂煙が収まると、そこには膝を地面に付くバッカスがいた。


「はぁ……はぁ……おのれ、小癪な真似を……」

「マジかよ……あれを食らって倒れないでいるなんて、大した根性だな」

「……ふ……ふふ、私に力を授けた存在に助けられたようだ。……残念だったな、アーノルド!」

「……なるほどな」


おそらく、前にエイルが俺を助けたように、バッカスの中にいるやつもバッカスを守ったのだろう。

……だが、完全にバッカスを守っていないところをみると、魔王ってのも大したことないんだな。


(……エイル、気を抜くなよ!! こいつはここで仕留めないと何をするかわからない)

≪はい! わかってま~す!≫

(……ん?)


俺はエイルとやり取りを終えると、遠くの方に砂塵が舞い始めている事に気付く。


「……なんなのだ、あの砂塵は」


バッカスも近づいてくる砂塵に気付き、声を上げる。

その砂塵を巻き上げる集団は次第に近づいてきて、先頭集団が見えてきた。


「……ま、まさか」


馬に乗った騎馬隊の先頭にいたシャルロッテは、俺の無事を確認すると笑顔を浮かべ手を振ってくる。


「……あっ!! アーノルド!! よかった、ご無事で!!」

「しゃ、シャルロッテ!?」


よりにもよって、こんな状況の時に駆けつけてくるとは思わなかった。

俺が動揺していると、バッカスもシャルロッテの存在に気付く。


「……シャルロッテ、だと!? ……ふふ……ふふふ……丁度いいやつが来た」


バッカスはシャルロッテの登場に驚きつつも、すぐさま不敵な笑みを浮かべる。

ヤバい雰囲気を感じ取った俺はすぐさまシャルロッテに叫ぶ。


「シャルロッテ、逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」

「……え?」


俺が叫ぶと、シャルロッテは困惑した表情を浮かべる。


「……シャルロッテ、以前私に宮廷で醜態をさらさせた事を忘れたとは言わせないぞ。あの時の報いを……その身で味わうがいい!」

「何をする気だ、バッカス!」


バッカスは俺の問いかけを無視して、すぐさまシャルロッテ達が駆けてくる方向へ右手を向け――


「ヘルズ・ゲート!!」


――バッカスは大勢いたカンク軍を一瞬で消滅させた即死魔法をシャルロッテ達に向けて放ちやがった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る