無機物のこども

阿良々木与太/芦田香織

プロローグ

 目に入るのはまっくらやみ。あたたかくもさむくもなくて、ママの声としんぞうの音だけが聞こえていた。


 それがきもちよかった。ずっとここにいたかった。でもある日とつぜん、ママのしんぞうの音がどくんどくんとはやくなった。



ああ、人間が来る……。



そんなママの声が聞こえた。にんげんってなあに?と聞いたけど、ママは答えてくれない。ママがぎゅっと私をだきしめたような気がした。



ごめんね、ママはもうあなたとは一緒にいられない。



 そんなママの声にびっくりして、どうして、と叫んだ。でもママはごめんねとあやまるばっかりで、何もおしえてはくれない。



でも、ママはあなたのこと愛してるから、それだけは覚えていてね。



 はなれたくない、とすがっても、ママは何も言ってくれなかった。またママのしんぞうの音が大きくなって、外から知らない声が聞こえてくる。


 ごめんなさい、とすすりなく声が遠ざかった。


 あつい。からだがいたい。そんなママの気持ちが伝わってくる。どうしたのママ、と聞いてもママはもう何も答えてくれない。


 聞いたことのない音がして、光がさしこんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る