第18話 勇者選考会2

 七人まで減らした同行者たる勇者の選考会が始まりましたわ。


 審査員長はわたし。

 審査員は人を見る目があり、正義感が強いドローレス。

 モニカとアグネスの方が気性や気品といった内面を見抜く力に優れているのですけど、あの二人、人を見る目は残念ながら、持ち合わせてませんでしょう?

 それに異世界の視点での目利きを期待して、シンを抜擢しましたの。


 三者三様に着眼点も違うでしょうから、審査員票が二点入った方を合格というルールに決めましたわ。

 なお、わたしの前だけ、顔が判別出来ないようにレースのカーテンを設置してありますの。

 わたしを見て、反応を変えるような人間では信用出来ないということでこの処置らしいのですわ。

 何か、間違っている気がするのですけど。




 一人目の候補者はおじいちゃんこと凍てつく地のフロムンド。

 転移門から、出てきたお年寄りの姿はやはり、偽装……ではなく、この選考会でも足取りの覚束ないおじいちゃんですわね。

 でも、スカージとシンが手合わせした結果、問題なしと判断したのは事実。

 何らかの秘密があるとみて、間違いありませんわ。


「わしゃあのう。ばあさまに会いたくてのう。ばあさまはどこかのう?」


 フロムンドの第一声がこれですもの。

 ヘイムダルの『鷹の目』は節穴なのかしら?

 ドローレスに目配せをすると察しのいい彼女はすくっと立ち上がりざまに取り出した鞭をフロムンドに目掛け、振りましたの。

 彼女は鞭の扱いに長けてますから、もし当たってしまっても怪我をしない箇所を狙っていることでしょう。

 万が一、当たったとしてもわたしがいるので問題ありませんわ。


「いきなり危ないじゃないか」


 フロムンドの声が若返ってますわ。

 鞭を杖にわざと巻きつけさせて、避けるとはやりますわね。

 そういうことでしたの。


「長時間は持たないんだ。勘弁して……くれんかのう」


 杖が仕込み単に体を支える為に持っているのではなかったということですわ。

 そして、あの刀身に何らかの魔力が込められているのは間違いないでしょう。

 僅かな時間とはいえ、肉体を若返らせることが出来るのかしら?


 経験に裏打ちされた動きは見事ですけど、これはいけなくてよ、ヘイムダル。

 『不合格』ですわね。


「古代の勇者フロムンド。あなたのニブルヘイム滞在を認めますわ」


 特別でしてよ。

 奥様を愛するその一途な愛にわたし、感動しましたの。

 そのお礼ですわ。




 二人目の候補はホグニ。

 見た目だけなら、合格かしら?

 わたしの見た目年齢は人間で言えば、十代半ばに見えれば、上々といったところ。

 あまりにも年齢が離れているように見えるのも困りますでしょう?


 ドローレスとシンも静かに頷いているのでルックスという観点では問題ないですわね。

 ただ、どうしても気になるのはまるで王子様のように見える完璧さかしら?

 一見すると金髪碧眼の優男にしか、見えませんから騙される方が多いのではなくて。

 でも、魔剣ダーインスレイヴの持ち主でしてよ?

 あの剣は呪われてますもの。

 一度、抜くと血を吸わない限りは鞘に戻らないという伝説の……。


「ああ。美しき姫君よ。あなたこそ、我が命を捧げ」


 わたしは全てを聞く前に『不合格』と決めましたわ。

 物語の中で見る王子様の台詞はあんなにも輝いて見えるのに、実際に聞くと歯が浮きそうになるものですわ。

 即刻強制送還もやぶさかではなくてよ!




 次はスキルニルですわ。

 先程のホグニを少年から青年へと成長していく途上と例えるのなら、スキルニルは青年。

 肩口まで伸ばした金色の髪と深い緑の輝きを宿した瞳が鼻筋が通った顔立ちにとても合ってますわ。

 あまりに整いすぎていて、隣に立つ方は気後れするのではなくて。

 さすがは神々一の美男子と謳われた大伯父様フレイの従者といったところかしら?


 そんなスキルニルが送られてきた理由は何かしら?

 大伯父様とはそれほどに親しい関係にない以上、お祖母様の思惑も絡んでここにいるとみて、間違いないですわね。


「麗しき姫君。こちらの書状に目を通していただきたく、存じます」


 ドローレスに受け取ってもらい、目を通して頭が痛くなってきましたわ。

 そこにはたった一つの単語が記されていただけなんですもの。


『勝利の剣』


 そういうことでしたのね。

 大伯父様が結婚する際に新婦との間に果たした約束は未だに語り草になってましてよ。

 愛の為に『勝利の剣』を手放した愛に生きる男、と。

 それがいつの間にか、ニブルヘイムに渡っていたということですのね。

 分かりましたわ。

 『不合格』ですわ。


「特別に遺失物の発見までの滞在を許可しますわ」


 次ですわ、次!

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