閑話 勇者マグニ・石の巨人

 名も無き島は狭い小さな島ではあるが、僅かに広がる熱帯雨林の森は鬱蒼と茂っている。

 高い木々が光を遮り、昼なお暗き森を枝から枝へと飛び移りながら、器用に移動していくレオニードの身体能力は同年代と思しき子供と比べても異常と言わざるを得ないほどの高さだ。

 彼は一本の大木の前で動きを止める。

 大木を見上げながら、レオニードは大きな声で呼びかけた。


「ピーちゃん! いるかい?」


 ややあって、自らが光を放っているのかと錯覚を覚えるほどに光り輝く、金色の翼を羽ばたかせ、一羽の鳥が枝にとまった。

 山鳩よりも一回り、小さいので小鳥と言ってもいい大きさだ。


「ピッピィー」


 レオニードにピーちゃんと呼ばれた黄金鳥は一声鳴くと彼の肩にとまった。

 首を傾げながら、「ピッピッ」と鳴く様子は鳥が苦手な者が見たら、考えを変えそうなくらいに愛らしい。


「ピーちゃんのことを見たいって言う人がいるんだ。どうしようか?」

「ピィ?」


 レオニードが優し気な口調でピーにそう語りかけたその時、耳をつんざく爆発音が響き渡る。


「何だ!?」


 振り返り、自分の家がある丘に目をやったレオニードが見た物はもうもうと立ち込める土煙だった。


「何か、あったんだ!」




 セベクは右腕に手にした直剣を支えにすることでようやく、姿勢を保つ苦しい状態だ。

 脱臼をしたのか、骨が折れているのか。

 利き腕である左腕はだらりと垂れ下がったまま、動かない。

 セベクの周囲には全身が傷だらけで倒れ伏したまま、身動きの取れない魔物達の姿があった。


「意地を張らずに俺の言うことを聞いておけば、痛い目を見ずに済んだのによう。誇りだけでは生きていけるものかよ」


 乱暴な言葉遣いになっているが、その声は物静かで丁寧な学者ルングニルと同じものだ。

 ただ、その姿は大きく、異なっていた。

 ひょろひょろののっぽで貧相な体つきの学者はいない。

 その体は石で出来ている。

 硬質の岩石のような物質で覆われた体はゆうに三メートル近い。

 同じく石で作られた巨大な竪杵を手にしている。


「誇り失くして、我らに生きる道理なし!」

「ならば、死ぬがいい」


 石の巨人ルングニルは振り上げた竪杵をセベクに向けて、振り下ろす。

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