王妃 ジョア~日本人水島朔が王妃と呼ばれる日までの物語~

ぺんぎん

はじまりはおわりから

第1話 はじまりはおわりから

 絞め殺そうと思う。


 というか、今だったら絞め殺せる。


 水島朔は、群衆から離れて、広場の中央にいる、国王をにらみつけた。


 彼が国王だって、どうして誰も教えてくれなかったわけ!?


 どれだけ彼と一緒にいたと思っているのよ。


 広場に入りきらないくらいの聴衆は、水を打ったように静まり返っている。


 彼の言うことを一言も聞き逃すまいとするように。


 彼の声は広場の隅々まで響き渡り、そのハシバミ色の目は、誰も自分の魅力に抗えるわけはないと言わんばかりだ。


 誰も彼には逆らえないんだ。


 朔は、つい先日、パウルが言った言葉を苦々しい思いで反芻していた。


 ああ。そうですとも。


 そうでしょうとも。


 スピーチが終わると、一瞬の静寂の後、拍手と怒号のような歓声があがった。


 十分ほどの時間だったが、彼が英雄という称号を手にするには、十分すぎる時間だった。


 熱狂がさめやらない広場は、自分たちの国王に、握手やサインを求める人で大混乱に陥った。


 彼は、歓声の中、この難民キャンプで、最も薄汚れている女性の元に、まっすぐ歩き始めた。





 これは、水島朔という日本人女性が、王妃と呼ばれる日までの話。



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