スラム街のオークション

五十五もまたデザインベイビーだった。

しかし通常のダンジョンアイテムと女性の遺伝子を結合した技術とは違い、五十五のは安価な値段で、安い材料を使い、粗末な遺伝子を選択、使用して作られた使い捨ての駒でしかなかった。

彼らが製造されたのはある一人の男が原因だ。

ダンジョン攻略のために資産と時間を投入して作り上げた独自のデザインベイビーシステムを設立。


安価な値段でデザインベイビーを製造。

男はそれを使用して作り上げたデザインベイビーでダンジョンを攻略を目論んでいた。


その男は女尊男卑の支配を憂いていた。

女性が男性よりも優れていることに対して憤りを感じており、男性達もやればできることを見せつけるためにデザインベイビーシステムを利用して多くの人間を作り出したのだ。


ダンジョン攻略のために大量生産されてきたデザインベイビー。


量産数は三百を超えて、超弩級ダンジョン攻略を決行したが、その結果は惨敗であった。

300体のうち生還できたのはわずか25名。

超弩級ダンジョンを攻略するという一世一代の大仕事、それはただ悪戯に、生命の冒涜を行っただけに終わる。

そして男はデザインベイビー技術を申請を出さずに作成、使用に対する責任を取らされた。

だが、その男は最後に工房で待機していた約300名ほどの量産型のデザインベイビーを解放したのだ。

それにより、多くの量産型が日本各地へと飛び立ってしまった。

五十五は、自分が何者かは知らない。

生まれたばかりの彼は訳も分からず外の世界へと駆り出された。

生きていて、流れて、このスラム街へ到達した。

生活をしている人たちが、自身に対してデザインベイビーだとそういった。

だか、生まれて間もない彼にその言葉の意味など知るよしもなかった。

ただ自分は作られた存在であり、自分の役目など、なにもないガラクタのような無価値な存在である。

そんな彼はなぜ自分が生きてるのかわからぬまま生きていた。


「さあ、続いてのダンジョンアイテムはこれだぁ!」


大きな声が響き、周囲は賑わっている。

そこでは彼らスラム街の住人たちがオークションを開催していた。


「このアイテムは炎を放つことの出来る杖!特殊なルートから手に入れた一級品、今ならこいつで」


そう言ってオークションの司会役を務める男は指を2本立てた。


200万か、2000万か、いや。

男たちは一斉に声を荒げた。


「21万っ」「22万で!」「22と5000ッ!!」


喉がちぎれんばかりに男たちの声が響く。

男たちはとにかく必死だった。

今の現状をどうにかするには、自分自身に価値をつけなければならない。

だが能力を持たない彼らにとってはダンジョンアイテムなど夢のまた夢だ。

だからこそ必死になってダンジョンアイテムを競り落とそうとしていた。


「盛り上がってるねぇ」


道端で行われているオークションを男達が傍目から眺めていた。

白い包帯で覆った男が、笑っている。

その腕の中には、紫色の布で巻かれた筒を持っていた。

盲目である男はニヤニヤと笑みを浮かべながら、民衆を愚鈍と言う。


「こんなところにダンジョンアイテムなんて出回るわけがないのにねぇ」


「嘘でも良いからすがりたいんだろ」


その近くに立つ、五十五が冷めた目で眺めながら言う。


「藁にかい?」


「希望にだろ」


お互いが軽口を叩いている時だった。

オークション会場の方から騒ぎが聞こえてくる。

その騒ぎを聞き付ける二人。

面倒臭そうにため息をつく。


「どうやら仕事みたいだな」


そういうと、騒ぎの中心へと、二人は走り出した。

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