第16話 宮古姉妹の怒り
誰よりも、その光景を見て、殺意を漏らしたのは、宮古メメだった。
「貴方、今、今何をしましたの?」
語り掛ける口調、返す言葉を間違えたら一瞬で命を奪われそうだ。
それ以外にも、宮古姉妹の反応は夫々違っていた。
宮古エナは後光を射して、既に戦闘態勢に入っている。
「貴様、私の物に手を出すとはいい度胸だな」
宮古ハルメンはあまりにも衝撃的だったのか、胸を抑えて呼吸困難に陥っていた。
「ごほっ…ごほ、ひゅ、ひゅーッ…ひゅーッ」
それに対して、久島五十五が彼女の元へと向かい、心配をする。
「ハル姉さん、大丈夫か?」
焦燥する宮古リティは、久島五十五の頬を手で挟んで、彼の口に指を突っ込んだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃんペッてして、汚いからッ、あの女に毒される前にッ」
くちゃくちゃと、口の中を掻きまわされる久島五十五。
それでも、吐く様な素振りは見せない。
「あははっ、たった一人の男に、これほどまでに狼狽して、とーっても愉快ね」
大椿フェイランは嬉しそうに、憎悪に歪んだ笑みを浮かべる。
「本当に不快だわあ、貴方…自分が今、何をしたのか分かっているのかしらあ?」
それに対応する様に、宮古レインドールも殺意を向けて大椿フェイランを嘲笑の笑みで迎える。
「えぇ、存じ上げていてよ?彼はあと5日もすれば私のものなのだから、私の物を自由に、ぞんざいに、扱っても構わないでしょ?」
現状、入札額は2億、大椿フェイランが入札しており、依然、動く気配はない。
ならば、現状では大椿フェイランが久島五十五を落札する人物と言っても差し支えないと、そう思っている。
「そんなわけッ」
宮古エナが叫ぶ。
怒りに狂い出しそうな表情に、より一層、大椿フェイランは喜んだ。
「あぁ、素敵ね。悔しいのかしら、その表情は?とってもいいわね、その表情。もっと見させてちょうだい…、他には何をしましょうか?彼の貞操も奪ってあげようかしら?そうしたら…あなた達はもっといい顔してくれるかもしれないわね」
宮古一族を見て笑う。
宮古エナは怒り、戦闘態勢に入る。
「ふざけるのも大概にしろ、貴様ッ」
しかし、そこで久島五十五は割って入った。
この場で戦闘を始めるなど、あってはならないと言いたげに。
宮古エナを引き留める。
「まて、待ってくれみんな落ち着け、落ち着いてくれ」
彼の静止に対して、皆は一同、心は一つ。
「お兄ちゃんは黙ってて…これは私たちの問題」
「そうです、これは一族の因縁とも言えましょう」
「後悔するなよ貴様」
宮古リティ、宮古メメ、宮古エナが、狂気を宿し、大椿フェイランに手を出そうとした最中。
指を鳴らした。
それに応じて、影が伸びると共に、宮古レインドールの精鋭部隊が出現すると、宮古一族の前に立ち塞がる。
「…落ち着きさない、ここでやりあっても、仕方が無いでしょう?」
宮古レインドールが、暴走に走り出しそうになった宮古姉妹を止めた。
本当は、誰よりも、大椿フェイランに怒っているが、しかし、現状、彼女がこの宮古一族の長女である以上、彼女たちを制止させるのは、宮古レインドールの役目だった。
「案外、理知的ね、冷静だからこそ、退屈だけど」
大椿フェイランはそう言うと、踵を返した。
「何処に行くのかしらあ?」
「帰るの。丁度、代理人と回収屋も来たから…私が此処に居る意味はないのよ」
そう…、大椿フェイランが言うと、長い通路の奥から、複数の人間がやって来ていた。
宮古リティは渋々と契約を進めていく。
ストレスが限界に達したのか、地団駄を踏みながら涙目で怒る宮古エナ。
「なん、なんなんだッあの女は!!」
その怒りを、傍に居る宮古メメは頷きながら怒りを収める為に深呼吸を整えた。
「大椿一族…彼女はそのオリジナルですね」
宮古メメがそう言った。
その言葉に、ふと、久島五十五は気になって話し掛ける。
「…そういえば、オリジナルという単語だけどさ、何度も耳にしたことあるけど、詳しい内容は知らないんだよ…何なんだ、それは?」
久島五十五の質問に、今日ばかりは解説役として働いている宮古レインドールが答える。
「オリジナルとは、かいつまんで言えばクローンの元となった個体。完成度の最も高いクローンをそう呼ぶのよお」
オリジナル。
三大一族と呼ばれる人物らは、殆どがクローンとして誕生しているものが多い。
彼女はその内の一人であった。
「ダンジョンアイテムの適合率はそれは言い換えてしまえば肉体との融合率。適合率が高ければ高いほどダンジョンアイテムの効果は十分に発揮することができて、けど…それと同時に肉体と融解しているから、使用者が死亡してしまった場合、ダンジョンアイテムも喪失してしまうという事案が発生するようになったのお」
基本的に、ダンジョンアイテムは使用者と契約して、肉体と同化する。
適合率が高ければダンジョンアイテムの効果を発揮しやすいが、使用者が死亡した場合は、ダンジョンアイテムもロストする危険性があった。
「そのダンジョンアイテムの喪失を阻止するために計画されたのが、所有者の遺伝子とダンジョンアイテムを融合させる事で生まれるデザインベイビー…『DB計画』なのよお」
ダンジョンアイテムを、自らのクローンに引き継がす事で、強大なダンジョンアイテムのロストを防ぐ。それが『DB計画』の本質だ。
「ダンジョンアイテムは血族の譲渡は出来ないから生まれた発想、同じ遺伝子を持つ人間であれば引き継ぎは可能となっているのよお」
彼女の言葉、宮古レインドールの目を見ている久島五十五は不思議そうに首を傾げる。
「それはオリジナルっていうのか?どちらかと言えば、コピーじゃないのか?」
その疑問に対して、宮古レインドールは説明する。
「そうねえ…例えば演劇、主人公の役を得た俳優が、主人公の役を演じる、また別の演劇では、同じ主人公の役があって、けど俳優が違う。でも、主人公としての役を得ている以上は、その俳優は主人公の役として扱われるのよ、ダンジョンアイテムを所持していればオリジナルと認識されるのよお」
水道管が存在する。
その役割は、A地点にある水を、B地点へと届ける事。
当然消耗品なので管は経年劣化する。なので、管は交換される。
その時点で、元々の水道管はまったく別のものとなるが、A地点からB地点へと水を届けると言う役目は変わらない。
それが、ダンジョンアイテムと使用者の関係と見ればよい。
使用者は水道管であり、クローンは新しい水道管。
ダンジョンアイテムが、水そのものなのだ。
「しかしこの計画にも一長一短というものがあるの。長所をあげれば、遺伝子情報があれば何体でも作れるということ。…短所をあげるとすれば適合率が低ければオリジナルとしては認められない駄作、量産が生まれてしまう」
宮古レインドールは周囲を見渡して寂しげに笑みを浮かべる。
「私たち、宮古姉妹は、量産型ってワケねえ」
彼女たちは、オリジナルとは呼べぬ、量産品でしかなかった。
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